君との出会いは海の家だった。
誰かを待っているのか、
それとも一人で海に来たのか。
理由はわからないが、君は一人だった。
声をかけようか迷ってるうちに、
一緒にいた女好きの友達の亮太が声をかけた。
君はドキッとする。
そして、君は泣いている。
慌てふためく亮太をどけて、俺は君の頭を撫でた。
君は言う、「怖かったの」と。
亮太は必死に謝るが、君は違うと言った。
君はある男から逃げるためにこの海の家に来たらしい。
その男の声に亮太の声が似ていたのが
君を恐怖に陥れてしまった。
俺たちは君を匿うために俺の家に連れて行った。
事情を聞くと俺は条件付きで君と付き合うことにした。
条件。
それは、俺の妹として生まれ変わったことにすること
さよならを言う前に君に渡したい物がある
それはミニチュアの本
何かに行き詰まった時はその本を開いてみて
たった一言の「悲し涙はサボテンの花を咲かせる」が
君にも奇跡を起こす道標になるから
鏡の向こう側に行ったらどうなっているのか。
ふと考えたことがある。
しかし、鏡に映っているのは今の私の偽物。
その偽物が実はいないはずの双子のような人ならば
私は彼女に「入れ替わりたい」と誘ってみる。
彼女にとってこちら側の私は、鏡の向こう側だ。
だから、自分と同じ考えを持っているなら好都合。
文字や物が反転して見える世界は、
どこまで反転するのだろう。
人の恋心も逆ならば、私は向こう側の彼を探そう。
思いがけない世界を向こう側の私は楽しんでいるから
「お前はどこに行ってもいじめられる」
それは学生時代に付き合っていた元彼の一言。
なぜそんなことを彼は言ったのかというと、
私が過去のいじめの話をしたからだ。
私は彼に会うずっと前、
幼稚園の頃からいじめっ子に目をつけられていた。
それから私は彼女(いじめっ子らのリーダー)を通して
高校を中退するまでいじめられ続けた。
原因などわからない。
だけど、何かが彼女にとっては気に入らなかった。
何を正せばいいのかわからないまま私は
心を病んだ大人になった。
同じような障がい者として当時の彼は
私に生きる術を教えてくれた。
「あなたがいじめられたのは、
人の話を聞くよりも自分のことしか話さないから」
そう言われてみれば、そうだったと思った。
だから、相手の気持ちを汲み取って話題を作った。
それが今にも生かされている。
元彼があの時言った通り、
私はその後も別の人たちにもいじめられた。
でも、職場のいじめの原因は明らかだった。
だからこそ、自分から必死になって解決に勤しんだ。
そして、今がある。
来月になれば入社して二年になる。
そんな私の誇らしさ。
それは、いじめに耐え抜く力と解決策を練る勇気。
逃げなかった私は最近では、
職場で従業員と「ありがとう」を交わしている。
友達に裏切られ親とケンカした日の夜。
遺書みたいな手紙を入れたウイスキーの瓶を持って、
全てを投げ出したくなって家を飛び出した。
たどり着いた海の砂浜に、大きな亀が休んでいる。
「竜宮城に連れて行ってなんてことは言わない。
ただ、もし良ければ楽になれる場所を教えて欲しい」
と亀に言いたかった。
亀が動かないから、不安になって声をかけた。
「生きてる?」
亀は少し頭を動かして、こちらを見た。
ボーっとしてるだけだと思い、安心した。
持っていたボトルメールをどうしようかなと思いつつ
時間を忘れて私と亀は共に夜を過ごした。
水平線にオレンジの線が顔を出してきた明け方。
うたた寝をしている間に、気づいたら亀はいなかった。
あの亀はなんだったのだろうか。
でも、私に何も問いたださない無口な亀に感謝した。
気をもむことがない昨夜と亀は、私の疲れを癒した。
持っていたボトルメールを流さないまま
私は帰路についた。