道を塞いでいる、漆黒獣の頭を射抜く。
人型だったおかげで、獣型より頭が狙いやすかった。
弓をしまい、全速力で走り出す。
ずっと会えなかったあいつに、会うために。
月が太陽に、太陽が月になったこの世界。
相変わらず気味が悪い 自然と鳥肌が立つ
走っていると、赤い山が見えてきた。
「なんだ、あの山。気持ち悪りぃ」
スポンジで血を吸ったかのような色
木々は枯れ、死臭がする。
俺の友達が、ここに居るはずだ。
周囲を見渡しながら、山の中に入る。
「風真ーー! どこに居るー!」
鳥が居たら逃げ出すような声を出して、探す。
返事が来ず、もう一度大声を出そうとしたその瞬間。
後ろから物音が聞こえる
振り返ると、獣型の漆黒獣が、俺に噛みつこうとしていた。
まずい 間に合わない
死を覚悟した瞬間、漆黒獣が横に真っ二つになった。
声も上げないまま、その漆黒獣は霧となり消える。
「あんな大声で探してたら、あいつらに位置を教えてるようなもんだろうが。」
俺の探していたやつが、歩いてくる。
相変わらず、トゲトゲしたような性格が髪に現れている。
目に優しそうな緑の髪色で、身長より大きい黒い鎌を持っていた。
「風真!」
「少しは反省しろ ここはあいつらの領地だぞ」
「ご、ごめん…」
「で?なんで俺を探してた」
「あぁ、それなんだけど、実は…」
説明をしようとしたその時、遠くから遠吠えが聞こえた。
声の方角を見ると、さっきの獣型が群れをなしていた。
今にもこちらに襲いかかってきそうだ
「おいおい、これやばくないかぁ!?」
「流石にこの数は無理だな 沢海、逃げるぞ。」
こうして、裏世界で巡り会えた俺らは、漆黒獣から逃げようと走る。
まるで、あの通り雨の時のように。
お題『巡り会えたら』
目の前には、地獄絵図が広がっていた。
私達の家は燃え、両親は化け物に殺された。
そして私は、瓦礫に挟まれ動けない。
「お姉ちゃん!!」
妹の雪が、私に助けを求める。
妹は、漆黒の化け物に担がれ、攫われようとしている。
足をバタバタと動かし、抵抗するも、がたいの良い化け物にはびくともしない。
なんとか助けようと、体を動かす。
瓦礫が体に食い込み、気を失いそうな痛みが、痛覚を刺激する。
正直、意識を保ててるのは火事場の馬鹿力のおかげだろう。
だが、立ち上がれない。助けられない
助けを求める雪の顔が、目に焼き付く。
助けたい 助けたい 助けたい!
あの時、暗闇の世界で助けてくれた彼のように、
今度は私が雪を助けるんだ!!
もう使い切った火事場の馬鹿力を、もう一回発動させようとする。
無理に起きあがろうとして、体中から血が流れる。
きっと側から見たら、そうとうグロいだろう。
(もう一回、もう一回だけで良い。だから
あの時の奇跡をもう一度!!)
強く願ったその瞬間
私は暗闇の中にいた
この世界の闇、裏側。全てを知り、背負う覚悟は決めたか?
体に響き、低く、重い言葉が聞こえてくる。
(それで、雪を救えるのなら。)
そう、答えた瞬間。
暗闇から抜け出し、元の世界に戻った。
相変わらず、辺りは燃えており、目の前で連れ去られそうになっている雪の姿が見える。
今なら助けられる
謎の自信があった
病弱で、まともに外へ出かけられない私が。
ぐっと体を起こすと、さっきまで起きれなかったのが嘘のように、立ち上がれる。
瓦礫の重さが、発泡スチロールのように軽かった。
雪は驚いているようだ
化け物も流石の異常さに、こちらを振り向く。
その間に、私は虚空から薙刀を取り出していた。
一体どうやったのか、分からない。
ただ、手を握るように、自然と出来てしまった。
薙刀は、夜空の色で浸けたような、漆黒の色だった。
その薙刀で、化け物を攻撃しようと、踏み込む。
こうすれば死ぬ 何故か直感で分かった
私は、薙刀を素早い速度で横に振り、攻撃する。
化け物は反応する間も無く、横に真っ二つになり、霧のようになり、消えた。
担がれていた雪が、地面に落ちる。
「雪!」
私は、雪の元に駆け寄ろうとするが、足がもつれて転んでしまう。
手から薙刀が離れ、薙刀は虚空の中に消えてしまった。
「お、お姉ちゃん!」
体勢を整えながら、雪が駆け寄ってくる。
視界がだんだんとぼやけてくる。
雪の声が微かに聞こえてくる
まぶたが岩のように重い
そのまま、私は意識を無くした。
お題『奇跡をもう一度』
濡れた髪を払いながら、オレンジ色に染まった道路を歩いていく。
通り雨が降ったにも関わらず、空はそんなことなかったかのように晴れ晴れしていた。
「さっきの雨、本当になんだったんだろ…」
自身の体を濡らした雨に、少し苛立ちながら曲がり角を曲がる。
(そういえば、沢海君。大丈夫かな)
友達の沢海君
クラスの人気者で、いわゆる陽キャと呼ばれる人間だ。
僕みたいな陰気な人間とは、話してもくれないと思っていたけれど、今では一緒に遊ぶ仲だ。
だが今日、そんな沢海君が、少し曇った顔をしていた。
いつもは、迷いとかそんなものが存在しないような人間なのに。
(なんか、悩んでることでもあるのかな…
まぁ、明日聞けばいっか。)
自問自答をしながら、神社の横を通る。
その時
キュン!!
