ふうり

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濡れた髪を払いながら、オレンジ色に染まった道路を歩いていく。
通り雨が降ったにも関わらず、空はそんなことなかったかのように晴れ晴れしていた。

「さっきの雨、本当になんだったんだろ…」

自身の体を濡らした雨に、少し苛立ちながら曲がり角を曲がる。

(そういえば、沢海君。大丈夫かな)

友達の沢海君
クラスの人気者で、いわゆる陽キャと呼ばれる人間だ。
僕みたいな陰気な人間とは、話してもくれないと思っていたけれど、今では一緒に遊ぶ仲だ。
だが今日、そんな沢海君が、少し曇った顔をしていた。
いつもは、迷いとかそんなものが存在しないような人間なのに。

(なんか、悩んでることでもあるのかな…
まぁ、明日聞けばいっか。)

自問自答をしながら、神社の横を通る。
その時

キュン!!

「うわっ!」

急に何かの鳴き声が聞こえ、思わず尻もちをついてしまう。
びっくりして、思わず声が出てしまった。
声が聞こえた、後ろを振り返るとそこには、
白い狐がちょこんと座っていた。

「え、え!?狐!?」

狐が出るほど田舎ではない筈なのだが、当たり前のようにその狐は座っていた。

「嘘…どうしよう、野生?でも、この辺に住めるような森とか無いし… 誰かが飼ってるとか?」

僕が尻もちをついた状態のまま、頭をかき混ぜて考えていると、狐がまた可愛く鳴いた。

「あ、可愛い… 実物の狐とか初めて見るな」

狐と目を合わせようと姿勢を低くする
まだ誰にも触れられていない雪のような白色で、赤色の目をしている。

「白い狐っているんだ…凄い」

僕が珍しそうに狐をまじまじみていると、その狐がにんまりと笑った。

「え」

口が人間のようになり、口角をあげる。
白かった毛並みは墨汁の色に染まり、体がドロドロと溶けていく。
元の姿が狐とわからないほどドロドロになり、スライムのようになる。
そしてそれは、段々と人のような形を作り始める。
子供が白いクレヨンで描いたような顔が、不気味に笑っていた。

僕は身動きが出来なかった
怖くて怖くて堪らないのに、叫び声をあげて逃げ出したいのに、体に釘を打ち込まれたように動けない。
目の前の化け物が、ドロドロの手で僕を掴もうとする。
もうダメだ 走馬灯が見え始めたその時

目の前の化け物が綺麗に真っ二つになった

切られたところから体が燃えていき、苦しそうな呻き声をあげる。
そして、全てが燃え、怪物はいなくなった。

突然の出来事すぎて、頭も声も壊れた僕の目の前から、刀を持った20代ぐらいの女性が歩いてくる。
桜色のボブカットで、灰色のスーツを着ている。
右手には刀を持っており、持ち手はさっきの化け物のような黒色だが、対をなすように刀身が無い。

「君、大丈夫?」
「あっ…えっと、だい、じょうぶ…です」
「いや、大丈夫じゃないでしょ。腰、抜けてるし。」

呆れながら、僕に左手を出してくる。
その左手を借りて、ようやく立ち上がる。

「あ、あの…助けてくれたんですよね?
ありがとうございます!」

怖い先輩ぐらいにしかしたことのない、深いお辞儀をした。

「あーいいよ そーゆー仕事だから」
「仕事?」

一体何の仕事だったら、こんなことをするんだろう。

「ていうか、やっぱり薄明時はいっぱい出てくるなー
こりゃあ被害も出るわ。」

女性はぶつぶつと独り言を呟く

「あ、あのーこれっていったい…」
「あー…そこらへん後で教えてあげるから…よいしょっと!」
「うわ!?」

女性が刀を空中に投げると、刀が消える。
刀が無くなり、フリーになった手で僕をお姫様だっこで持ち上げる。

「な、なんですか急に!」
「ほれ、後ろ見ろ後ろ」
「え?」

後ろを振り向くと、さっきのような化け物がぞろぞろと近づいて来ていた。

「い、いっぱい来てる!!」
「そういうことだから、取り敢えず逃げるぞー」

女性は僕を抱えながら、走り出す。

「ちょっと!お姉さん!本当にこれ、どういうことですか!?」
「走りながら説明出来ると思ぅ?」
「た、確かに…」
「あと、お姉さんじゃない。」
「私の名前は優花 君の名前は?」

戸惑いながら、僕は答える。

「僕は、優人。草薙優人です」

黄昏時のこの瞬間から、僕の物語が始まったんだ。
空想の世界にありそうな、ありきたりな物語が、本当に現実になってしまうなんて、この時は思いもしなかった。

お題『たそがれ』

10/1/2023, 1:05:45 PM