「鍵を返す前日」
角部屋。西向き。六畳一部屋とダイニングキッチン。
五年前、初めてこの部屋で過ごした夜。
実家とは違う街の音がうるさくて寝付けなかった。
理不尽なことを言われ、何も手につかなかった日。
初めてこの部屋に友人を招いた夜。
一歩踏み出そうと決めた日。
色々なことが起きたけど、その度に立ち上がることが出来た。
新しくはないし、夏は暑くて冬は寒い。
それでも、ここが一番落ち着く場所だった。
この鍵を返してしまったら、もう二度とこの部屋には入ることが出来ない。
そんなこと、当たり前のことなのに。
初めてひとりで暮らしたここは、心の実家だ。
帰ることが出来ない実家。
きっといつかこの近くを通る時、この部屋の窓を見つめるのだろう。
────狭い部屋
6/4/2024, 2:52:17 PM