小絲さなこ

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3/20/2024, 2:38:52 PM


「ずっと聞きたかったこと」


初めて会ったはずなのに、そんな気がしない。
自分と似ていると感じるその男性に手を伸ばすが、触れることは出来ない。

聞きたいことも、知りたいことも、ありすぎる。


なぜ母さんを置いていったのか。
本当に母さんを愛していたのか。
そして、俺のことは……


いつか会える時が来たら、聞きたかったことが溢れ、頰に伝う。


何も言わずただ微笑む男性の姿が、薄くなっていく。



ずっと見守ってくれていたと、思ってもいいのだろうか。


────夢が醒める前に

3/19/2024, 3:10:23 PM



「言うもんか」



入学してだいぶ経つのに、彼女の笑顔を見た者はいない。

話しかければ応えてくれるが、無表情のまま。
初めはなにかと話しかけていた女子たちも、次第に話しかけなくなった。


ひとり分厚い本を読んでいる彼女。
遠くから、彼女のことをこっそりと眺めるのは嫌いではない。
だが、ただのクラスメイトとしか思っていなかった。別の世界の人だと思っていたから。


その彼女をたまたま見かけてしまった。
隣の市にある、隠れ家風カフェ。
クラシカルな制服を身に纏い、給仕してくれる彼女。まるで別人だ。
学校では決して見せない笑顔を客に振り撒いている。


会計時、彼女はささやいた。

「誰にも言わないで」



────胸が高鳴る

3/18/2024, 2:58:28 PM

「誓っていたのに」

  
いまどきこんなことってあるだろうか。

護られるべき血統と、命をかけて護る一族。
この時代になっても続いている、しきたり。

こんなことは自分たちの代で終わらせる。
そう誓っていたはずの親たちも、いつしか子供たちに繋いでいた。


もしも、ふたりが普通の家に生まれていたら……?
ごく普通の家で育った、ごく普通の幼馴染のふたりは、ごく普通の恋をして……
何度も空想し、願っていたこと。

ささやかな空想は、希望だった。
それが叶うことがないものだとは知らずに。


  
君は俺の前に飛び出す。



────不条理
 

3/17/2024, 2:43:30 PM




「この冬最後の雪の日 喫茶店 女友達と」



「あんな男のことなんかで泣いたりしない」と、貴女は窓の外に顔を向けた。

眉を吊り上げ、口を一文字に結んでいる。
雪降る街を眺めているように見えるけど、外の景色を貴女は見ていない。


「あんな男のことなんて忘れてやる」
「貴重な時間を無駄にした」
本当はそんなこと思ってないでしょ。思いたいだけ。


忘れられないと泣いてもいいんだよ。
涙は辛いことも苦しいことも、前を向くために流してくれる。
私が言うんだから、間違いないよ。
泣き虫だけど、ポジティブでしょう?


「説得力ありすぎ」
貴女は笑う。

その頬に、一筋の涙が流れた。


────泣かないよ

3/16/2024, 3:01:49 PM

「後ろから前へ」


君は、昔から僕の後ろに隠れていた。
君を守るのはいつも僕の役目。
それはずっと続いてきたこと。
だから、きっとこれから先もずっと、君を守っていくのだと思っていた。

だけど、君はそうじゃなかったんだね。
 
このままじゃいけないと思った君は、いつしか僕の後ろから隣に立つようになって、今では僕の前を歩いてる。
 
 
僕には怖いものがあるんだ。
君にも言えない秘密。
それは、君が僕の前からいなくなってしまうこと。
君に必要とされなくなること。
  

────怖がり

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