白糸馨月

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お題『瞳をとじて』

 目を閉じて、と言われることがトラウマだ。
 昔、お父さんにそれをやられ、言われるがまま目を閉じたら待てどもなにも起こらなくて、しびれをきらして目を開けたら姿がなかったことを思い出す。
 お父さんは何日か後、魔王と戦う道中で相討ちになり、遺体となって発見されたと聞いた。それは二目と見ることができないほどひどいものだった。
 私が止めるってお父さんは分かってたから、だからあんなことをしたんだ。
 目を閉じて開けたら、いつも綺麗な魔法を見せてくれたお父さんは、あの日嘘をついた。
 あれから何年か経ち、子供だった私は成人したし、世界は平和になったけど、今、意中の人と向き合って『目を閉じて』と言われた時、私は表情がこわばるのを隠しきれなかったと思う。
「えっと……すこし、怖いかも」
「どうして?」
「死んじゃったお父さんが昔それをやって、目の前からいなくなったことがあるの」
 彼は言葉を詰まらせていた。しばらく沈黙が続く。
 あぁ、もう彼との関係は終わりなのかなと思った時、彼に手を握られた。しっかり私の目を見据えて
「目を閉じて」
 と言った。また逃げられるのでは? でも、今、世界は平和だ。彼を信用してもいいよね。
 私はおそるおそる目をつむる。
 その瞬間、つないでくれた手にあたたかな熱がこもる。
「いいよ、開けて」
 目を開けると、彼は私の手に綺麗な花を生み出していた。
 あぁ、これはお父さんがいつも私にしてくれた魔法だ。
 花を手に私は彼に飛びつくように抱きついた。しばらく「いなくならないで」とすがるように騒いだ。その間、彼はそこにいてくれて、
 後に泣き疲れて彼を私の家に招いた時、いつのまに私の頭に彼が生み出した白い薔薇の花が飾られていた。
 やさしく撫でてくれている時にいつの間にか生み出されていた花。
 私は彼を探しだして、後ろから抱きついた。

1/24/2025, 3:43:58 AM