お題『終わらない物語』
私がなんとなく物を書いてる身として長く手を出せないでいることがある。それは、『連載』だ。
一度、「連載します」と宣言してしまえば責任が生じてしまう。評価が気になって続きが書けなくなってしまったり、単純に自分が書いている作品に飽きたりして途中でやめたりすると、「エタる作家」というレッテルを貼られるような気がしてしまう。
それに連載というのは、ゴールを決めないと書けないし、そこに至るまでの途中のエピソードが膨大な数になると、「終わらない、まだ終わらないのか」と書いてる途中で気が遠くなりそうな気がしている。
だが、その一方で自分が必死こいて書いた長い話を読んでみたい気持ちもある。こんなことを書くとナルシストみたいだけど、私が「面白い」と思いながら書いた作品は何年経った後に読み返しても「面白い」と思えるだろうと思うから。それは物を書く人間であれば皆そうだろうと信じている節があるから言える。
でも、連載、やっぱりなかなか手を出すハードルが高いなぁ。
お題『やさしい嘘』
幼馴染の女の子の元気がここ最近ない。大切に飼っていた猫がある日突然、失踪したからだ。
「大丈夫、きっと帰ってくるよ」
と毎日のように励ました。
でも、本当は知ってる。
僕は見てしまったんだ。彼女のお兄さんが猫をつまみ出して、路地裏で暴力を振るっているところを。
さんざん痛ましい鳴き声を響かせたあと、だんだん静かになって、そのうちぐったりした猫をまたつまんで近くの川に投げ捨てているところを見てしまった。
だから、僕は絶対に彼女に言わない。
彼女の悲しみがすこしでもやわらぐまで、僕は何度でも嘘をつこう。
お題『瞳をとじて』
目を閉じて、と言われることがトラウマだ。
昔、お父さんにそれをやられ、言われるがまま目を閉じたら待てどもなにも起こらなくて、しびれをきらして目を開けたら姿がなかったことを思い出す。
お父さんは何日か後、魔王と戦う道中で相討ちになり、遺体となって発見されたと聞いた。それは二目と見ることができないほどひどいものだった。
私が止めるってお父さんは分かってたから、だからあんなことをしたんだ。
目を閉じて開けたら、いつも綺麗な魔法を見せてくれたお父さんは、あの日嘘をついた。
あれから何年か経ち、子供だった私は成人したし、世界は平和になったけど、今、意中の人と向き合って『目を閉じて』と言われた時、私は表情がこわばるのを隠しきれなかったと思う。
「えっと……すこし、怖いかも」
「どうして?」
「死んじゃったお父さんが昔それをやって、目の前からいなくなったことがあるの」
彼は言葉を詰まらせていた。しばらく沈黙が続く。
あぁ、もう彼との関係は終わりなのかなと思った時、彼に手を握られた。しっかり私の目を見据えて
「目を閉じて」
と言った。また逃げられるのでは? でも、今、世界は平和だ。彼を信用してもいいよね。
私はおそるおそる目をつむる。
その瞬間、つないでくれた手にあたたかな熱がこもる。
「いいよ、開けて」
目を開けると、彼は私の手に綺麗な花を生み出していた。
あぁ、これはお父さんがいつも私にしてくれた魔法だ。
花を手に私は彼に飛びつくように抱きついた。しばらく「いなくならないで」とすがるように騒いだ。その間、彼はそこにいてくれて、
後に泣き疲れて彼を私の家に招いた時、いつのまに私の頭に彼が生み出した白い薔薇の花が飾られていた。
やさしく撫でてくれている時にいつの間にか生み出されていた花。
私は彼を探しだして、後ろから抱きついた。
お題『あなたへの贈り物』
「ところで貴方、なにが欲しいんですか?」
「どうして急に」
「も、もうすぐ誕生日なのでしょう? べ、べつにスマホをのぞき見したわけじゃないですから」
目線をそらして彼は窓の外を見つめる。そういえばさきほど友人とのLINEで「誕生日プレゼントなにが欲しい?」と聞かれたばかりだ。彼はそれを見てしまったのだろう。そういえば目の前の大切な人には言ってなかったなと思う。
「では、一緒に買いに行きますか?」
と席を立ってみる。彼と視線が合う。顔がどこか赤いのは気のせいだろうか。
「あ、やっぱ……やっぱりいいです。自分で探してきますから」
あわてて顔をそらしたりなんかして、照れているのを必死になって隠そうとしているのがかわいい。
「あなたに選んで欲しいんです」
そう言うと、彼はこちらの顔をちら、とうかがった。
「わ、わかりました。そこまで言うんでしたら」
唇をとがらせながら喋った彼は席を立つと、足早に自分よりも先に部屋を出た。そんな様に愛おしさを感じて自分も彼の後をそこまで急ぎもせず追う。自分は背が高く大股で歩くらしいので、彼にはすぐ追いついてしまった。
お題『羅針盤』
長く付き合っていた彼氏と別れた。そろそろプロポーズされるかなと思っていた矢先のことだった。
彼氏のスマホにマッチングアプリを見つけてしまい、問い詰めたところ口論になり、最後には「お前とはそろそろ別れたいと思ってたんだ。ちょうどよかった」と言われた。
私はショックで彼の顔を見たくなくなり、その場から走り去ってしまった。
あてもなく繁華街を歩いていく。
すると、見知らぬ通りに入ってしまったようだ。すこし怖くなって引き返そうとすると、ふと、一軒の店が目に留まる。
普段だったら、怪しいと思って絶対に入らない場所だ。だけど、今の私はどうしてか惹かれた。
店の中に入る。客は誰もいない。
店内は、暗い通りに面している店と思えず白くて明るくてあたたかな雰囲気だった。
そこで私は一つの羅針盤に魅入られた。
それはくすんだ金色のアンティークな時計みたいな外見だが、文字盤の代わりにN、S、W、Eと刻まれていて、槍のような形をした焦げ茶の針がちょうどNとEの間をさしている。
「魅入られたのかね」
突如としてしわがれた声が後ろからして、私は思わず飛び上がりそうになる。背後に老人がいた。老人は私にやさしい笑みを向けていた。
「持っていきなさい。それは今の君に必要なものだ」
たしかに私は今、目の前にある羅針盤にひかれている。でも、どう考えても安くないだろう。
「あの、ここはクレジットは……」
「お代は必要ないよ」
思わず「えっ」と言葉がでる。そんなことってあるんだろうか。
「いや、でもお金……」
「お前さんにはその羅針盤が必要なんだ。この店は必要としている者の前だけに姿を現し、その人間にとって必要なものだけを与える。そういうところだ」
「でも……」
「持っていきなさい、その羅針盤はお前さんの進むべき方向を指し示してくれるだろう」
そう言って老人はきびすを返す。
正直、困惑している。だが、私は今、どうしてもこの羅針盤が欲しくて仕方がなかった。しかもお金を支払わなくていいと言う。
私はありがとうございました、と頭を下げ、羅針盤を手にこのお店を出た。
そうすると、たちまちのうちにそのお店は消え、もとの暗い通りに戻った。羅針盤の盤面が淡くあたたかみのある薄橙の光を放っていて、今、東をさしている。
私はなんとなくそれが示す方向に向かって歩みを進めることにした。
この時、私はまだ運命の出会いがそこに転がっていることを知らなかった。