何だこの状況は。
少し用があり離れていた隙に、青年が酔いつぶれたので回収してほしいと二人の上司から話を聞き、慌てて青年の元へ戻った。
青年に飲ませた本人であろう少年にとって苦手な彼女がそばにいた。ひきつる頬でその人物に声をかける。酔いにより気分がいい彼女は少年に気付きにこにこ笑いながら彼いい飲みっぷりねーと宣う。
慌てて青年を見やると顔を真っ赤にした青年が頭をぐらぐらさせていた。
少年はすぐに青年をあてがわれた部屋に連れていき、寝床へ突っ込んだ。
うつらうつしている青年に気分は悪くないかと聞くと潤んだ目で少年を見て舌足らずな言葉で少年の名を呼び、少年の頭を撫でた。
普段笑わない青年のふにゃふにゃした笑顔に少年はかつてないほど胸が高まる。
固まったままの少年に青年は首を傾げ、いきなり少年の腕を掴み寝床へ引きずり込んだ。
油断していた少年はびっくりして気が付いたら青年に抱きしめられ身動きができない。
慌てて青年を見ると、青年は安心しきった顔で寝ていた。
少年は諦めそのまま青年に火照る顔を隠すように抱き着き寝ることにした。
次の日青年が驚き固まってしまったのは言うまでもない。
彼の背中を見る。
彼は幼き頃に魅入られた剣のせいで、現世で生きにくい思いを押し殺している。
彼は賢かった。そのせいで己は異質だと理解した。理解し、世にとってどのような振る舞いが善であり求められているのかわかってしまった。
己の本当の願いを押し殺すことによって。
渇望が年々ひどくなったとしても必死に己の思いを押し殺している。
押し殺しているところしか知らない知人は彼を善良な人だと評する。
本当はそんなことはないのに、彼はそういうものなのかと周りからの評価を受け入れる。
けれどそれはあまりにも不条理で。
彼を知り大事に思っているものからは、もっと自分に正直に生きればいいのにと歯がゆく思う。
いつか彼が押しつぶされないよう、彼の隣にいつもいる。
遠い記憶でいつだったかもうわからない。
どうしてその記憶だけ覚えているのか、はたまたただの幻影かはわからない。
けれど、確かに言えることはそれはとても大切で美しかったことだけはわかる。
この記憶は間違いなく自分であって自分ではない、本来なら覚えていないはずのものだ。
この世の何よりも美しくて、届かなくて、でも諦められなくて。
そんな自分に気づいた唯一が、悲観したけれど何も言わず己自信を見てくれていた。
泣いているように見えたのであろう。そういわれたが己はそんなつもりはなかった。
泣かないよ
それを聞いて唯一はただそっと隣によりそった。
昔の話だ。
当時両親が亡くなり身寄りがない当時少年だった青年を後の師匠が引き取り育ててくれた。
師匠は剣術の達人だったため教えを乞うたがまあ容赦がない人であった。
体を鍛えるための体力トレーニングはもちろん素振りはまだわかる。
だが経験だと幼き子を当時色々噂されている森林に投げ込まれたときはさすがに死を覚悟したと当時の思いを思い出す。
自身より大きいかつ考えていることが全く分からない存在に半泣きになりながら、必死に逃げ惑う事しかできなかった。
どうして今それを思い出したかと思うと。
今日の依頼で討伐退治に赴いた先で、己の背より大きな生き物を見たとき無意識に身体が強張りそれが隙を生んでしまった。
幸いにも一緒にいた少年がカバーに入ったおかげで事なきを得たが、少年もいつもと違う青年に違和感を感じ心配げな目を向けていた。
少年に心配いらないと伝え、成長したとしても己が苦手とすることに克服できていないことにまだまだ修行が足りないなと、怖がりひきつった顔を直そうと気を引き締めた。
快晴の夜の事。
最近は気温の変化や雨のせいでなかなか見えなかった空が、久方ぶりによく見えた。
隠れていた星が溢れるように目全に広がりあまりの美しさに少年と青年は目を奪われた。
少年は青年と出会ったころを思い出す。暗く先の見えない人生であったし、大切な人も守れずふさぎ込んでいた。けど、青年と出会ったおかげで灰色だった景色は色が付き毎日が楽しい。
一緒に笑い、食べ、見て共感することが楽しかった。
この日々が続いてほしいなと流れた星に願わずにはいられなかった。