小絲さなこ

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「映画どころじゃない」


母のせいで、大変なことに気がついてしまった。


映画の前売り券をたまたま入手したからと、隣の家に住む幼馴染が、一緒に行かないかと誘ってきた。
公開されたら絶対観たいと私が言っていた映画。
前売り券は既に自分でも入手していたけど、推しの女性アイドルの初主演映画なのだから、何度観てもいいではないか。

いよいよ、今日は約束の日。

なぜか映画館の近くで待ち合わせすることになっているから、そろそろ家を出なければ間に合わないのだが、なかなか服が決まらない。


「あら、まだ出かけてなかったの?」

部屋で唸っている私を見て母が驚いている。

「いくら初デートだからって……そんなに気合い入れる必要ないわよ。物心つく前からの付き合いなんだから」

「で、でーと?」

母の発言に思わず手に持っていたハンドバッグを落とす。

「デートでしょうよ。年頃の男女が約束して出かけるのだから」
「ち、ちがう!」
「いーえ、お母さんはデートだと思うわ。そうでもなきゃ、隣に住んでいるのに、わざわざ街の方で待ち合わせしないわよ」
「……ええ……」
「それに、ただの幼馴染と映画行くだけなら、普段着で出かけてるはずよ」
「それは、街に行くから……」
「もう時間ないんでしょ。ブツブツ言ってないで、お母さんが選んであげるから、早く行きなさい」


母が選んだ服は、普段の私が着ているものよりも少しだけシックな雰囲気のワンピースとカーディガン。
今年の誕生日に「そろそろこういう靴もあった方がいいわよ」と母がくれた、低めのヒールの靴。

「うん、可愛い。さ、いってらっしゃい。デートだからって、気負わずにね」

追い出されるように家を出る。
バス停まで駆けるように歩き出す。

これって、デート、なの?

今すぐに確かめたいけど、今それを知ってしまったら、この胸の鼓動が何なのか、認めなくてはならなくなる。

ああ、もう!お母さんのバカ!

映画どころじゃないじゃん!



────ココロオドル

10/9/2024, 3:39:30 PM