その眼鏡に、ひかりがきらきらと反射するのが見えた。横から見る顔は、口をぽっかりと開けてずいぶんと間抜け面だ。
「感動してんだ」
呼びかけてみる。振り向いた顔は変わらず間抜け面で、感動の為か、それとも寒さのせいか、その頬は上気していた。
「してるよ!綺麗だもん!」
「さいですか」
「……感動しないの?」
続けて、「ロボットなの?」と付け足してくる。 誰がロボットやねん。どこからどう見ても立派な人間やろが。
というか、感動。感動、ね。
「……してるて」
感動してるよ。ここに君を連れてきた自分に。
そんな間抜け面で、でも、ばかみたいにかわいい君が見れたのだから。
してるんじゃん、と満足気な君がまた上を見る。夢中になって我を忘れ、風邪でも引くんじゃなかろうか。ため息をついてから、自身のマフラーをゆるめた。
/イルミネーション
目に見えない愛というものが、もし可視化することが出来るのなら。
「そんなら、話。分かりやすいんちゃいますの」
本に顔を向けたまま、私の話に耳を傾けているらしい彼はぽつりと呟いた。
「分かりやすい?」
「だって、そうでしょ。よく漫画とかアニメとかでもあるやん。ちっさいハートやおっきいハートが飛び交ったりいやデカすぎやろみたいなやつ」
「それ漫画とかアニメとかであるかな?二次創作とかではよく見るけど」
「じゃあそれ」
雑。
「見たい?」
「何が?」
「僕の愛」
彼は本から、ゆるりと顔を向ける。それから私の返事も待たず、いいよ、と口にした。
「どれくらい君に愛注いでるか、目にしてみた方がええと思いますけど」
目が。目だけが、笑っている。
私は挑戦的なその言葉に、ただ一言だけ。
見えたらね。
と。
そう返したのだった。
/愛を注いで
「子供のままのほうがよかった?」
袖を引く手が、自分を引き留める。後ろに少しだけ振り返る。見えた姿はうつむいていて、表情を伺うことはできなかった。
「千歳(ちとせ)さんには、わたしが子供のままのほうが、よかった?」
ふと過ぎる。あの日の彼女の姿。いまの彼女よりも、うんとちいさく、おさない姿。あの時も手が引いていた、自分の袖を。ただ、そうだな、いまと違うのは。
『ちぃおにいちゃん、行かないで……』
「じゃあきみが、顔を上げてくれたら教えてあげる」
その言葉を聞いて、おそるおそる、と言う風に。彼女の頭が上がる。眉を下げ、不安げに揺れたその瞳。ふ、と笑みがこぼれた。
(よかった)
あの日の幼いきみは、泣き腫らした真っ赤な目をしていたから。そう、いまならば。
そんな目にはさせないのだから。
今度こそ身体ごと振り返り、その為に離れてしまった手を自分から繋ぎ直す。驚きに目をまんまるくさせた彼女に教えてあげるために、口を開いたのだった。
/子供のままで
「すきだあああああああああああ!!」
うるっさ、と声がきこえたような気がして、すぐに笑いがこぼれてしまった。もう一度叫ぼうか、と思いつつも口を噤む。たった一度。たった一度でも、きっときみには届いたはずだ。
「――あいしてるよ」
そらへ。そらへ。祈りのように、そう呟いた。
なあ、いつかさ。いつかおれが、きみとおんなじところにいったらさ。
そしたらさ。
/愛を叫ぶ。
「熱があるのか」
熱があるか、と言えばあるだろう。ただすぐに冷める微熱ではある。
目の前のきみが、わたしの額に当てる手を離してくれるのならば。この熱は、容易に冷める。
「今日ははやく休んだほうがいいぞ」
「アア……ウン。そうする……」
どんかん、と同時に、誤魔化されていてたすかる、とも思う。
いかんせんわたしにはまだ、一歩を踏み出す勇気がないのだ。これっぽっちも。
/微熱