「言うもんか」
入学してだいぶ経つのに、彼女の笑顔を見た者はいない。
話しかければ応えてくれるが、無表情のまま。
初めはなにかと話しかけていた女子たちも、次第に話しかけなくなった。
ひとり分厚い本を読んでいる彼女。
遠くから、彼女のことをこっそりと眺めるのは嫌いではない。
だが、ただのクラスメイトとしか思っていなかった。別の世界の人だと思っていたから。
その彼女をたまたま見かけてしまった。
隣の市にある、隠れ家風カフェ。
クラシカルな制服を身に纏い、給仕してくれる彼女。まるで別人だ。
学校では決して見せない笑顔を客に振り撒いている。
会計時、彼女はささやいた。
「誰にも言わないで」
────胸が高鳴る
3/19/2024, 3:10:23 PM