ネジが外れたウサギ

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8/29/2024, 6:06:56 AM

「お久しぶりです」
そう言って君は事業所の玄関のドアを開けた。
声を聞いた僕たちは、みんな手を止めて振り向いた。

ここは障害者が社会に出るための練習を兼ねた、
障害者が働くための作業所だ。

君はこの作業所の卒業生だ。
君がここを旅立ってからもう三年になる。
そんな君がなぜ今になって突然訪問してきたのか疑問だ。

「久しぶりだね。元気にしてたかな?」
そう言ったのはこの作業所の責任者である坂原さんだ。

「今日はお願いがあってきたんです」
「何かな?」

君の目は泳いでいる。
簡単に言える頼み事ではないらしい。

「私の働いている本屋さんで人が足りなくて、この作業所の利用者さんを誰か一人寄越してほしいんです」

坂原さんも他の職員も驚いていたが、利用者の僕たちが一番驚いていた。
なぜなら、障害者は特にパートでも
働き口を見つけるのは、かなり困難だから。

われ先に他の利用者が立候補して君に向かう。
しかし、君の求めている人材と立候補者は合わないらしい。
君は一人の女の子に近づいた。
ほとんど誰とも話さない、うつ病の子だ。

「あなたに来て欲しいの。あなたにポップを作ってもらって宣伝してくれないかな?」

「ま、まさかその子には無理だよ」
誰もがそう思った。
でも、坂原さんは止めずに賛同した。

「彼女には人を惹きつける文章が書ける。みんな知らないけど、一度だけキャッチコピーの公募で入賞したことがあるんだよ」

僕たちは驚きを隠せない。

彼女の可能性を僕たちは奪おうとしていた。
それが障害者に対する偏見だった。
「障害者だから、これは出来ない」と。

選ばれたその女の子は笑顔で承諾した。
もちろん、君のサポート付きでの契約だが、
その子のセンス溢れるポップで売り上げは上昇したと
坂原さん宛にメールで報告してきた。

君のあの訪問を機に僕は社会で働くことの恐怖を少しずつ払拭し、勇気を持てた。

8/28/2024, 4:31:31 AM

カフェの外は強い風と共に強く大粒の雨が降っている。

道ゆく人々は皆忙しく歩いている。


今、私はその嵐の天候のような境地にいる。

目の前の男は鋭い北風のような眼で私を睨んでいる。

彼は元夫だ。

結婚している当時、

私たちの間にできた一人娘の親権を奪おうとしている。


私と娘は酒豪の暴力男から逃れるために離婚した。

その理由も理解せず元夫は

娘だけでも手元に置こうとしている。


元夫は口を開く。

「俺になぎさを返せ」と。

私も口を開く。

「もうあの子を危ない目に合わせない」と。


娘の連絡先をしつこく求めてくる元夫の顔に

コップの水をかけた。


「らちが開かない」

そう吐き捨て、私は千円札を一枚置いて店を出た。


外は相変わらずゲリラ豪雨だ。

あんな男に惚れたあの頃の自分を悔やみながら

私は傘をさして雨の中でぼーっと突っ立っていた。

8/27/2024, 6:35:19 AM

今日のような未来をあの頃は予測していたのだろうか

そんなことを思うことが今日、職場であった。


直属の上司の方が
「エクセルでうまく印刷ができない」と
困っているところに
ちょうど、私がきたらしい。

私がマウスを借りて設定を変えたら
思い通りに印刷ができて、とても喜んでもらえた。


こういう時のために学生時代は
パソコンの資格を取得していた。

しかし、心を病んだあの日からその夢は消えた。
と思っていた。

あの頃は仕事に就くこと自体、雲の上のような話。


その悪夢の絵を塗り替えたのが、
「働きたい」という小さな言葉だった。


今日に限ったことではなく、
パソコンの知識が活かせるからと、
商品のpop作りも少し前から頼まれている。


資格を取得することに努力を積み重ねていたあの頃と
働くという希望を失い、生きるのも億劫だったあの頃

諦めなくてよかったとそれらの頃の私に言いたい。


「こんなの無駄だよね」
って思う事なんて沢山あった。
でも、いつかは役に立つ未来がやってくる。

自分では想像のつかない未来が。


日記として今日までを振り返ってみた。

8/26/2024, 6:25:32 AM

一つのイガの中で栗である僕たちは

向かい合わせで住んでいる。


与えられた家のようなイガの中で

笑いながら話をしたり

どうでもいいケンカをしたり

慰め合ったりした。


人間によってイガをむかれたあの日

僕たちは離れ離れになった。


「誰かの糧になるなら私たちは生きてきた意味がある。
私は幸せだった。あなたとの暮らしは私の栄養だよ」


君は人間に連れていかれる間際に笑顔でそう告げた。


僕は君の言ったあの二言を自分の糧に変えて、

栗という自分の役目を果たすことを心に決めた。

8/25/2024, 8:16:41 AM

誰でも挫折の一度や二度なんてザラにあると思う。


私は自慢にしたくないくらい、挫折してきた。

いじめられて心を殺され、
失恋して自分の思い上がりに悔いて、
誇りある仕事を奪われ、居場所もなくし、無職に。

そんなことばかりで
涙で広い湖を作り、やるせない気持ちを沈めていた。


そんなことでがあっても私は生きてる。

自分を心配してくれる人がいる。
自分を楽しませる言葉がある。
自分の好きなもので表現して自分を魅せられる。

だからこそ、前を向いて
「次」を探しに行く。

だからこそ、やるせない気持ちが
原動力への変え方を教えてくれた。


誰にでも成功は無限に存在すると思う。

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