「うわっ!」
急に何かの鳴き声が聞こえ、思わず尻もちをついてしまう。
びっくりして、思わず声が出てしまった。
声が聞こえた、後ろを振り返るとそこには、
白い狐がちょこんと座っていた。
「え、え!?狐!?」
狐が出るほど田舎ではない筈なのだが、当たり前のようにその狐は座っていた。
「嘘…どうしよう、野生?でも、この辺に住めるような森とか無いし… 誰かが飼ってるとか?」
僕が尻もちをついた状態のまま、頭をかき混ぜて考えていると、狐がまた可愛く鳴いた。
「あ、可愛い… 実物の狐とか初めて見るな」
狐と目を合わせようと姿勢を低くする
まだ誰にも触れられていない雪のような白色で、赤色の目をしている。
「白い狐っているんだ…凄い」
僕が珍しそうに狐をまじまじみていると、その狐がにんまりと笑った。
「え」
口が人間のようになり、口角をあげる。
白かった毛並みは墨汁の色に染まり、体がドロドロと溶けていく。
元の姿が狐とわからないほどドロドロになり、スライムのようになる。
そしてそれは、段々と人のような形を作り始める。
子供が白いクレヨンで描いたような顔が、不気味に笑っていた。
僕は身動きが出来なかった
怖くて怖くて堪らないのに、叫び声をあげて逃げ出したいのに、体に釘を打ち込まれたように動けない。
目の前の化け物が、ドロドロの手で僕を掴もうとする。
もうダメだ 走馬灯が見え始めたその時
目の前の化け物が綺麗に真っ二つになった
切られたところから体が燃えていき、苦しそうな呻き声をあげる。
そして、全てが燃え、怪物はいなくなった。
突然の出来事すぎて、頭も声も壊れた僕の目の前から、刀を持った20代ぐらいの女性が歩いてくる。
桜色のボブカットで、灰色のスーツを着ている。
右手には刀を持っており、持ち手はさっきの化け物のような黒色だが、対をなすように刀身が無い。
「君、大丈夫?」
「あっ…えっと、だい、じょうぶ…です」
「いや、大丈夫じゃないでしょ。腰、抜けてるし。」
呆れながら、僕に左手を出してくる。
その左手を借りて、ようやく立ち上がる。
「あ、あの…助けてくれたんですよね?
ありがとうございます!」
怖い先輩ぐらいにしかしたことのない、深いお辞儀をした。
「あーいいよ そーゆー仕事だから」
「仕事?」
一体何の仕事だったら、こんなことをするんだろう。
「ていうか、やっぱり薄明時はいっぱい出てくるなー
こりゃあ被害も出るわ。」
女性はぶつぶつと独り言を呟く
「あ、あのーこれっていったい…」
「あー…そこらへん後で教えてあげるから…よいしょっと!」
「うわ!?」
女性が刀を空中に投げると、刀が消える。
刀が無くなり、フリーになった手で僕をお姫様だっこで持ち上げる。
「な、なんですか急に!」
「ほれ、後ろ見ろ後ろ」
「え?」
後ろを振り向くと、さっきのような化け物がぞろぞろと近づいて来ていた。
「い、いっぱい来てる!!」
「そういうことだから、取り敢えず逃げるぞー」
女性は僕を抱えながら、走り出す。
「ちょっと!お姉さん!本当にこれ、どういうことですか!?」
「走りながら説明出来ると思ぅ?」
「た、確かに…」
「あと、お姉さんじゃない。」
「私の名前は優花 君の名前は?」
戸惑いながら、僕は答える。
「僕は、優人。草薙優人です」
黄昏時のこの瞬間から、僕の物語が始まったんだ。
空想の世界にありそうな、ありきたりな物語が、本当に現実になってしまうなんて、この時は思いもしなかった。
お題『たそがれ』
「どうせ明日も変わらないよ」
一緒に歩いていた親友に、マイナスな言葉を投げつける。
「うーんそうかな?
