あの子を助けるために、私は過去へ行けるタイムマシーンを造った。
私の身代わりになって、犠牲になった親友。
私と正反対の、とても優秀で、誰からも好かれていて、私も大好きだった親友。
あの子が死んだ時、周りから「なんで、あなたの方が生きているの?」と数えきれないほど言われた。
それからは贖罪の日々だった。
私は罪を償うために、今まで生きていたのだ。
それも、今日で終わる。
私はタイムマシーンに乗り、過去へと渡った。
そして高校生の時まで戻ることに成功し、私はタイムマシーンから降りてなりふり構わず駆け出した。
通学途中の2人の高校生に体当たりして、鉄骨の下敷きになるのを防ぐのだ。
だが、親友は高校生の私と年を取った私を押した。
なぜ、と驚く私に彼女は微笑むだけで何も言わなかった。
変わらずに鉄骨の下敷きになった親友は、震える手を伸ばして私の頭を撫で、微笑む。
「リエが、生きてて良かった……」
なぜ、彼女に私が私だとわかったのか、わからない。
ただ、私は涙が止まらなかった。
今日は特別な夜だ。
だから、ケーキを食べてもいいし、値引きシールの貼ってあるちょっと豪華な惣菜を食べてもいい。
特に何かあった訳じゃないけど、今日は「特別な夜」と決めたから、特別な夜なのだ。
だから、誰もいない部屋で、チューハイを開けて乾杯する。
明日からまた来る、普通の日々を耐えるために。
昔、船から落ちて溺れてしまった私は、今も海の底にいる。
陽の光が届かない暗闇の中、クラゲのように漂っているのだ。
見たことない魚やサンゴ礁、貝などのおかげであまり退屈はしない。
だが、身を焦がすような孤独が、この身を蝕む。
だから時々、手を伸ばして、誰か来ないかと夢想する。
そして今日、ようやく、待ちに待った彼を捕まえた。
この手は絶対に離さない。
例え、彼の身が朽ちようとも。
「また、お世話になります」
私が頭を下げると、看護師である彼女は穏やかに笑った。
「いえいえ。それより、怪我が早く治るといいですね」
その言葉にチクリと罪悪感を覚える。
以前、入院した時に会ってから、私は彼女のことで頭がいっぱいになってしまった。
だから、また入院するために、わざと怪我をしたのだ。
そんなことを露とも知らない彼女に世話を焼かれると、とても申し訳なく感じる。
「すいませんね」
「いえ、大丈夫ですよ。それに、また会えて嬉しかったです」
体を拭かれながら言われた言葉に、顔をぽぉっと熱くなった。
もしかしたら両思いかもしれないと、ドキドキと鼓動が速くなる。
「何か困ったことがあったら呼んでくださいね」
そう言って立ち去る彼女を、私はぼんやり見つめた。
※※※
○○さん、また来てくれて良かった。
やっぱり、ご飯に少しだけ興奮剤を入れたのが良かったのかな。
それとも、願掛けのために、夜中に耳元で「あなたは私を好きになる」と唱え続けたのが効いたのかな。
入院でもしてくれないと、接点なんて全くないもの。
まぁ、もし、また退院したのなら、私のしわざだとわからないように上手く怪我をさせて、また入院してもらえばいいか。
母の遺品で、側面を糸で縫い付けられている日記帳が見つかった。
あまりに気になり糸を切って中身を見てみると、懐かしい母の文字で日々のことが綴られていた。
だが、時が進むにつれ、どんどん日記の内容がおかしくなっていく。
私はあまりの衝撃で震えた。
「我が暗黒の魔手で、今日も者共の空腹を満たした」
「強者どもが集まる略奪の日、我は見事に純白の楕円を手に入れた」
「我が倅の連戦の跡を白魔法で消す」
母は遅い厨二病だったようだ。