「駐車場で遊んでいたこと」
少し遠くに高層ビル。
その手前にマンションやらビルやらが見える住宅地。
遊び場は駐車場。
公園に行くには大通りを渡らなければならない。
子供たちだけでそこに行くのは危ないし、日中はほとんど車の出入りがないから、みんな駐車場で遊んでいた。
問題は、すぐに吠えて噛み付く犬の散歩コースだということ。
その犬が来るとみんな逃げる。一目散に逃げる。
たまに逃げ遅れて追いかけられたり、噛まれたりしていた。今から思うと、飼い主は何してたんだろうと思う。
駐車場だから、ボール遊びは出来ない。
せいぜい缶蹴り。
ドロケイが多かったかな。
あとは、隅にある椎の木に登ったり。
たまに駐車場から出て、家と家の間の狭い空間をすり抜けていく、探検ごっこ。
今から思えば不法侵入だ。
塀を乗り越えようとしてスカートの裾を破いたこともあった。
地面に書いた絵をバケツに入れた水で消して、バイバイ。
静かにしていると聞こえてきた、路面電車の音。
今はもう、軽くて静かな音に変わってしまった。
それでも、高層ビルと、煌びやかで鮮やかな光、路面電車を見ると帰ってきたと思う。
どんなに他の建物が変わってしまっても。
あの頃仲が良かった子たちが、この街にひとりもいなくても。
────街
「決める勇気」
とくに得意ということがなく、逆にすごく不得意なこともない。
自分の長所も短所もよくわからない。
自分がどうしたいのかが、わからない。
本当のことを言うと、やりたいことがありすぎて、どれを選んだら良いのかが、わからないのだ。
親の跡を継がなければならないヤツが少しだけ羨ましい。継ぎたくないって言ってるあいつには絶対言えないけど。
失敗したくない。
だけど、得意なことが特にない自分は、どの道なら、うまくいくのかわからない。
道を間違えるのが怖い。
外に出なければ、迷子にはならない。
ドアの前で立ち止まっている。
こんな感じだから、他人から見たらやりたいことがないように見えるのだろう。
決める勇気がないだけなのに。
────やりたいこと
「雨戸のない部屋」
眩しさに目を覚ます。
いつもなら起き出す時間だ。
日曜日。
試験も終わり、バイトもない。
雨戸がない西向きの部屋にも少し慣れた。
隣で眠る遠距離恋愛中の彼女が身じろぎする。
眩しいのだろう。もぞもぞと頭を布団の中に入れていく。
久しぶりに会えたのだから、どこかに行きたいし、色々なことを話したい。
だけど、もう少しこのままでいたいとも思う。
あと五分……
いや、十分。
君が目を覚ますまで、このままで。
────朝日の温もり
「柵(しがらみ)」
運命なんて、自分ではわからない。
いつ命を落とすのかもわからない。
数分の差で、そのあとの人生が変わってしまうかもしれない。
それなのに、普段はそんなこと気にしないで生活してる。
「本当は、やりたいこといっぱいあって……たぶん、何年生きても足りない」
だけど、親に決められたレールの上を歩くことになりそう、と彼は言う。
人の寿命なんて誰にもわからない。親よりも長く生きられる保証なんてどこにもないのに、親のために生きるの?
しがらみも、立場も気にしないで、自分のためだけに生きてほしい。
そう、言えたら……
他人の私には、黙って見守ることしかできない。
────岐路
「君には知られたくないこと」
君と結ばれないのならば、生きる意味も価値もない。
物語に出てくる魔王のような力があったなら、世界ごと滅ぼしてしまうだろう。
こんなことを考えているだなんて、君が知ったらどう思うだろうか。
君が誰かに奪われてしまったら、辺り一面焼き尽くすだろう。
閉じ込めたはずの君が脱走したら、世界の果てまで追いかけるだろう。
そして、二度と逃げられないように、この手で君の命を奪ってしまうかもしれない。
君のいない世界などに意味も価値もないから、そのまま世界も滅ぼすだろう。
何の力も持たないことに安堵して、苛立つ。
────世界の終わりに君と