遊橙

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6/3/2024, 8:51:21 AM

正直、期待はしていなかった。

周りは敵だらけで信じられるのは自分。少し前まではそう思っていた。

目前にあるおむすび。視線を持ってきた本人ーニコニコ笑う幼子は今か今かと受け取ってくれると信頼しきった目で少年を見ていた。


どうして,自分なのか。特に何もしなかったのに。内心そう思ったけど。


(悪くない。)

久しく感じなかった無償の信頼、好意を無碍にはできないと、おむすびに手を伸ばした。


何も入っていなかったがどんなおむすびよりも美味しかった。

4/18/2024, 1:48:15 PM

きみがいるから世界は色づく

珍しく少年と青年が別々の人と組み依頼を受けていた時のこと。
少年は先に終わり青年の帰りを自室で待っていた。青年と一緒にご飯を食べたかったのもあるが依頼でのことを話したかったからだ。

待てど待てど帰ってこない。少年がなかなか帰ってこない青年に内心やきもきしていると、廊下が騒がしくなった。
何ごとかと思ったのと勢いよく自室の扉が開いたのは同時で。
血相を変えた上司が入ってきたのを見て心がざわついた。

―・-・-・-・―

ところどころ包帯を巻いている青年がベットで眠っていた。依頼中に迷い込んだ子供をかばうため無茶をしたと。
何か言ってるような気がしたが少年は青年しか目に入らず。よろよろと近づいた。
意識はなく、顔色も悪い。左手を両手で包む。冷たくて、いつも少年をやさしい声で呼んでくれるのに意識はなくて。
暖かくて鮮やかだった少年の世界は、寒くて青年のいない無色の世界へあっという間に侵食された。

あれから青年の目が覚めるまで少年は一人だった。周りは少年のことを心配して声をかけてくれていたが、少年は大丈夫と空元気で返すだけ。

毎日、青年のベットへ行き一日の事を話し手をずっとつないでいた。

ご飯のこと、天気のこと、依頼のこと道に咲いていた花、義妹が心配していること。毎日、青年が起きるまで言った。
このまま起きなかったらどうしようとは思わないようにした。そうしないと少年の気が狂いそうだった。

いつの間にかペットに突っ伏して寝ていたみたいで。
慌てて起きると、青年と目が合った。

少年は夢かと一瞬疑ったが、青年がガラガラの声で少年の名を呼んで見て、それがうれしくて。

青年に飛びついた。生きていると、目が覚めたと実感したくて、青年がやさしく手で背をたたくのに思いがこみ上げて。

無色の世界が再び暖かくて鮮やかか世界に戻って、少年は声を張り上げて泣いた。

4/17/2024, 12:27:57 AM

よかったと、心から安堵した。

私は身寄りのない子のために孤児院を開いた。
少しでもここが自分にとって帰ってきてもいい場所だと思ってくれるように。

ここにくる子は大体親がいないか、ひどいときは院の目の前に置き去りも珍しくなかった。

心は見えないが傷を負っている。少しでも癒しの場にと思って。

視線の先には最近院にやってきた幼子が、少年が行く先について行っている。幼子は捨てられた子だった。

子は一人でいいと、親の勝手な思想でここに預けられた。幼い子は誰も言っていないのに捨てられたと分かっていた。

が、心は受け入れることができず周りを拒絶し少しでも自分の心を守ろうとしていて。
孤児の子も、職員もほとほと困って。このままでは他の院に相談しなければならず、どうすればと日々思っていた。

ある朝、いつものように院の見回りをしていると、空き部屋に幼子と少年がいた。私は驚いた。あれだけ周りを拒絶していた幼子が少年の近くに座っていたのだ。

少年も院の中では変わり者であった。交通事故で親の記憶をなくし感情を上手く出すことができない子であった。迷惑をかけないようにと思っての事であろう、おとなしく本を読んだりと静かで。

一人でいることが落ち着くのか他の子と一緒にいることはない。一人ポツリとそこにいて。少し心配であった。

その少年と幼子が一緒にいる。驚きとともに安堵した。二人ともぎごちなかった。が、そこだけが温かく夢見る心地で暖かった。
邪魔しては悪いと私はそこを離れ、職員にもしばらくあのあたりを見回なくていいと伝えた。