もしかしたら宝くじとか当たるかもしれないし〜」
親友は私の放った言葉をものともせず、軽い足取りで前を歩いていく。
「というか梨花(りか)、それ口癖だよね。」
「まぁ、実際そうだし。」
足元にある石を蹴りながら、私は言葉を続ける。
「朝起きて、雪とこの河川敷で合流して、学校に行って、つまんない授業受けて、雪と一緒に帰る。」
「平和で良いことじゃん」
「これの繰り返しだよ?つまんないよ」
向かい側に見える高校生達を羨ましいそうに眺める
「バイトも出来ないし、部活も入ってないし、お小遣い少なくて、外食とか出来ないし。」
「部活すれば良いじゃん 運動部とか、ダイエットになって良いかもよ〜?」
舌足らずな喋り方で、雪は提案する。
相変わらず前向きだ
「今更部活は無いよ。もう2年だし、来年には受験で参加出来ないんだから。」
「うーん 梨花、変える努力しなさすぎ〜」
口を尖らせながら、困った顔をする雪。
確かに、努力をしていない。といえばそれまでだ
だけど、どんなに努力をしても、未来は変わらない。
そう思ってしまう
「どんなに努力しても変わらない。とか思ってんの?」
「え」
自身の考えを読まれたのかと思った
少しだけ鳥肌が立つ
「ふっふーん 親友だからね分かるよそのぐらい」
手を腰に当て、自慢げな顔をする。
「でもさ案外…」
続きを言いかけた時、学校のチャイムが鳴る。
「あ!やべやべ遅刻するぅ〜梨花、急ぐよ!」
「あ、ちょっと待って!」
私達は学校に間に合うよう、全速力で走った。
時間は流れて午後
昼食を食べ終わり、眠くなる頃合い。
授業の科目は社会科だった
先生が教室に入ってきて、いつも通り号令をし、いつも通りつまらない授業を始める。
と、思ったがどうやら今日は違うようだ
教室に置いてあるテレビを動かし、コードをパソコンに繋ぐ。
「さて、今日の授業はいつものとは違うぞ。
今日は、今から見せる動画を見て。感想をプリントに書いてもらう。ただ、それだけだ。」
説明しながら、プリントを先頭の生徒に渡す。
前から回ってきたプリントに目を通すと、感想を書く四角の囲いがあるだけの、簡素なレイアウトだった。
「それじゃあ、早速流すぞー」
教室の電気を消し、パソコンをカタカタと操作する。
数秒の内、動画が再生される。
めんどくさい そう思い、適当に見ようとぼーっと眺める。
しかし、目に入ってきた情報が、脳を活性化させる。
私と同じ顔をした人が写っていたのだ
色は白黒で見えづらいが、はっきりと同じ顔だということが認識できる。
雪の方を見ると、案の定驚いた顔をしていた。
流石に動画の内容が気になり、真面目に動画を見始める。
内容は、昔起きた災害をまとめ、注意喚起などを促した動画だった。
私と同じ顔をした人は、周りに瓦礫が散乱し、そこで立ち尽くしていた。
服装は昔のものだし、年齢も違うだろう。
だが、髪型や顔の形、目の形、何もかもがそっくりだった。
時間はまた流れて、放課後。
あの授業は結局、そっくりな顔の人の事をずっと考えていた。
今も、あの女性の事を考えながら、河川敷を歩いている。
「あの女の人、梨花にそっくりだったね〜」
隣を歩く雪も、気になっているようだ。
「先祖とかそういうのなのかな?見たことあるの?」
「いや、見たことない。というか、興味なかったから見てないって言った方が正しいかも。」
自身の記憶を辿りながら、話す。
やっぱり、覚えが無い。
動画の内容的に、大正時代らしい。
「家帰ったら、お母さんに聞いてみようかな。」
「うん、聞いて聞いて〜なんか分かったら教えて!気になるし」
こくりと頷き、黄昏の道を歩いていく。
「そういえばさ、朝言えなかったこと、今言ってもいい?」
「うん」
「あのねー梨花さ、どうせなにも変わらないって言ってたじゃん。」
「でも、案外急に変わっちゃうのかなって。」
雪が立ち止まり、言葉を続ける。
「良い意味で変わるのも、悪い意味で変わるのも。
どっちも起こる可能性ってあるわけじゃん」
「今日見た動画はさ、その悪い方が来ちゃって、ああなったわけじゃん。」
「うん」
雪の言葉を噛み締めながら、雪の隣に立つ。
「私達が生きてるこの今も、同じことが起きるかもしれない。」
「そう考えたらさ、何も起きないこの平和な時が変わらないのって、良い事なんじゃないのかな。」
