「ただの幼馴染」
「恥ずかしいから、もう一緒に学校行くのやめよう」
そう言われたのは、小学四年生の秋。
「変な噂されるから、名前で呼ぶのやめろ」
そう言われたのは、中学一年の五月。
ずっと、私たちふたりきりでいられるのだと思っていた。
彼のそばにいるのは私だけなのだ、と。
だから彼のその言葉と態度に、当時の私は傷ついた。
そう、私は彼が好きだったのだ。
「なんだ、お前も同じ高校かよ」
高校の入学式後、教室で指定された席に座っていたら、彼の方から話しかけてきた。
それまでのことが無かったかのように。
「えー、びっくり。同じクラスなんて偶然だね」
私、女優になれるんじゃないかしらってくらい、自然な口調でいってやった。
でも本当は偶然じゃないよ。
お母さんから聞いて志望校決めたの。
知らないのは、彼だけ。
相変わらず苗字呼びをしてくることに寂しさを感じたけど、数年間避けられていたことを思えば、大したことではなかった。
「ただの幼馴染だよ」
クラスメイト達に私たちのことを揶揄われた時の、彼の言葉。
それが胸に突き刺さって、息すらも出来ない。
逃げるように屋上へと繋がる非常階段を駆け上がった。
誰にも見つからない秘密の場所。
唇を噛む。
雫が落ちていく。
やっぱり、私は彼が好きなのだ。
でも、彼にとっては……
私の名前を呼ぶ声がした。
彼だ。
苗字ではなく、あの頃のように名前を呼び捨てで呼んでいる。
何度も、何度も。
息の弾んだ彼に両肩を掴まれているけど、顔を上げる勇気なんてない。
どうして泣いているのかなんて、そんなこと、言えるわけない。
────涙の理由
10/11/2024, 3:52:55 AM