小絲さなこ

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10/12/2024, 4:08:57 PM


「アオハル」



「部活作ろうと思うんだけど、どう思う?」
「どうって何が。部活作るって、何部だ?」
「わかんない。何部がいいと思う?」
「いや、俺に訊かれても」

こいつはいつも言動が意味不明だ。
それは昔も今も変わらない。
高校に入って、それまでの真面目キャラ(若干天然)からギャルへとキャラ変したつもりなのだろうが、変わったのは外見だけ。そのことに安堵していることは、黙っておこう。

「なぜ部活作ろうと思ったんだ」
「なんかね、部活って、青春〜!アオハル〜!って感じするじゃん」
「あー……まぁ、部活に入ってないよりは、何かスポーツや文化的な活動に打ち込んでいる方が、側から見ればそう見えるだろうな」
「でしょでしょ〜」
「まさかとは思うが、青春するために部活作ろうっていうんじゃあるまいな」
「え、ダメなの?」
「ダメじゃないけどさ……」

俺はため息をついた。

「帰宅部とか、どうかな」
「帰ってどうする」
「じゃあ、部室でそれぞれネットしたり読書したり、好きなように過ごす、自由部」
「部活にする必要性を感じないから、申請しても却下されるだろうな」
「うー……じゃあ、こんなのはどう────」


たぶん、こいつは気づいていない。

目の前にいる幼馴染の異性が、自分をどういう目で見ているのかを。

青春は部活だけではない。

幼馴染の男女が、こうやって放課後に教室でくだらない話をしていること、そのものが後から振り返ってみたら青春以外の何ものでもないことを。



────放課後

10/12/2024, 3:21:13 AM

「カーテンをひく。復讐のために」


「嫌いなら嫌いって、はっきり言ってくれ」
「別に嫌いというわけでは」
「じゃあ……」
「でも、とくに好きというわけでもないです」
「どっちでもない?」
「そうですねぇ……あー、悪い人とは思ってないです」
「そ、そう……」


強いて言うなら「どうでもいい存在」なのだけど、さすがにそれを言うのは躊躇われる。

誰がどう見ても脈なしの対応。
大抵は、これで諦めてくれる。
貴方と付き合う気がないと、わかってくれるはず。


異性との間に壁を作る、とは言うが、私の場合は壁というよりも遮光遮熱のカーテンをひく、という方が近いかもしれない。

その気になれば簡単に開けることが出来るけど、無作法に開けるのは躊躇われるような、そういう対応をしているから。

今、私は恋愛どころではないのだ。
それよりも、どうしてもやり遂げたいことがある。


「また、あの子告白断ったみたいよ」
「お高く止まって、やな感じー」
「ぱっと見可愛いけど、めちゃくちゃ美人かって言われたら、それほどでもないし」
「クラスメイトに対しても敬語ってさー、キャラ作ってる感じで痛いよね」


私が教室を出た途端に始まる、陰口大会。
彼女たちはこっそりと話しているつもりだろうが、私は誰が何と言っているか、すべて記録している。

彼女たちとの間に隔てているのはレースのカーテン。

彼女たちと仲良く見えるよう振る舞っているが、私は大切なものを彼女たちには絶対に見せない。
本当の志望校も、彼女たちには内緒だ。

彼女たちは私にしたことを綺麗さっぱり忘れているのだろう。
小学生の頃の、あのことを。

彼女たちは、ただの戯れやゲームだと思っているのかもしれない。

だけど、私は貴女たちのしたことを、一生許さない。


手帳を開く。
本日行われた、彼女たちの陰口大会の詳細を記す。


卒業式にすべて壊してやる。
ただその気持ちを抱きながら、中学卒業までの日をカウントしている。


────カーテン

10/11/2024, 3:52:55 AM

「ただの幼馴染」


「恥ずかしいから、もう一緒に学校行くのやめよう」
そう言われたのは、小学四年生の秋。

「変な噂されるから、名前で呼ぶのやめろ」
そう言われたのは、中学一年の五月。

ずっと、私たちふたりきりでいられるのだと思っていた。
彼のそばにいるのは私だけなのだ、と。
だから彼のその言葉と態度に、当時の私は傷ついた。
そう、私は彼が好きだったのだ。




