少年の願いは叶っている。
青年に出会うまでの環境は最悪であった。
名がそれなりに知れており、裕福で飢えることなく上に立つものとして日々勉強。
幼子なりに理解し、義務であれば仕方ないと思っていた。
が、父は才のありすぎる少年を畏怖し遠ざけ、兄ばかりをかわいがった。
母は生まれたときにはおらず、一人であった。当時幼子なのもあって無力であり、孤立している幼子に手を差し伸べる人はおらず、皆腫れもの扱いをしていた。
が、幼子にも転機がやってきた。孤児院に預けられるという最悪の形で。
幼子は理解ができなかった。
したくなかった。自分が捨てられたと理解したくなかった。
期待に応えようと努力もしていたのに、今は自分を見てくれなくてもいつかはと。
捨てられたショックのせいで当時は誰も信じられずに荒れた。
物を壊し、近づく人すべて敵だと思った。
周りに来る人も、勝手に解釈していろいろ何か言ってくる。それがただ煩わしかった。
しばらくそのような日々を過ごしていたある日、眠れずこっそり外に出た。
ただ一人になりたかったのもある。
月が良く見える日で。
庭にある大きな木に少年がいた。少年は一瞬幼子に目を向けたがすぐそらした。
見たことのない少年であった。それに今まで向けられたことのない目を向けていたのもある。
今までは、畏怖、哀憫と幼子を知ったかのように遠巻きにしたり声をかけて来たりと分かった気になって勝手であった。
近づいてくる割に目には恐怖を浮かべていたのがなおさらで。
何も知らないくせに!側しか見ない周りに嫌気がさしていた。
けれど。少年はどれでもなかった。ただ、そこにいる。
それだけ。
けれど今まで憐れむのでもなく、恐れるのでもなくただ幼子がいても気にしないと言わんばかりに。
今までで一番安心した。このままの自分を受け入れられているとそう、思ってしまった。
だから幼子は無言で少年の隣に座りそこにいた。
何も言わない少年が気になり目線を向けると持ってきていたのであろう、半分に割ったおにぎりを渡してきた。
何も言わず、ただ受け取るのを待っている。
幼子は受け取り、じっと少年を見る。黙々と食べる少年を見て幼子も一口食べた。
ただの具なしおにぎりであった。冷めていて冷たかったけどなぜかあたたくて。途中なぜかしょっぱくなって食べづらかったけど最後まで食べた。
それから幼子は少年とともにいた。
少年の妹になりたいという少女と三人でそれから沢山の出会いを、日々を楽しく過ごした。
少年が青年に、幼子は少年になっても変わらない。
今はただ少年のことを理解し時にはふざけ笑い喧嘩しても、青年が隣にいてくれる。
莫大な権力、富では絶対に手に入らない。ただ一つだけ。それだけで少年はこの上ない幸福を感じていた。
青年はまたやってしまったと少年の顔を見て思った。
今回の依頼は人々に迷惑をかけている原因の究明、解決であった。
少年と依頼のあった町へ行き情報収集し、目星をつけたまではよかった。
問題はそのあと。
いざ本拠地につき制圧した際、少年が危なかったので青年がかばったのである。青年が怪我をすることによって。
少年は大切な青年が自分のせいで怪我を負ったのが悔しいのもあるが、当の背年が少年に怪我がないことに安堵するだけで自分に無頓着で。
どう分からせてやろうかと、少年が悶々と考えていると青年が眉を寄せすまなそうに誤ってきた。自分が未熟なばかりにと。
それを聞いてこいつには言葉は伝わらない、なら行動するのみと腕を掴みなら今日は自分と一緒にいてくれ!と言い引きずっていった。
少年は互いに大切なのにままならないなと思いながら。
青年は少年の気が済むならと、なすがままついていく。
食堂で行われた痴話喧嘩に、彼女は仲がいいのねとお茶を飲みホッと一息ついた。
昔から俺はどうしてそうなる!?と、よく言われる。
よくよく話を聞いてみると、相手のことはよく見ているが自分に対する気持ちの察しが劇的に悪くなると言われた。
俺としてはよくわからなかったがそうなのだろう。
それを思い出したのは少年に対しても、同じようなことをやらかしてしまったと気づいたからだ。
いつもなら相手のことを理解し動けていたのにそれができない。相手が求めていることは理解できるのに、求めているのが自分の気持ちだからなおのことどうすればいいのかわからない。
困惑しきった俺に少年は苦笑し、いつも他人を気にしすぎるから己がわからなくなるのだ、と言われた。
そんなつもりはなかったのに。ただ、俺は彼の笑う顔が見たいと思っただけだと少年に言った。
何気なくさらっと言うでない!と少年に顔真っ赤にしながら言われてしまった。
けれどそのあと少年の機嫌は上がったので良かったと思う。
青年よ、そういうとこだぞと突っ込まれること間違いなしなことを考えていた。
それを見て言いようのない不快感が心の中を占めた。
少年は上機嫌であった。最近なかなか一緒に行動ができていなかった青年と久々に街に遊びに行けるからである。
いつもなら一緒に町へ行くのを用があるからと、青年とは一時別れ待ち合わせていた。
行きたいお店、食べたいものを想像して上機嫌で待ち合わせていたら少し先で後姿の青年を見つけた。
声をかけようと近づこうとしたら、青年は女性に声を掛けられていた。ナンパをしているのであろう、青年を見る目は熱い。
断られることはないという自信が見え隠れしている。
青年はそんな視線に気づかず離れようとしていた。女性は引き留めようと熱心に見つめ何かを言っていて。
言いようのない不快感が心の中を占め、不快感を振り払うように青年に近づき声をかけた。
青年と女性はこちらに視線を向け、少年を見た。
女性を一瞬睨みつけるように見た少年は青年に早く行こう!と、腕を掴みその場から離れた。
少しして離れた場所で、少年は青年の腕を放し青年にふくれっ面を向け遅い!と言い放った。
青年は申し訳なさそうにすまないと言いながらじっと、少年を見た。
あまりに見つめられると恥ずかしくなるもので。視線を振り払うようにさあ、行くぞ!と青年の裾を掴み、行きたかった店の話をしながら歩きだした。
青年は少年を見て少し笑いああ、行こうかと、答え歩き出した。
あくる日、依頼を完了し部屋に戻った際のこと。
それに気づいたのは青年であった。背中に伸ばし三つ網をしている髪が先の戦闘で解けかけていたので。
少年に指摘すると、少し考え青年に結んでほしいとせがんできた。
あまりに期待したまなざしで懇願するので流されてしまい、ついうなずいてしまった。
が、いざ目前に控えると過去のことを思い返す。
義妹にも同じように髪を結いでほしいと言われたことを。
幼かったこともあり当時四苦八苦しながらなんとか終えたが歪な形で。
やり直そうとしたがこれでいいと、笑顔で言われてしまい直せなかった過去。
かなり出来が悪かったので何とかきれいにできるようにと、それから練習したのにも関わらずなぜかうまいかない。
ないものねだり、と言われたらそうかもしれない。
だから少年の髪を結う際もうまくできないかもしれないとあらかじめにも言ったのに少年はそれでもいい、と一点張りで。仕方なくけれど綺麗に結おうと頑張るが上手くいかず。
出来上がったその状態を見た少年は笑いありがとう!と言い自慢してくると食堂に走っていったので慌てて青年は少年の後を追った。
それは当時の義妹と同じ笑顔で同じ行動をしていたことに焦っていた青年は気づくことはなかった。