お題『明日に向かって歩く、でも』
ここ何年、いつもと変わらぬ日常が流れている。はたから見れば私の様子は『普通』に見えているだろう、多分。
だけど、大切な親友だったあの子のことだけはずっと覚えている。つらい学校生活、二人で乗り切ろうって手を取り合ってたのに、ある日突然手紙を遺して学校の屋上から飛び降りた彼女のことを。
本当は今もずっと後悔してるし、なんでもっと守れなかったんだろう、と罪悪感に震えることがある。
あれから弱かった私は、生きられなかった彼女の分まで強くなろうと、自分を害する存在には徹底的に先生を巻き込んで対抗するようになったし、極力自分の精神に負担をかけないように常識の範囲で「いやなこと」は「いや」と言うようにした。これらの積み重ねで強くなったつもりだ。前を向いて歩いて行けている。
だけど、命日が近づくたび彼女の存在を思い出して夜、自分も死にたくなるほど気分がふさぎこんでしまうことがある。それだけは許されて欲しい。
お題『たったひとりの君へ』
クローンである俺には人権がなかった。
製造元の研究所から当時政権を握っていた旧政府が持つ最高機関に送られた時、なんでも政府の言う通りに行動してきた。政府に仇なす人間を捕獲したり、拷問したり。
俺達は量産型で捨て駒だ。人間が出来ないこと、やりたくないことを代行する存在だった。
だが、俺は「失敗作」と呼ばれた。心があるからだ。
ある時、一つの絵画に魅入られて俺は旧政府から逃げ出した。変装して姿を隠して、その絵を描いた男に弟子入りして、何年も修行して、やっと一枚、絵を完成させた。
その頃には、師匠はベッドから起き上がるのがやっとなほど老いていた。
完成した絵を見せた時、師匠が目を細めて
「これはお前だから描けたんだ。お前自身の表現で、発想で。お前の存在に代わりはいないだろう?」
そう言われて、俺は膝をつく。自分の存在が認められているという事実をしばらくかみしめていた。
お題『手のひらの宇宙』
万華鏡を作るワークショップに思わず参加した。客は私一人だ。
サンプルで飾られている万華鏡から見える景色がとても色鮮やかでいろんな表情が見えて綺麗だったから思わず見惚れていたら、それを作った作家に声をかけられたからだ。
私は好きな色の筒を選び、なかに入れるビーズや羽を選んだ。夜空の色を表現したいから青とか紺か、なんて思っていたら作家から「他の色もいれるときれいですよ」と言われて黄色やらピンク、赤紫も入れた。
あとはラメも入れて作家に筒の蓋を特別な接着材で閉める方法をレクチャーしてもらう。
そうしてできた青い万華鏡から見える景色は、まるで宇宙の向こう側にある銀河みたいだった。
作家からも「宇宙みたいですね」と言われて、私はとても嬉しくなった。
お題『風のいたずら』
このお題についての文章をちょうどドライヤーで髪を乾かしながら書いている。
ぱっと思いつくものが「風に吹かれたことでくそ上司の髪が実はカツラだった」とかそういうネタしか浮かばない。
そこで私はよりいいネタがないか、Geminiに頼ることにした。すると、「スカート」が出てきて
「貴方もなかなか俗っぽいわね」
と思わずクスっと笑ってしまった。
お題『透明な涙』
ついに見つけた。秘宝『透明な涙』
こういう時、怪盗よろしくトランプみたいに「今宵、透明な涙をいただきに参上する」みたいな予告状を出すのがかっこいいんだけど、そんな警備が強化されるようなバカな真似はしない。
あらかじめ警備員に変装した俺は人がいないことを確認し、透明な涙が飾られているガラスを破壊してそれを手にとってずらかる。
防犯ブザーが鳴らないのは俺があらかじめスイッチを切っておいたからだ。
宝を手にして走って走って走って、ようやく誰もいない海辺にたどりついて手のひらにある透明な涙を見つめる。
これは人魚が流した涙が宝石と化したものだ。無色透明、きらきら光る真珠みたいな形をした宝石。
昔、仲良くしてもらった人魚が持ち主の手先に囚われた時に流した涙の一粒だ。今、その人魚はもういない。陸に上がった後、干からびて砂になって崩れてしまった。
ようやくここまで来た。人魚のねーちゃんを家に帰すんだ。
「ようやく帰れるよ、ねーちゃん」
透明な涙を海水に浸ける。すると、それは溶けて海と同化する。ふと、俺の脳裏にねーちゃんの笑顔が浮かんで、俺は息をついた。