「なんだ、お前も同じ高校かよ」

高校の入学式後、教室で指定された席に座っていたら、彼の方から話しかけてきた。
それまでのことが無かったかのように。

「えー、びっくり。同じクラスなんて偶然だね」

私、女優になれるんじゃないかしらってくらい、自然な口調でいってやった。

でも本当は偶然じゃないよ。
お母さんから聞いて志望校決めたの。
知らないのは、彼だけ。


相変わらず苗字呼びをしてくることに寂しさを感じたけど、数年間避けられていたことを思えば、大したことではなかった。





「ただの幼馴染だよ」

クラスメイト達に私たちのことを揶揄われた時の、彼の言葉。
それが胸に突き刺さって、息すらも出来ない。


逃げるように屋上へと繋がる非常階段を駆け上がった。
誰にも見つからない秘密の場所。

唇を噛む。
雫が落ちていく。


やっぱり、私は彼が好きなのだ。
でも、彼にとっては……


私の名前を呼ぶ声がした。
彼だ。
苗字ではなく、あの頃のように名前を呼び捨てで呼んでいる。
何度も、何度も。

息の弾んだ彼に両肩を掴まれているけど、顔を上げる勇気なんてない。
どうして泣いているのかなんて、そんなこと、言えるわけない。



────涙の理由

10/9/2024, 3:39:30 PM

「映画どころじゃない」


母のせいで、大変なことに気がついてしまった。


映画の前売り券をたまたま入手したからと、隣の家に住む幼馴染が、一緒に行かないかと誘ってきた。
公開されたら絶対観たいと私が言っていた映画。
前売り券は既に自分でも入手していたけど、推しの女性アイドルの初主演映画なのだから、何度観てもいいではないか。

いよいよ、今日は約束の日。

なぜか映画館の近くで待ち合わせすることになっているから、そろそろ家を出なければ間に合わないのだが、なかなか服が決まらない。


「あら、まだ出かけてなかったの?」

部屋で唸っている私を見て母が驚いている。

「いくら初デートだからって……そんなに気合い入れる必要ないわよ。物心つく前からの付き合いなんだから」

「で、でーと?」

母の発言に思わず手に持っていたハンドバッグを落とす。

「デートでしょうよ。年頃の男女が約束して出かけるのだから」
「ち、ちがう!」
「いーえ、お母さんはデートだと思うわ。そうでもなきゃ、隣に住んでいるのに、わざわざ街の方で待ち合わせしないわよ」
「……ええ……」
「それに、ただの幼馴染と映画行くだけなら、普段着で出かけてるはずよ」
「それは、街に行くから……」
「もう時間ないんでしょ。ブツブツ言ってないで、お母さんが選んであげるから、早く行きなさい」


母が選んだ服は、普段の私が着ているものよりも少しだけシックな雰囲気のワンピースとカーディガン。
今年の誕生日に「そろそろこういう靴もあった方がいいわよ」と母がくれた、低めのヒールの靴。

「うん、可愛い。さ、いってらっしゃい。デートだからって、気負わずにね」

追い出されるように家を出る。
バス停まで駆けるように歩き出す。

これって、デート、なの?

今すぐに確かめたいけど、今それを知ってしまったら、この胸の鼓動が何なのか、認めなくてはならなくなる。

ああ、もう!お母さんのバカ!

映画どころじゃないじゃん!



────ココロオドル

10/8/2024, 3:28:51 PM

「禁止する旅」


何もかも放り出したくなることって、あるでしょう?
でも、それを実行する人はそれほど多くない。

もぎ取った有給は一日。
貴重な一日だ。どう過ごすかが、問題。

一日中家に閉じ籠もってゴロゴロするのも悪くはないが、ネットで動画見たりSNSをダラダラ眺めて終わってしまう気がしないでもない。
それはもったい無いような気がした。
それに、最近思うところがあり、デジタルデトックスというものをしてみるのもいいかな、と思ったのだ。

有給前日。
退勤後、会社の最寄り駅のロッカーに預けた荷物を取り出し、新宿駅へ向かう。
構内で焼酎ハイボールとじゃがりこを買って、予約していた特急に乗り込んだ。

スマホの電源を落とす。
本当は置いて行きたいけど、万が一のこともあるので持参するけど使わない。

この旅が終わったら、また怒涛の日々だ。
だけど、今からお家に帰るまでは、明後日以降のことは考えない。

スマホ禁止。
仕事のことを考えるの禁止。
あの人との将来に関することも、考えるの禁止。

縛りは多いけど、何も考えない一日を過ごしたいだけ。

ゆっくりと走り出した電車が揺れる。
窓ガラスに映る自分は、疲れと期待が混ざっている顔をしていた。


────束の間の休息

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