ぽつり、ぽつりと雨が降る。
もう直ぐ本降りになるであろう雨音を聞きながら、手元の作業を進めていた。
部活の費用管理ノートを書きながら、ため息をつく。
学校から支給される部費 それが無くなりそうなのだ
原因は明確 あの3人だ
この部活は、4人しか生徒がいない。
といっても、昔から続けていた探偵ごっこが、遂に部活にまで発展しただけなので、その時のメンバーが居るだけ。
私もそのうちの1人だ
付き合う理由は無いが、断る理由も無い。
一緒に調査をするのも楽しいし、他に入りたい部活も無かったため、加入した。
部費使い込み事件の犯人3人は、現在調査に向かっており、この部室には居ない。
「いつもなら全員で行くのに、なんで私だけ留守番…」
不満がダダ漏れな独り言を呟き、ボールペンを置く。
気が散ったのでスマホを触り、SNSを開く。
慣れた手つきで画面をスワイプし、気に入った投稿にいいねを押す。
日課を超えた行動をしていると、ふと、手が止まる。
そこに映っていた投稿は、火災の映像だった。
どうやら、火災が起きた瞬間を動画に撮り、それを投稿したようだ。
その投稿には、場所も一緒に書かれていた。そこは
3人が調査に向かった場所だった
途端に心臓が早く鼓動する
パニックになりそうな頭の中、もしかしたらデマかもしれないという希望を持ち、部室にあるテレビの電源をつける。
デマなら報道はされていないはず
ニュース番組のチャンネルボタンに、親指を重ねる。
親指が震えで揺れる 本当だったらどうしよう
知りたい欲望と、知りたく無い願望がぶつかりあい、パニックの頭を更にパニックにさせる。
♪〜〜
電話の着信音が、部室内に響き渡る。
着信音にしていたお気に入りの曲が流れ、自身のスマホからだと瞬時に理解する。
ニュース番組を結局見ないまま、誰からの着信かと画面を見る。
それは、調査に向かった3人の内の1人からだった
良かった、あれはデマだったんだ。
火災なんか起きてたら、電話なんかしてる余裕なんて無い。
少し、心の余裕が生まれ電話に出る。
「もしもし?今どこに」
「あー良かった そっちは無事なんだな」
「は?無事だけど…そっちはってどういう…」
どういう意味だ と、言おうとした瞬間、
電話の向こうから爆発音が鳴り響く。
「は?」
「あーやっべ もう始まったか」
「は!?お前マジで何やってんだ!?なぁ!」
「なぁ、聞いてくれ。」
普段聞いたことのない、落ち着いた声が聞こえる。
「そんな場合じゃないだろ!早く逃げ」
「もう逃げれないんだよ」
食い気味に否定される
「これは俺達が決めたことだ 俺達が逃げたら、あいつらは俺達を追って来ちまう。そしたら他の人たちが襲われる」
「は?何言ってんだ。襲われるって…そんなのいいから早く逃げろ!死んじまうだろ!」
「良いんだよ」
死を肯定され、頭が真っ白になる。
声が出ず、頭がオーバーヒートし始める。
「これで被害は収まるし、化け物も世に出ない。
これで良いんだ」
「化け物って…それに、良いんだよって…そんな訳ないだろ!頼むからはや」
再び、爆発音が聞こえてくる。
さっきよりも激しい音になっていた
「優花」
不意に、自身の名前が呼ばれる。
「な、なんだよ」
「お前はきっと、今回の事件を1人で調査するんだろうな。そして、真実に辿り着く。」
「でもな、復讐とか、死者蘇生とか。そういうのは止めてくれよな?」
遺言のような言動に言い返せない
何言ってんだ そんな、いつもなら言える言葉が、口から出ない。喋れない。
「お前はお前の人生を歩んでくれ」
爆発音が聞こえてくる
「おい やめろ」
「じゃあな 優香」
「おい!!置いてくな!!」
轟音がスマホから鳴り響く
鼓膜を破りそうな、心の器を壊しそうな、
彼が死んだ事を確定するような、そんな絶望の音が、無慈悲にも聞こえてくる。
彼の声は聞こえない
スマホを持つ手に力が入らない
スマホが落ちる音が聞こえ、その瞬間へたり込む。
涙も、声も出せないまま、本降りになった雨が結果を示すかのように、降り続いていた。
お題『別れ際に』
窓の外から、雨粒の音が聞こえてくる。
動かしていた手を止め、窓の方に歩み寄る。
どうやら通り雨のようだ
干してあった洗濯物の事を思い出し、駆け足でベランダに向かう。
物干し竿にかけてあった洗濯物を取り、少しはたく。
足元の床に置き、他の洗濯物も同じように部屋の中に入れていく。
ふと、外の方から声が聞こえてくる。
視線を移すと、高校生ぐらいの男子生徒達が、駆け足で走っていた。
焦りと楽しさが混じった声色で、隣にいる生徒に急かすように声をかける。
雨に濡れてはいるが、その顔は嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「良いなぁ…」
自身の気持ちが口から漏れ出す
嫉妬の気持ちが、心の器から溢れたような感じがした。
持っていた洗濯物を、強く握りしめる。
病気になんてなっていなければ、こんな気持ちを抱かずに済んだのに。
私も、あんな青春を過ごせていたのかもしれないのに。
自身の頭上に広がっている雨雲のように、気持ちが灰色に染まっていく。
そんな顔をしていると、日差しが顔を直撃する。
急に眩しくなったことに驚き、空を見やると、
遠く離れた空が雲ひとつない晴天だった。
憂いなんて無い、躊躇いなんて無い。
そんな青空を見ていると、さっきまで雨が降っていた私の心が、晴れていくかのようにすっきりし始めた。
きっと病気は治る
きっと学校に通える
きっと青春を送れる
"きっと"という、不確定しかない、だけど希望が詰まっている。そんな言葉で心が埋め尽くされていく
他の人から見たら、ただの晴天だ。
だけど私から見たら、希望と夢が詰まった晴天だ。
自然と口角が上がる
床に置いていた洗濯物を拾い、部屋の、ハンガーがかけれそうな場所にかけていく。
自身の部屋に戻り、書きかけのノートの前に座る。
まずは、今やれる事をやろう。
そう、心の中で喋りシャーペンを手に取った。
お題『通り雨』