少し開けた窓から、秋の虫たちの演奏が聞こえてくる。
外は暗闇に包まれ、人々は深い眠りについている時間。
そんな時間に、俺は目を覚ましていた。
別に夜型の人間という訳では無い
朝に起き、朝食を食べ、学校に通い、部活をした後に家に帰る。そして寝る それの繰り返しだ
このまま起きていたら、それが崩れてしまう。
そんな事は頭で分かっていたが、活性化した頭が寝る事を許してくれない。
「何か飲もう」
虫たちの演奏よりも小さい独り言を呟き、むくりと体をおこす。
家族を起こさないよう、慎重に歩きながらキッチンまで辿り着き、冷蔵庫の中身を漁る。
「確か、ホットミルクとかが
寝る前に良かったんだよな…」
牛乳を取り出し、カップに注ぐ。
電子レンジにカップを置き、適当に温める。
静かなため息を吐き、近くに置いてある椅子に腰を下ろす。
「俺がホットミルクとか…
あいつらに言ったら笑われるだろうな。」
不意に、いつも一緒に居るやつらの事を思い出す。
部活が同じで、クラスも同じ。
いつの間にか仲良くなって、一緒につるんでいる。
今日は通り雨に降られ、びしょ濡れになりながら帰ってきた。
「あいつらは、俺のことどう思ってるんだろ……」
まるでその言葉に答えるかのように、温め終わった合図が鳴る。
温かくなったミルクを取り出し、リビングへ向かう。
ソファに座り、ホットミルクを少し飲む。
優しい味が、夜風で冷えた体を温める。
「俺は、チャラ男を演じきれてるのか?」
カップを机に置き、独り言を呟く。
いつの間にか、秋の演奏は聞こえなくなっていた。
まるで、自問自答を邪魔しないように、息を潜めているかのようだ。
「俺は…もう…あんな思いは…」
静寂に包まれたからなのか、自身の負の感情が溢れ出す。
昔の嫌な思い出が、フラッシュバックする。
弱虫で、ゴミで、サンドバッグにもなれなくて、虫よりも立場が低いかのように扱われた、あんな日々。
そんな嫌な思い出が、今の自分を作り上げている。
陽キャやチャラ男の真似をし、クラスの人気者に。
「でも…あんなの俺じゃない…でも本当の俺を見せたら…あいつらは、俺と仲良くしてくれないんじゃないか?」
普段心に秘めていた思いが、口から流れ出てくる。
もう嫌われたくない 無視されたくない
否定ばかりされてきた生活を送りたくない
理想と本音が、心の中でぶつかり合う。
いつの間にか、涙を流していた。
その涙をライティングするかのように、月明かりが自身を照らす。
「そういえば…満月だ」
一点の曇りもない空に浮かぶ月を見ながら、呟く。
さっきまでの負の気持ちが、月によって抑えられたような気がした。
「確か、十五夜も今日だった気が…」
日中、授業で聞いた内容を思い出す。
確か、次に十五夜と満月が重なるのは7年後だったはず。
「暫くは、見れないのか。」
別れを惜しむかのように、月を眺める。
心配要らないよ きっと上手くいく
そんな励ましの言葉を言ってくれているかのように、月が優しく照らす。
不確実で、不器用で、だけど優しいその言葉が、自身の不安の穴を埋めていく。
「月に励まされるとか…厨二病かよ」
自身の考えを、自分で馬鹿にする。
「でも…ありがとな」
自身を励ましてくれた事に対するお礼は、静寂の虚空に呑まれていく。
残ったミルクを飲み干し、部屋に向かう。
明日、本当の事を話そう。
そう誓い、ベットに横たわり、目を瞑る。
秋の音楽隊が、応援のエールを贈るかのように、演奏を再開した。
お題『静寂に包まれた部屋』
9/29/2023, 11:45:37 AM