「変わっていく世界」
「あー、そっか……出会って一年か」
一年前の今日、彼と出会ったことがわかる投稿を眺める。
SNSでマイページの「思い出」をタップすると、「過去のこの日」の投稿が表示されるのだ。
今の私は、一年一日前の私には想像も出来ないだろう。
「君と出会って世界が変わった」
彼はそう言うけれど、ふたりが出会って一番変わったのは私のほうだ。
そして、次の一年後には、もっと私の世界は変わっていく。
──── 一年前
「ひだまりのなかで同じ本を」
好きな漫画や小説が同じだとわかったことから、ふたりはどんどん仲が深まっていった。
やがてふたりは結婚。
子供が生まれ、家を建てる際に、膨大な量の漫画や小説を収納するためのスペースを確保した。
今では小学生の娘と近所の男の子がそこで漫画を読んでいる。
「異性の幼馴染と仲が良いなんて、現実にあるんだ……」
漫画やラノベの世界の中だけかと思ってた、と君が言う。
「いや、まだわからんだろう。今は仲良くても中学生になったらどうなるかわからない」
「まぁ、このままあの子たちが結婚しても私は構わないけど」
「結婚て。まだ小学生じゃないか」
ついこの間まで「おおきくなったら、おとうさんのおよめさんになる!」って言ってたんだぞ。
「十年後にはあの子たち十八よ。十年なんてあっという間よ」
まさか本当に、二十年経たずにあの子たちが結婚するとは、この時は思いもしなかった。
────好きな本
「この関係を維持しているのは」
「あなた達が付き合ってないなんて、信じらんない」
友人たちはそう言うけれど、私達は単なる幼馴染。
登下校も一緒。昼食も一緒。休日も一日に何度かメッセージのやり取りをしているし、たまに一緒に出かける。
肩が触れるくらいの距離で歩いているけど、彼氏彼女の関係ではない。
今日の空は薄い雲がかかっている。
時々、厚い雲で暗くなったり、
雲が切れてうっすら青い空が透けて見える。
あいつに対する気持ちが、長く付き合っている友人としての気持ちなのか、いわゆる恋というものなのか、正直わからない。
ただ、わかっているのは、踏み込むのが怖くて、この関係を維持してるということ。
────あいまいな空
「解明されていない毒」
「紫陽花のここ。花びらに見えるけど、ガクなんだって。あとねぇ〜紫陽花には毒があるんだって」
娘はそう言って、えへんと胸を張った。
昨日俺が植物図鑑を見せながら教えたのだ。
「ねぇねぇ、ママは知ってたぁ?」
「んー、そうだねぇ……」
知ってたもなにも、これらの知識は俺が子供の頃に妻から教わったことだ。
妻はチラリと俺を見ると、ニヤリと笑った。
────あじさい
「私を困らせて楽しいのは貴女だけです」
「あんたのそういうところが嫌いなのよ!」
ヒステリックに彼女は叫んだ。
そうは言われてもなぁ……
仕事に私情を持ち込まないでほしい。
上司に「ふたりで話し合え」と言われたが、歩み寄りというものは、お互いにしないと意味がないと思う。どちらか片方だけではダメなのだ。
それに、こちらの話を聞く気もない人と冷静に話し合えるわけがない。
だけど、これだけは言っておかねばならない。
「私のことをどう思おうが貴女の自由です。私のことを『死ねばいいのに』と思っていても、私は全然構いません。ですが、業務に支障が出るようなことはしないでください。私を困らせて楽しいのは貴女だけです。貴女が私に業務上必要な連絡を怠った結果、他の部署との連携に影響が出てしまいました。今回は社内だったので、まだいいです。もしこれが取引先だったら会社としての信頼に関わると思うのですが────」
落語の『大工調べ』の啖呵のごとく捲し立ててしまった。私だって貴女のことは正直嫌いだ。それを言えたらどんなにいいか。でも私はそんなことはしない。仕事に私情は持ち込まない。
だが、今回、いくらなんでもマズイだろうということが起きたので、言いたいことは言った。
これで彼女が態度を改めてくれれば良いのだけど……そんなに甘くないか。
────好き嫌い