「僕と一緒に結婚してください!」
生涯一度や二度あるかないかのセリフに私は心が躍る
プロポーズしてくれた彼は、私が長年片思いをしている幼なじみだ。
いつもドジばっかりして危なっかしい子だと思っていた。
でも、写真だけはプロ並みに長けている。
彼が撮る写真はいつも空だけ。
私は彼が撮るフィルターを通した夕焼けの写真が好き
オレンジとピンクのコラボレーションが見事な風景に
カップルがハートを手で作っている黒いシルエットが
遠近法で重なって写っているその写真が圧巻だった。
条件が合えば誰にでも撮れそうなその写真が、
彼しかない魅力があると思った。
だけど、そのカップルの片割れは私ではない。
言い換えればそのカップルの片割れは
彼の本当のプロポーズの相手。
私にあのセリフを言ったのは、ただの練習だった。
じゃあ、ハートを作っているもう一人は?
と誰もが疑問に思うだろう。
それは彼が思いを寄せていた彼女の彼氏。
つまり、幼なじみは振られた。
わかっていながら彼女に振られた幼なじみは、
その彼氏に花を持たせた。
幼なじみの愛を断った女性と彼氏の二人の記念写真を
皮肉にも私はどんな写真よりも好きだ。
「もう、あさってはありません。明日で世界が終わります」
気象庁が笑える冗談にもならない予言をした。
そして、テレビの中の彼は続ける。
「なぜなら、地球温暖化がピークに達して地球が爆発するからです。
地球が爆発すれば私たちの『人生』はあっけなく宇宙のチリとなって一粒一粒の星になるでしょう」
「拓也、私たち宇宙のチリとなっても一緒にいられるかな?」
佳澄が言ったため息のようなその願い事に対して俺は
「チリになっても記憶は残るよ」
「そうだよね!それだけ私たち愛し合ってるもんね!」
「うん」と俺は言葉にならない返事をした。
佳澄は「明日、どこかにいこーよ!」
と言って俺の腕を引っ張る。
「なんで?」俺は面倒くさそうに言う。
「だって、明日で世界が終わるんだよ?
だったら、いろんなことを目に焼き付けたい」
俺は佳澄の言う『明日で世界が終わる』という、
気象庁の予言を間に受けるところが嫌いだった。
当たり前に来る明日と当たり前に来ないあさっては
どう違うのかわからない。
自分が死ぬならともかく、地球が爆発するなんて想像できない。
もし、本当に地球が爆発して世界が終わるなら、
俺は佳澄と月に行きたかった。
月に住んでいるうさぎになりたかった。
「ねぇ!拓也!」
「そんなに言うなら、俺と宇宙へ行こう」
「えっ?先に宇宙のチリになるの?」
「違う。月で一緒に見知らぬうさぎになろう」
佳澄は目を丸くした後、
「荷物っているのかな」と真顔で言った。
青春時代をテキトーに過ごして来たせいか
今の俺はひとりぼっちだ。
誰かが作ったマニュアルを当たり前のようにやり過ごした。
そのマニュアルは王道の生き方だった。
友達を作ってみんなで遊んだり、時には傷つけあった。
好きな子ができて、初めてを経験して恋を知った。
そして必死になって勉強して、二度の受験を経験した
大学に入ってからも同じやり方を慣れた手つきで操作した、つもりだった。
中学や高校とは違って、
大学生にはやりたいことが無数に枝分かれしていた。
サークル、研究、アルバイト、夢への努力。
みんなそれぞれ自分のマニュアルを持っていた。
だから、俺はひとりぼっちだ。
そんな俺のため息を独自のマニュアルに変えてくれた人が現れた。
その人は、俺の知らない同級生だった。
その人は、俺をよく知る同級生だった。
同じ高校だった(らしい)のに、
俺に恋をしていたと言うのに、
俺は知らなかった彼女のこと。
目立つ華やかな雰囲気の花しか気づかず、
雑草に紛れた名の知れない花は見てなかった。
そんな彼女を俺は大切にしたい。
心から、そう思った。
やさぐれた大学生活に四葉のクローバーをくれた人が
彼女だったから。
俺のマニュアルは彼女のマニュアルでもある。
そう信じた俺は彼女と大学生活を謳歌した。
もう、俺は一人きりではなく、守るべき人がいる。
いつも何か新しいことに挑戦する時、
私はよくドリッパーとペーパーフィルターを使って飲んだレギュラーコーヒーを思い出す。
初めてすぎてドリッパーの使い方もフィルターの向きも
何もかもが私を混乱させた。
そのくせに「大人っぽいことをしてるな、私」と
少し背伸びしたようなあの頃のダサくて幼稚な思想が浮かんだ。
でも、あの時のその手段が一つの知識になったことに
なんとなくだが誇りを持っている。
今までに得た、知識かつ経験が新しい何かに挑戦する私を後押しする。
夢を叶えるなら、
もっと沢山の新しいことに挑戦しなければらない。
挑戦にまとわりつく失敗もやり遂げた達成感も
夢を叶えたい私にはもってこいの材料だ。
夢という料理は壮大で自由だからこそ難しい。
私は即席のドリップコーヒーよりもおいしく得られる
苦労の味を知っている。
その味は叶えた夢を味見するのにちょうどいい。
憧れの作家の詩集のページをまた一つめくっていく
紡がれる言葉たちは規則正しいようで正しくない
でも、あの人が語る物語のような流れるメッセージは
読む人の心の天気によって色が変わる
だからこそ、私はあなたの言葉の声が好きです