お昼の時間に帰ってきた二人は自然と二人一緒に帰ってきた。


暖かい快晴のある日のこと

4/4/2024, 11:36:09 AM

どうして、そうしたかはわからない。

まだ青年が少年だった時のこと。
夜中に眠れなかったから部屋から抜け出し、持っていたおにぎりを持って庭の大きな木に向かった。

夜なのもあって、誰もいない。少年がここによく来る理由でもあった。木に寄りかかりいつもより明るい月を眺めていると、誰かがこちらに歩いてきた。

視線だけ向けると最近やってきた幼子であった。
幼子は来た当初、かなり落ち込んでいて誰が声かけても反抗し時には暴れていたりもしていた。

職員や同じくいる子たちは、そんな幼子に困っていたし、徐々に嫌煙し始めているなとみていたのを思い出す。少年も似たような立場だったっために覚えていた。

けれど特に話すこともなかったので、すぐに視線を外し月をながめる。
すると思ったより近くに来ていた幼子は、少年の2人分空けたくらいの距離に座った。
一瞬なぜだろうと思ったがま、いいかと特に何も言わなかった。

少ししておにぎりを持ってきていたのを思い出し、食べようと取り出す。
特に理由はなかったが一人で食べるよりはいいかと思い半分にしたおにぎりを幼子に渡した。

心底驚いた幼子は、しばらくおにぎりと少年を見比べていた。
恐る恐るおにぎりを受け取ったのを見て半分のおにぎりを食べ始めた。食べていると隣から鼻をすする音がしたが今度は顔を向けなかった。


そのあとはどちらが何をいうこともなく少ししてそれぞれの部屋に戻った。

次の日、人が来ない部屋に身を潜めボーとしていると普段は開かない扉が開いたので見ると昨日の幼子がいた。

視線をさまよわせ少年を見つけると少し表情を明かるくさせ、少年に近づく。そして今度は少年の隣に座ってきた。

少年は一人がいいかもしれないと、他の場所に向かおうと腰を上げようとしたが幼子が少年の裾を掴みそのままでいい?と言ってきた。

自分はどちらでもよかったのでそのまま腰を下ろし、特に話すことなくじっと座ったままそこにいた。
けれど穏やかな空間に悪くないと思った。

4/4/2024, 8:22:06 AM



少年の願いは叶っている。

青年に出会うまでの環境は最悪であった。
名がそれなりに知れており、裕福で飢えることなく上に立つものとして日々勉強。

幼子なりに理解し、義務であれば仕方ないと思っていた。
が、父は才のありすぎる少年を畏怖し遠ざけ、兄ばかりをかわいがった。
母は生まれたときにはおらず、一人であった。当時幼子なのもあって無力であり、孤立している幼子に手を差し伸べる人はおらず、皆腫れもの扱いをしていた。

が、幼子にも転機がやってきた。孤児院に預けられるという最悪の形で。

幼子は理解ができなかった。
したくなかった。自分が捨てられたと理解したくなかった。
期待に応えようと努力もしていたのに、今は自分を見てくれなくてもいつかはと。

捨てられたショックのせいで当時は誰も信じられずに荒れた。
物を壊し、近づく人すべて敵だと思った。
周りに来る人も、勝手に解釈していろいろ何か言ってくる。それがただ煩わしかった。

しばらくそのような日々を過ごしていたある日、眠れずこっそり外に出た。
ただ一人になりたかったのもある。

月が良く見える日で。
庭にある大きな木に少年がいた。少年は一瞬幼子に目を向けたがすぐそらした。
見たことのない少年であった。それに今まで向けられたことのない目を向けていたのもある。

今までは、畏怖、哀憫と幼子を知ったかのように遠巻きにしたり声をかけて来たりと分かった気になって勝手であった。
近づいてくる割に目には恐怖を浮かべていたのがなおさらで。

何も知らないくせに!側しか見ない周りに嫌気がさしていた。

けれど。少年はどれでもなかった。ただ、そこにいる。
それだけ。

けれど今まで憐れむのでもなく、恐れるのでもなくただ幼子がいても気にしないと言わんばかりに。

今までで一番安心した。このままの自分を受け入れられているとそう、思ってしまった。
だから幼子は無言で少年の隣に座りそこにいた。

何も言わない少年が気になり目線を向けると持ってきていたのであろう、半分に割ったおにぎりを渡してきた。

何も言わず、ただ受け取るのを待っている。
幼子は受け取り、じっと少年を見る。黙々と食べる少年を見て幼子も一口食べた。
ただの具なしおにぎりであった。冷めていて冷たかったけどなぜかあたたくて。途中なぜかしょっぱくなって食べづらかったけど最後まで食べた。

それから幼子は少年とともにいた。
少年の妹になりたいという少女と三人でそれから沢山の出会いを、日々を楽しく過ごした。

少年が青年に、幼子は少年になっても変わらない。

今はただ少年のことを理解し時にはふざけ笑い喧嘩しても、青年が隣にいてくれる。

莫大な権力、富では絶対に手に入らない。ただ一つだけ。それだけで少年はこの上ない幸福を感じていた。

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