ふうり

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「どうせ明日も変わらないよ」

一緒に歩いていた親友に、マイナスな言葉を投げつける。


「うーんそうかな?
もしかしたら宝くじとか当たるかもしれないし〜」

親友は私の放った言葉をものともせず、軽い足取りで前を歩いていく。

「というか梨花(りか)、それ口癖だよね。」
「まぁ、実際そうだし。」

足元にある石を蹴りながら、私は言葉を続ける。

「朝起きて、雪とこの河川敷で合流して、学校に行って、つまんない授業受けて、雪と一緒に帰る。」
「平和で良いことじゃん」
「これの繰り返しだよ?つまんないよ」

向かい側に見える高校生達を羨ましいそうに眺める

「バイトも出来ないし、部活も入ってないし、お小遣い少なくて、外食とか出来ないし。」
「部活すれば良いじゃん 運動部とか、ダイエットになって良いかもよ〜?」

舌足らずな喋り方で、雪は提案する。
相変わらず前向きだ

「今更部活は無いよ。もう2年だし、来年には受験で参加出来ないんだから。」
「うーん 梨花、変える努力しなさすぎ〜」

口を尖らせながら、困った顔をする雪。
確かに、努力をしていない。といえばそれまでだ
だけど、どんなに努力をしても、未来は変わらない。
そう思ってしまう

「どんなに努力しても変わらない。とか思ってんの?」
「え」

自身の考えを読まれたのかと思った
少しだけ鳥肌が立つ

「ふっふーん 親友だからね分かるよそのぐらい」

手を腰に当て、自慢げな顔をする。

「でもさ案外…」

続きを言いかけた時、学校のチャイムが鳴る。

「あ!やべやべ遅刻するぅ〜梨花、急ぐよ!」
「あ、ちょっと待って!」

私達は学校に間に合うよう、全速力で走った。


時間は流れて午後
昼食を食べ終わり、眠くなる頃合い。
授業の科目は社会科だった
先生が教室に入ってきて、いつも通り号令をし、いつも通りつまらない授業を始める。
と、思ったがどうやら今日は違うようだ
教室に置いてあるテレビを動かし、コードをパソコンに繋ぐ。

「さて、今日の授業はいつものとは違うぞ。
今日は、今から見せる動画を見て。感想をプリントに書いてもらう。ただ、それだけだ。」

説明しながら、プリントを先頭の生徒に渡す。
前から回ってきたプリントに目を通すと、感想を書く四角の囲いがあるだけの、簡素なレイアウトだった。

「それじゃあ、早速流すぞー」

教室の電気を消し、パソコンをカタカタと操作する。
数秒の内、動画が再生される。
めんどくさい そう思い、適当に見ようとぼーっと眺める。
しかし、目に入ってきた情報が、脳を活性化させる。

私と同じ顔をした人が写っていたのだ

色は白黒で見えづらいが、はっきりと同じ顔だということが認識できる。
雪の方を見ると、案の定驚いた顔をしていた。
流石に動画の内容が気になり、真面目に動画を見始める。
内容は、昔起きた災害をまとめ、注意喚起などを促した動画だった。
私と同じ顔をした人は、周りに瓦礫が散乱し、そこで立ち尽くしていた。
服装は昔のものだし、年齢も違うだろう。
だが、髪型や顔の形、目の形、何もかもがそっくりだった。

時間はまた流れて、放課後。
あの授業は結局、そっくりな顔の人の事をずっと考えていた。
今も、あの女性の事を考えながら、河川敷を歩いている。

「あの女の人、梨花にそっくりだったね〜」

隣を歩く雪も、気になっているようだ。

「先祖とかそういうのなのかな?見たことあるの?」
「いや、見たことない。というか、興味なかったから見てないって言った方が正しいかも。」

自身の記憶を辿りながら、話す。
やっぱり、覚えが無い。
動画の内容的に、大正時代らしい。

「家帰ったら、お母さんに聞いてみようかな。」
「うん、聞いて聞いて〜なんか分かったら教えて!気になるし」

こくりと頷き、黄昏の道を歩いていく。

「そういえばさ、朝言えなかったこと、今言ってもいい?」
「うん」
「あのねー梨花さ、どうせなにも変わらないって言ってたじゃん。」
「でも、案外急に変わっちゃうのかなって。」

雪が立ち止まり、言葉を続ける。

「良い意味で変わるのも、悪い意味で変わるのも。
どっちも起こる可能性ってあるわけじゃん」
「今日見た動画はさ、その悪い方が来ちゃって、ああなったわけじゃん。」
「うん」

雪の言葉を噛み締めながら、雪の隣に立つ。

「私達が生きてるこの今も、同じことが起きるかもしれない。」
「そう考えたらさ、何も起きないこの平和な時が変わらないのって、良い事なんじゃないのかな。」

目をいつもより大きく開き、雪を見る。
そんなこと考えたことがなかった
真後ろから、急に話しかけられたような。そんな感じだ

「それにさ、どうせ明日も変わらない。じゃなくて」
「きっと明日も変わらない そっちの方が良くない?」
「きっと?」
「そっちの方が、ポジティブじゃん。」

想定外の理由で、笑ってしまう。

「え〜笑うとこあったぁ〜?」
「いや、なんか急にギャルっぽくなったから。
さっきまで真面目だったし」
「ギャルは真面目にもなりますぅ〜」

雪は前を歩きだし、背中を向ける。

「さーてそろそろ帰ろ〜 お腹空いてきちゃった」

バックを振り回し、スキップしながら進む。
その背中を見て、ふと、思う。

この光景は、きっと明日も変わらないんだろうな。

お題 『きっと明日も』

9/30/2023, 1:14:20 PM