窓から見える景色
近年温暖化が進んでいるからと、エアコンかガンガンに効いている部屋でふと、普段気にしていなかった雲一つない青空に目が行った。
よほど外の気温が暑そうだと、そう感じるレベルでの澄み切った青空。
ふと、その青空にポツリと白い雲が浮かんでいた。
その形は、かつて自分が幼かった頃こことは違って遠い昔の時代で出会ったあの侍の象徴としてつけていた印ににていて。
好きな人には赤面し、敵には力強く勇敢に立ち向かって。
最後は悔いがないと、そう言って息を引き取った。
当時のこみ上げる気持ちを抑え、また自分は窓から見える青空をみつづけた。
あの頃から成長してしまった己を彼が見たらどのように反応するかと思いながら。
正直、期待はしていなかった。
周りは敵だらけで信じられるのは自分。少し前まではそう思っていた。
目前にあるおむすび。視線を持ってきた本人ーニコニコ笑う幼子は今か今かと受け取ってくれると信頼しきった目で少年を見ていた。
どうして,自分なのか。特に何もしなかったのに。内心そう思ったけど。
(悪くない。)
久しく感じなかった無償の信頼、好意を無碍にはできないと、おむすびに手を伸ばした。
何も入っていなかったがどんなおむすびよりも美味しかった。
きみがいるから世界は色づく
珍しく少年と青年が別々の人と組み依頼を受けていた時のこと。
少年は先に終わり青年の帰りを自室で待っていた。青年と一緒にご飯を食べたかったのもあるが依頼でのことを話したかったからだ。
待てど待てど帰ってこない。少年がなかなか帰ってこない青年に内心やきもきしていると、廊下が騒がしくなった。
何ごとかと思ったのと勢いよく自室の扉が開いたのは同時で。
血相を変えた上司が入ってきたのを見て心がざわついた。
―・-・-・-・―
ところどころ包帯を巻いている青年がベットで眠っていた。依頼中に迷い込んだ子供をかばうため無茶をしたと。
何か言ってるような気がしたが少年は青年しか目に入らず。よろよろと近づいた。
意識はなく、顔色も悪い。左手を両手で包む。冷たくて、いつも少年をやさしい声で呼んでくれるのに意識はなくて。
暖かくて鮮やかだった少年の世界は、寒くて青年のいない無色の世界へあっという間に侵食された。
あれから青年の目が覚めるまで少年は一人だった。周りは少年のことを心配して声をかけてくれていたが、少年は大丈夫と空元気で返すだけ。
毎日、青年のベットへ行き一日の事を話し手をずっとつないでいた。
ご飯のこと、天気のこと、依頼のこと道に咲いていた花、義妹が心配していること。毎日、青年が起きるまで言った。
このまま起きなかったらどうしようとは思わないようにした。そうしないと少年の気が狂いそうだった。
いつの間にかペットに突っ伏して寝ていたみたいで。
慌てて起きると、青年と目が合った。
少年は夢かと一瞬疑ったが、青年がガラガラの声で少年の名を呼んで見て、それがうれしくて。
青年に飛びついた。生きていると、目が覚めたと実感したくて、青年がやさしく手で背をたたくのに思いがこみ上げて。
無色の世界が再び暖かくて鮮やかか世界に戻って、少年は声を張り上げて泣いた。
よかったと、心から安堵した。
私は身寄りのない子のために孤児院を開いた。
少しでもここが自分にとって帰ってきてもいい場所だと思ってくれるように。
ここにくる子は大体親がいないか、ひどいときは院の目の前に置き去りも珍しくなかった。
心は見えないが傷を負っている。少しでも癒しの場にと思って。
視線の先には最近院にやってきた幼子が、少年が行く先について行っている。幼子は捨てられた子だった。
子は一人でいいと、親の勝手な思想でここに預けられた。幼い子は誰も言っていないのに捨てられたと分かっていた。
が、心は受け入れることができず周りを拒絶し少しでも自分の心を守ろうとしていて。
孤児の子も、職員もほとほと困って。このままでは他の院に相談しなければならず、どうすればと日々思っていた。
ある朝、いつものように院の見回りをしていると、空き部屋に幼子と少年がいた。私は驚いた。あれだけ周りを拒絶していた幼子が少年の近くに座っていたのだ。
少年も院の中では変わり者であった。交通事故で親の記憶をなくし感情を上手く出すことができない子であった。迷惑をかけないようにと思っての事であろう、おとなしく本を読んだりと静かで。
一人でいることが落ち着くのか他の子と一緒にいることはない。一人ポツリとそこにいて。少し心配であった。
その少年と幼子が一緒にいる。驚きとともに安堵した。二人ともぎごちなかった。が、そこだけが温かく夢見る心地で暖かった。
邪魔しては悪いと私はそこを離れ、職員にもしばらくあのあたりを見回なくていいと伝えた。
お昼の時間に帰ってきた二人は自然と二人一緒に帰ってきた。
暖かい快晴のある日のこと
どうして、そうしたかはわからない。
まだ青年が少年だった時のこと。
夜中に眠れなかったから部屋から抜け出し、持っていたおにぎりを持って庭の大きな木に向かった。
夜なのもあって、誰もいない。少年がここによく来る理由でもあった。木に寄りかかりいつもより明るい月を眺めていると、誰かがこちらに歩いてきた。
視線だけ向けると最近やってきた幼子であった。
幼子は来た当初、かなり落ち込んでいて誰が声かけても反抗し時には暴れていたりもしていた。
職員や同じくいる子たちは、そんな幼子に困っていたし、徐々に嫌煙し始めているなとみていたのを思い出す。少年も似たような立場だったっために覚えていた。
けれど特に話すこともなかったので、すぐに視線を外し月をながめる。
すると思ったより近くに来ていた幼子は、少年の2人分空けたくらいの距離に座った。
一瞬なぜだろうと思ったがま、いいかと特に何も言わなかった。
少ししておにぎりを持ってきていたのを思い出し、食べようと取り出す。
特に理由はなかったが一人で食べるよりはいいかと思い半分にしたおにぎりを幼子に渡した。
心底驚いた幼子は、しばらくおにぎりと少年を見比べていた。
恐る恐るおにぎりを受け取ったのを見て半分のおにぎりを食べ始めた。食べていると隣から鼻をすする音がしたが今度は顔を向けなかった。
そのあとはどちらが何をいうこともなく少ししてそれぞれの部屋に戻った。
次の日、人が来ない部屋に身を潜めボーとしていると普段は開かない扉が開いたので見ると昨日の幼子がいた。
視線をさまよわせ少年を見つけると少し表情を明かるくさせ、少年に近づく。そして今度は少年の隣に座ってきた。
少年は一人がいいかもしれないと、他の場所に向かおうと腰を上げようとしたが幼子が少年の裾を掴みそのままでいい?と言ってきた。
自分はどちらでもよかったのでそのまま腰を下ろし、特に話すことなくじっと座ったままそこにいた。
けれど穏やかな空間に悪くないと思った。