「休みが合わない!」
年末年始にバイトのシフトを入れまくったことを少し後悔。
まさかクリスマスに彼女ができるとは思わなかった。
「うーん……大晦日が遅番、元日が早出かー」
元日は朝早いので、二年参りは出来そうもない。
バイト後なら会えるだろうか。
彼女に連絡すると、元日昼からバイトがあるとのこと。それなら大晦日はどうかと訊くと、昼過ぎまでバイトで、そのあと母親の手伝いがあると断られた。
じゃあいつなら大丈夫なのかと、俺の休みと彼女の休みを教え合うと、見事に休みが被っていない。
付き合い始めたばかりなのに、これってどうなんだろう。
『初詣、学校始まってからでも、行けるときに行けば良いんじゃない?』
まったく焦る様子がない彼女のメッセージ。
彼女のなかで、俺の優先順位は低いのかもしれない。
そう思っていたのだが──
『来年、休み合わせようよ』
予想以上に彼女が俺との未来を見ていることに頬が痒くなった。
────冬休み
「手袋が必要ないくらいに」
イルミネーションはクリスマスの後も続く。
久しぶりのデートコースは街路樹が鮮やかに彩られている。
いつも見慣れているはずの通り。
子供の頃から馴染んだ街並み。
それが光と色で別の世界のものに見えてくる。
「どうした。手袋忘れたのか」
カバンの中に入ってる──言うよりも早く、彼は私の片手を掴むとそのまま自分のコートのポケットに突っ込んだ。
悪戯が成功した子供のように笑う彼。
「それじゃ、あったかいの片手だけだよ」
「あとでそっちの手と交代するし、それに──」
耳元で囁かれた恥ずかしすぎる提案に「バカ」と返す。たぶん私も耳まで赤い。
────手ぶくろ
「幼馴染からいつか」
「今年も、もう終わりかぁ……」
年が明ければ、あっという間に卒業。
「ずっとこのままでいられたらいいのに」
受験は早く終わってほしいけど、春になってほしくない。
ブックスタンドに立てている東京の大学のパンフレットを取り出し、パラパラと捲る。
「来年の今頃どうなってるだろう……」
親に浪人はダメだと言われているから、どこかの大学には通っているのだろうけど。
「どの志望校選んでも、もう同じ学校には通えないんだよなぁ……」
物心つく前からの、友達──幼馴染から彼氏彼女の関係になって一年ちょっと。
彼は地元で就職が決まっている。
私の希望する学科は県内の大学にはないので遠距離恋愛は確定だ。
ずっと、ずっと一緒にいられると信じていたのに。
「昨日のアレ、どう考えてもプロポーズにしか聞こえなかったんだけど。わかってるのかなぁ」
『四年間、お前が東京行ってる間に金貯めて、指輪買うから!』
うん、どう考えてもプロポーズ……いやプロポーズの予告?
「幼馴染が婚約者、か……」
────変わらないものはない
「パティシエ定休日」
この仕事を始めてから、クリスマスイブは毎年なぜか遅番。
帰宅するのは夜十時過ぎ。
だから、ケーキは前の日やその前の日に食べている。
「うわ。なんだこのシフト」
二十二日から四日間の連続遅番。
そして二十六日が休み。
「いくら人手不足だからって……」
とくに予定あるわけでもないから、いいか。
今年の私のクリスマスは二十六日だ!
※
怒涛の四日間が終わり、二十六日。
近隣の個人経営のケーキ屋はどこもかしこも臨時休業。
和菓子も洋菓子も製造販売している老舗菓子店に行ってみると、普段ケーキが並ぶガラスケースにはシュークリームのみ。
「まぁ、そりゃそうだろうなぁ……」
ここ数日、パティシエさんたちは忙しいどころか絶対に休めなかったわけで……
「この店ならあるよね。年中無休だっていうし」
いつも行かないローカルチェーンの菓子店に向かう。
妙に混んでいたが、ガラスケースにはケーキが何種類も並んでいた。さすがにクリスマス仕様のものは無いが、今日ケーキを買えるというだけで充分だ。
まさかケーキを探して菓子店をはしごすることになるとは。
来年からどんなシフトでもクリスマスはクリスマス後にしないようにしよう。とくにケーキはクリスマス前に食べよう。
────クリスマスの過ごし方
「サンタを捕まえたい高校生男子」
「あのさぁ……24日、みんなうちに泊まりに来てくれない?」
「パーティーでもすんのか?」
「いや、うちに泊まってほしいっつーか、俺の部屋で朝まで過ごしてほしいっつーか」
二学期の期末試験も終わり、自宅学習期間という名の試験休み。
今日は、俺の家に集まりダラダラ漫画を読んだりゲームしているのだが、また悪友のひとりが妙なことを言い出した。
「なんだソレ」
「キモッ。何が悲しくて野郎四人でパジャマパーティーせにゃならんのだ」
「パチュラーパーティ?」
「んー、なんだっけ、それ」
「たぶん違うってことだけは、なんとなくわかるぞ」
「結婚する男が、独身最後の夜を男の友人たちと過ごすパーティー、だったはず」
「さすがー!」
「へーそんなんあるんだ」
「え、結婚すんの?」
「違う違う!」
「男四人、夜通し傷を舐め合う会なら遠慮する」
「つーか、クリスマスって家族で過ごすもんじゃなかったっけ」
「そうだよ。男女でイチャイチャするヤツらは間違ってる!故に、俺たちは間違ってない!」
「いやー、それもちょっとあるんだけどさ」
「あるんだ……」
「そういうことなら俺は辞退するぞ。そんな虚しいことするくらいなら、おかんの手作りケーキ食ってギャルゲして早く寝るわ」
「いやいや、そういうんじゃないんだって」
「じゃあ、なんなんだよ」
どうにも歯切れが悪い。
「……言いにくいことなのか?」
「あー、ちょっと人道的にどうなのかな、って思えてきた」
「まさかとは思うが、カップル狩りしようってんじゃないだろうな」
「違うよ!今年こそ、サンタを捕まえたいから協力してほしいなー、なんて……」
恥ずかしそうに言うバカに俺たち三人は顔を見合わせる。
「……なんて?」
「だからぁ、今年こそはサンタを捕まえたいんだよ。毎年いつの間にか寝落ちしててさ。気付くと朝でさ」
長い沈黙が流れているが、純粋バカ以外の三人は目で会話した。
(おい、どうすんだよコレ)
(さすがの俺でもこいつの夢を壊すなんて残酷なことは出来ねぇ!あとは頼んだ!)
(なんでお前ら俺を見るんだよ!)
(お前この中で一番頭良いだろ。なんとかしてくれ)
「すまん。そういうことなら、ちょっと協力できない」
「お、俺も、そういうのはちょっと〜」
「右に同じ」
「そこをなんとか!」
「ほら、俺たちがサンタ捕まえたら、他の家にプレゼント届けに行けなくなるだろ」
「う……確かに。そうかも」
────イブの夜