「ふたりの始まりの日」
アクシデントや良くないことがあると「最悪〜!」が口癖のあの子と、ペアを組むことになった。
「うわぁ……最悪」
彼女はそう言うと、腕を組んだ。
いや、それはこちらのセリフだよ……と思っていても私は言わない。
私のことをどう思っていても構わないけど、仕事に私情は持ち込まないでほしい。
個人的な好き嫌いで仕事に支障が出るようなことがありませんように、と願う。
相性最悪の私たちが、最強のペアになるまであと百五十日。
────最悪
「あなたは知らない」
あなたを手に入れるために、ちょっとだけズルをした。
あなたも周りの人たちも、気が付かない。
それをいいことに、私は自分の見た目も性格も偽った。
本当はこんなピュアな子ではない。
休みの日は寝巻きのままで、一日中寝ている。
何もしないことをしたい。
あなたは知らない。
本当の私も、私が考えていることも。
あなたに恋をしていないことも。
────誰にも言えない秘密
「鍵を返す前日」
角部屋。西向き。六畳一部屋とダイニングキッチン。
五年前、初めてこの部屋で過ごした夜。
実家とは違う街の音がうるさくて寝付けなかった。
理不尽なことを言われ、何も手につかなかった日。
初めてこの部屋に友人を招いた夜。
一歩踏み出そうと決めた日。
色々なことが起きたけど、その度に立ち上がることが出来た。
新しくはないし、夏は暑くて冬は寒い。
それでも、ここが一番落ち着く場所だった。
この鍵を返してしまったら、もう二度とこの部屋には入ることが出来ない。
そんなこと、当たり前のことなのに。
初めてひとりで暮らしたここは、心の実家だ。
帰ることが出来ない実家。
きっといつかこの近くを通る時、この部屋の窓を見つめるのだろう。
────狭い部屋
「最後の最後まで」
終わるでもなく、消えるでもなく、失う。
まさにそうだなぁと、流れる雲を見送る。
指と指の間から溢れ落ちたものが積み重なって、それが広がっていることに気が付かなかった。
あなたへの想いの気配が消えるまで。
いつの日か自然に消えるまで。
最後の最後まで、精一杯好きでいよう。
失ったと思うのには、まだ早い。
諦めが悪いと自分でも思う。
それでも、あなたが誰かと永遠を誓うまで。
その時までで、いいから。
────失恋
「ひとことで進む一歩」
本当のことを伝えてしまったら、もう今までの関係ではいられない。
それはわかっているのに、止められなかった。
一歩進みたい気持ちと、このままでいたい気持ち。
どちらもあって、 どちらも選びたかった。
片方だけしか選べないのに。
まっすぐに進みたくても進めなかった。
同じところをぐるぐると回って、立ち止まって、またぐるぐる回る。それの繰り返し。
だけど、追い込まれて、言わざるを得なくなった。
さぁ、君はどう出るか……
君に見えないように、震える手を握りしめる。
────正直