ネジが外れたウサギ

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ある日。

一人で何かを呆然と観る母を見て私は罪悪感を覚えた

母の頬に涙の跡が見えたからだ。


母子家庭で親子二人三脚となって頑張ってきた私たち

私は母に迷惑をかけまいと学校での出来事よりも

好きな映画について母を楽しませた。


母と私は月に一度、映画を見ることを慣習にしている

母を労う気持ちと心の休息も相まって

二人で映画を見に行くのは何にも代え難い。

友達と見に行くのも楽しいけど、

映画を見終わった後に本音の感想を言えるのは

母しかいない。


涙を流している母の肩にそっと手を置く。

母は恐る恐る顔を上げて「おかえり」と言った。

「ただいま」の言葉より私は真っ先に「大丈夫?」

と言ってしまった。


母は申し訳なさそうに、こう言った、

「お母さん、白内障になっちゃった。ごめんね」

頭が真っ白になった。

手術すれば治る病気だけど、不安の波が襲いかかる。

母はこう言った。

「今月の映画は見に行けるけど、

 来月は無理かもしれないんだ。本当にごめんね」

何かを握った右手と空っぽの左手を顔の前で合わせる

そして、涙の跡が映画の件ではないことと、

私の不甲斐なさではないことを私は認めた。


そう、母は目薬をさしていた。

涙ではなく流れた目薬をティッシュで拭かずに呆然としていた

白内障を患ったことに

母は私より不安の布団を被って放心状態だっただろう


「手術が無事終わったら、また見に行こうね」

最後に「私のおごりで」と付け足して私は言った。

7/27/2025, 6:36:40 AM