目をいつもより大きく開き、雪を見る。
そんなこと考えたことがなかった
真後ろから、急に話しかけられたような。そんな感じだ
「それにさ、どうせ明日も変わらない。じゃなくて」
「きっと明日も変わらない そっちの方が良くない?」
「きっと?」
「そっちの方が、ポジティブじゃん。」
想定外の理由で、笑ってしまう。
「え〜笑うとこあったぁ〜?」
「いや、なんか急にギャルっぽくなったから。
さっきまで真面目だったし」
「ギャルは真面目にもなりますぅ〜」
雪は前を歩きだし、背中を向ける。
「さーてそろそろ帰ろ〜 お腹空いてきちゃった」
バックを振り回し、スキップしながら進む。
その背中を見て、ふと、思う。
この光景は、きっと明日も変わらないんだろうな。
お題 『きっと明日も』
少し開けた窓から、秋の虫たちの演奏が聞こえてくる。
外は暗闇に包まれ、人々は深い眠りについている時間。
そんな時間に、俺は目を覚ましていた。
別に夜型の人間という訳では無い
朝に起き、朝食を食べ、学校に通い、部活をした後に家に帰る。そして寝る それの繰り返しだ
このまま起きていたら、それが崩れてしまう。
そんな事は頭で分かっていたが、活性化した頭が寝る事を許してくれない。
「何か飲もう」
虫たちの演奏よりも小さい独り言を呟き、むくりと体をおこす。
家族を起こさないよう、慎重に歩きながらキッチンまで辿り着き、冷蔵庫の中身を漁る。
「確か、ホットミルクとかが
寝る前に良かったんだよな…」
牛乳を取り出し、カップに注ぐ。
電子レンジにカップを置き、適当に温める。
静かなため息を吐き、近くに置いてある椅子に腰を下ろす。
「俺がホットミルクとか…
あいつらに言ったら笑われるだろうな。」
不意に、いつも一緒に居るやつらの事を思い出す。
部活が同じで、クラスも同じ。
いつの間にか仲良くなって、一緒につるんでいる。
今日は通り雨に降られ、びしょ濡れになりながら帰ってきた。
「あいつらは、俺のことどう思ってるんだろ……」
まるでその言葉に答えるかのように、温め終わった合図が鳴る。
温かくなったミルクを取り出し、リビングへ向かう。
ソファに座り、ホットミルクを少し飲む。
優しい味が、夜風で冷えた体を温める。
「俺は、チャラ男を演じきれてるのか?」
カップを机に置き、独り言を呟く。
いつの間にか、秋の演奏は聞こえなくなっていた。
まるで、自問自答を邪魔しないように、息を潜めているかのようだ。
「俺は…もう…あんな思いは…」
静寂に包まれたからなのか、自身の負の感情が溢れ出す。
昔の嫌な思い出が、フラッシュバックする。
弱虫で、ゴミで、サンドバッグにもなれなくて、虫よりも立場が低いかのように扱われた、あんな日々。
そんな嫌な思い出が、今の自分を作り上げている。
陽キャやチャラ男の真似をし、クラスの人気者に。
「でも…あんなの俺じゃない…でも本当の俺を見せたら…あいつらは、俺と仲良くしてくれないんじゃないか?」
普段心に秘めていた思いが、口から流れ出てくる。
もう嫌われたくない 無視されたくない
否定ばかりされてきた生活を送りたくない
理想と本音が、心の中でぶつかり合う。
いつの間にか、涙を流していた。
その涙をライティングするかのように、月明かりが自身を照らす。
「そういえば…満月だ」
一点の曇りもない空に浮かぶ月を見ながら、呟く。
さっきまでの負の気持ちが、月によって抑えられたような気がした。
「確か、十五夜も今日だった気が…」
日中、授業で聞いた内容を思い出す。
確か、次に十五夜と満月が重なるのは7年後だったはず。
「暫くは、見れないのか。」
別れを惜しむかのように、月を眺める。
心配要らないよ きっと上手くいく
そんな励ましの言葉を言ってくれているかのように、月が優しく照らす。
不確実で、不器用で、だけど優しいその言葉が、自身の不安の穴を埋めていく。
「月に励まされるとか…厨二病かよ」
自身の考えを、自分で馬鹿にする。
「でも…ありがとな」
自身を励ましてくれた事に対するお礼は、静寂の虚空に呑まれていく。
残ったミルクを飲み干し、部屋に向かう。
明日、本当の事を話そう。
そう誓い、ベットに横たわり、目を瞑る。
秋の音楽隊が、応援のエールを贈るかのように、演奏を再開した。
お題『静寂に包まれた部屋』