お題『たったひとりの君へ』
クローンである俺には人権がなかった。
製造元の研究所から当時政権を握っていた旧政府が持つ最高機関に送られた時、なんでも政府の言う通りに行動してきた。政府に仇なす人間を捕獲したり、拷問したり。
俺達は量産型で捨て駒だ。人間が出来ないこと、やりたくないことを代行する存在だった。
だが、俺は「失敗作」と呼ばれた。心があるからだ。
ある時、一つの絵画に魅入られて俺は旧政府から逃げ出した。変装して姿を隠して、その絵を描いた男に弟子入りして、何年も修行して、やっと一枚、絵を完成させた。
その頃には、師匠はベッドから起き上がるのがやっとなほど老いていた。
完成した絵を見せた時、師匠が目を細めて
「これはお前だから描けたんだ。お前自身の表現で、発想で。お前の存在に代わりはいないだろう?」
そう言われて、俺は膝をつく。自分の存在が認められているという事実をしばらくかみしめていた。
1/20/2025, 3:39:32 AM