明日、バスケ部のインターハイの決勝戦がある。
私は美術部だし、バスケ部に友達はいない。
だけど、優勝のあの約束を交わした彼がいるから
すでに今からドキドキが止まらない。
あの日、あんなことが無ければ今頃何をしてたのか。
今でも運命というものに少し憎しみを抱く。
私は体育の授業中、転んで膝を擦りむいた。
校舎の前にある水道で
痛みを我慢しながら流水で流している時、
彼は声をかけてきた。
「痛そうー。大丈夫?保健室まで連れてくよ」
その優しさで心に水がしみた。
お姫様抱っこやおんぶとかしてくれるって言ったけど
恥ずかしいから、肩を借りた。
そこから保健室までそんなに距離はないはずなのに
やけに遠く感じる。
きっと、この熱い鼓動のせいだ。
保健室に着いて彼に礼を言った。
「君に話があるから先生に手当てをしてもらうまで
ここにいてもいいかな?」
彼はそう言って保健室の前の廊下で鼻歌を歌っていた
(話ってなんだろう)
そう思えば思うほど鼓動は熱く、さらに速くなる。
廊下に出ると彼はなぜか子犬のようにしっぽを振って
私を笑顔で出迎えた。
「話って何?」
「俺さ、ずっと見てたんだよね」
「え?」
「いつも体育館の二階でスケッチブックを持って
真剣な目で何かを描いてる君を」
(その、理由を、言わなきゃいけないのかな)
私の目は泳いでいただろう。
彼は私の目を見て微笑みながら返事を待っている。
「いいよ。何を描いてるか無理に言わなくても。
ただ、その絵を見たいなって思って」
私の鼓動はピークを達していた。
もう無理だ。
「ご、ごめんなさい。私、授業に戻らなきゃ」
そう言って踵を返した時、彼は私の腕を掴んだ。
「あのさ、俺。今年の夏休みが最後のインターハイなんだ。
ある約束してくれたら、もっと俺頑張るからさ。
ダメかな?」
「約束?」
「君がいつも誰の絵を描いてるか知りたいんだ。
優勝したら俺に絵を見せてほしい。
君の傑作でいいからさ」
私は笑顔で頷いて「頑張ってくださいね」と言った。
7/31/2025, 6:36:14 AM