小絲さなこ

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12/21/2024, 6:22:01 AM


「サンタは捕まる」



二学期の期末試験の最終日。
開放感を抱えながら、いつものメンバー四人でだらだらと歩く。

「鈴の音って邪気を払うっていうじゃん。ということはさ、サンタが来る時のあの音もそうなのかな」

悪友のひとりがまたわけのわからないことを言い出した。

「あれ鈴の音なのか」
「トナカイの首についてるアレだろ。だったら浄化じゃねぇと思うけど」
「じゃあなんなんだよ」
「飼い猫の首輪の鈴のようなもんだろ」
「飼いトナカイ?」
「トナカイペットじゃねーし。あれ馬みたいなもんだろ。馬に鈴ってつけるか?」
「ていうか、結構大きな音出してるよな」
「あれだ、車とかバイクの排気音をうるさくするのと同じなんじゃね?」
「暴走サンタ」
「イキリサンタ」
「捕まるだろ」
「あいつら不法侵入するしな。煙突から」
「うち煙突ないけどサンタ来るぞ、毎年」
「それは……」

言いかけて、やめる。
まさかとは思うが、高校生にもなって……いや、こいつならありえる。
俺以外のふたりもそう思っているようで、顔を見合わせた。

「え、俺変なこと言った?」
「いや……」
「お前はそのまま綺麗な心のままでいろよ……」
「いつも変だから気にするな」

────ベルの音

12/20/2024, 6:50:17 AM

「あの子のいちばん」


ひとり教室の隅で本を読んでいたあの子に声をかけたのは、時々見せる横顔が寂しそうだったから。

はじめは遠慮していたけど、だんだんと心を開いてくれて、それがとても嬉しかった。

一見おとなしいけど、将来の夢に向かって努力していたり、実は曲がったことが嫌いだったり……

あの子のいいところを一番知ってるのは私──そう思っていたんだ、と気づく。


「誰にも言わないから」
約束して明かした、好きなひと。
応援して、励まして、男友達も巻き込んで、あの子の初恋が実ったあとに残ったのは、ほんの少しの寂しさ。

友達をやめたわけではなくて、むしろ一番の友達だと、これからもずっと友達でいてほしいと言われた。
嬉しかったけれど、あの子の一番は、私がよかった。


────寂しさ

12/19/2024, 7:39:39 AM

「にんげんゆたんぽ」


「一緒の布団で寝ていい?いやいや、そういう意味じゃなくて」
「いや、どう考えてもそっちに取るだろ」


子供の頃の冬の寒い夜、きょうだいの布団に潜り込んで眠っていた。
妹よりも弟のほうが、あったかいから──と、小学校高学年くらいまで弟の布団に潜り込んでいたのだ。ちなみに断じてブラコンではない。


「……つまり、人間湯たんぽになれ、と?」
「まぁ、そうだね」
納得したような不服そうな顔をする彼。

「明日早いし。ねぇ、いいでしょ?」
「まぁ、いいけど……」


承諾を得たので、早速ぬくぬくさせてもらった。
アラームを設定するためスマホに手を伸ばす。どうやら雪が降り出したようだ。

「はー……これはいい湯たんぽだわ……」
「たしかに、あったかいな……」



────冬は一緒に

12/18/2024, 7:01:59 AM

「私がわからない話するのやめて」


「昨日、ドラッグストアの駐車場にセキレイがいて、五歳くらいの子が追いかけててさー」

「駅のクリスマスツリー見てきたんだけど、たいしたことなくて」

「先輩がコロッケパン食べたいなら、コロッケ買って食パンに挟んで食えばいいって言って……」


教室の隅にいると、いろいろな会話が聞こえてくる。
そのほとんどは、聞いても聞かなくても困らない話。
誰が話しても同じだろうと思われる内容。オチのない話。

私には、出来ない。


他人のせいにしたくはないが、心当たりはある。

小学校に入学したばかりの頃。
私は、なかなか周囲の子に話しかけることが出来なかった。
夏になってもひとりぼっち。
そんな私に声をかけてくれた子がいて、私はその子に懐いた。
しかし、その子は人の話を聞かない子だったのだ。

「なにそれ。つまんない」
「ふーん。で?」
「私がわからない話するのやめて」

その子は、自分の話を黙って聞いてくれる子が欲しかっただけだったのだろう。
どんな話題を振っても文句を言い、自分の話にすり替える。
私は何を話したらいいのかわからなくなり──何も話せなくなった。


「完全にトラウマだよなぁ……」

あの子が今どこで何をしているのかわからない。

今もあんな感じなのだろうか。
いや、さすがに成長していると思いたい。


────とりとめもない話

12/17/2024, 7:31:18 AM


「好きになってしまうじゃないか」


「今日はもう帰りなさい」

普段、口煩い先輩の声が、やたらと大きく聞こえた。

「いえ、まだ途中ですから」
「あとは私がやっておくから、家に帰りなさい」

どうやら俺の要領が悪く邪魔だから帰れというわけではないようだ。

「いいから帰りなさい」

先輩の口調はいつもと同じで鋭いが、眉は下がっている。
これは、残念な子、要らない子ってことか?

「わかりました……」

追い出されるように会社の外に出ると、ひんやりとした風が気持ち良かった。






「……ざんじゅうななどはちぶ」

昨晩、布団に入ってからの倦怠感と寒気、体の節々の痛みに嫌な予感はしていたのだ。

誰がどう見ても発熱しているという数値を表示している体温計をスマホで撮影し、送信。

俺の意識はそこで途切れ────




汗をかいた不快感に襲われ、瞼を開ける。
カーテンから漏れる光がない。
時間を確認しようとスマホに手を伸ばすと、一通のメッセージが届いていた。

玄関のドアノブに引っ掛けてあるビニール袋を回収。
スポーツドリンク、ゼリー飲料、常温保存できるタイプのゼリー、のど飴、額に貼る冷却シートと汗拭きシート……
そして、その一番下にメモが入っていることに気がついた。

「あーもう……こんなこと書かれたら……」


一昔前のトレンディードラマに出てきそうな、いかにもキャリアウーマンという風貌をしている先輩。
彼女は見た目通り、他人にも厳しい。
その先輩が、昨日やたらと早く帰れと言っていたのは、俺の不調に本人よりも早く気づいたからだろう。

たとえそれが、後輩に対する先輩の『当たり前』の行動だったとしても、こんなの……

ぶるぶると首を振る。

いやいや、風邪で思考がおかしくなってるだけだ。
俺はすべてを熱のせいにした。

それが間違いであると気づくのは、まだまだ先の話──




────風邪

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