小絲さなこ

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「私がわからない話するのやめて」


「昨日、ドラッグストアの駐車場にセキレイがいて、五歳くらいの子が追いかけててさー」

「駅のクリスマスツリー見てきたんだけど、たいしたことなくて」

「先輩がコロッケパン食べたいなら、コロッケ買って食パンに挟んで食えばいいって言って……」


教室の隅にいると、いろいろな会話が聞こえてくる。
そのほとんどは、聞いても聞かなくても困らない話。
誰が話しても同じだろうと思われる内容。オチのない話。

私には、出来ない。


他人のせいにしたくはないが、心当たりはある。

小学校に入学したばかりの頃。
私は、なかなか周囲の子に話しかけることが出来なかった。
夏になってもひとりぼっち。
そんな私に声をかけてくれた子がいて、私はその子に懐いた。
しかし、その子は人の話を聞かない子だったのだ。

「なにそれ。つまんない」
「ふーん。で?」
「私がわからない話するのやめて」

その子は、自分の話を黙って聞いてくれる子が欲しかっただけだったのだろう。
どんな話題を振っても文句を言い、自分の話にすり替える。
私は何を話したらいいのかわからなくなり──何も話せなくなった。


「完全にトラウマだよなぁ……」

あの子が今どこで何をしているのかわからない。

今もあんな感じなのだろうか。
いや、さすがに成長していると思いたい。


────とりとめもない話

12/18/2024, 7:01:59 AM