「お久しぶりです」
そう言って君は事業所の玄関のドアを開けた。
声を聞いた僕たちは、みんな手を止めて振り向いた。
ここは障害者が社会に出るための練習を兼ねた、
障害者が働くための作業所だ。
君はこの作業所の卒業生だ。
君がここを旅立ってからもう三年になる。
そんな君がなぜ今になって突然訪問してきたのか疑問だ。
「久しぶりだね。元気にしてたかな?」
そう言ったのはこの作業所の責任者である坂原さんだ。
「今日はお願いがあってきたんです」
「何かな?」
君の目は泳いでいる。
簡単に言える頼み事ではないらしい。
「私の働いている本屋さんで人が足りなくて、この作業所の利用者さんを誰か一人寄越してほしいんです」
坂原さんも他の職員も驚いていたが、利用者の僕たちが一番驚いていた。
なぜなら、障害者は特にパートでも
働き口を見つけるのは、かなり困難だから。
われ先に他の利用者が立候補して君に向かう。
しかし、君の求めている人材と立候補者は合わないらしい。
君は一人の女の子に近づいた。
ほとんど誰とも話さない、うつ病の子だ。
「あなたに来て欲しいの。あなたにポップを作ってもらって宣伝してくれないかな?」
「ま、まさかその子には無理だよ」
誰もがそう思った。
でも、坂原さんは止めずに賛同した。
「彼女には人を惹きつける文章が書ける。みんな知らないけど、一度だけキャッチコピーの公募で入賞したことがあるんだよ」
僕たちは驚きを隠せない。
彼女の可能性を僕たちは奪おうとしていた。
それが障害者に対する偏見だった。
「障害者だから、これは出来ない」と。
選ばれたその女の子は笑顔で承諾した。
もちろん、君のサポート付きでの契約だが、
その子のセンス溢れるポップで売り上げは上昇したと
坂原さん宛にメールで報告してきた。
君のあの訪問を機に僕は社会で働くことの恐怖を少しずつ払拭し、勇気を持てた。
8/29/2024, 6:06:56 AM