「ぶりっこの色」
「小学生の頃『ピンクはぶりっこの色』っていう風潮があって、嫌だったなぁ」
「あー、あった、うちの小学校もあったよ、それ」
「そうそう……で、水色選ぶんだよね」
「私は水色好きじゃなくて、黒選んでた」
「紫選んだら『いやらしい色だ。変態の色だよ』とか意味わからないこと言われた」
「あー、あったね。紫はヘンタイとか」
「なんだったんだろうね、あれ」
それぞれ別々の小学校どころか地域も違うのに、同じ年頃に同じようなことがあったということは『女の子らしくなりたくない』という気持ちが湧き起こる、そういうお年頃、というものだったのだろう。
「『ピンクってぶりっこの色だよ』ってしつこく言ってくる子がいて、ムカついたから『人の好きなものをヘンなふうに言う意地悪な子は嫌い』って言ったら、その子泣いちゃってさ……」
「うわぁ」
「その子、前から私の好きなものにケチつける子だったから、子供ながら鬱憤たまってたんだろうね……つい、口から出てた」
今、その子はどこで何をしているのか知らない。
でも、私に言われたことが泣くほどのことだったのなら、誰かの好きなものを貶したりケチつけたり……そういうことをもうしていないと思いたい。
────好きな色
「騎士と姫」
保育園の頃の君の夢は「おひめさま」だった。
俺に「おうじさまになって」と君が言ったから、身の程知らずな俺はすっかりその気になってしまったのだ。
だけど、成長するにつれて気がついた。
誰がなんと言おうと君はお姫様だけど、俺は王子様なんかになれない。そんな柄ではない。
だけど、せめて騎士になりたい。
常にお姫様をあらゆるものから守る、騎士。
だから、常に君の側に居させてほしい。
────あなたがいたから
「濡れた右袖」
みんなの前では、うっかり者を演じているから、毎度毎度、傘を忘れても怪しまれない。
どうせ隣の家なんだし入れてくれよ、と君の傘を奪う。
いつもより、近い距離。
君の方に少し傾けて長傘を持つ。
「今日午後から雨だって天気予報で言いまくってたのに。ニュースくらい観たら?」
「んー、それより寝ていたい」
「もー」
君の自宅に傘ごと押し込み、雨の中に飛び出す。
濡れた右袖を君に気付かれないように。
────相合傘
「罪悪感は最初だけ」
どんな汚い手を使ってもいい。
ほんの僅かな罪悪感を抱くだけで、貴女を手に入れられるのなら。
初めは、そう思っていた。
消えていく罪悪感と、それと引き換えに得るものは、ある種の快楽だ。
貴女が気が付かないうちに、見えない檻に閉じ込めていく。
一生気付いてほしくない。
その一方で、気付いて絶望に塗れた表情を見せてほしいとも思う。
罪悪感なんて、もう抱かない。
────落下
「Plan」
その日その日を生き抜くだけで精一杯。明日どうなるのかも
わからないのに、将来のことなんて、想像したことがなかった。
自分の好きなものすら、わからなかったくらいだ。やりたいことなんて、わかるはずがない。
たとえあったとしても、自分には無理だろうと思っていただろう。
あなたに出会うまでは。
あなたの描く人生設計には私がいて、ふたりで年を重ねていくことは当然のことなのだという。
長生きなんてしたくないと思っていた。
でも今は、可能な限りあなたの側に居たいと思う。
────未来