お題『逆さま』
小説を書くネタが思い浮かばない。とりあえず逆立ちでもすれば浮かぶだろうか。さかさになることで頭に血液が行ってひらめくだろうか。
僕はさっそく壁に向かって立ち、床に手をつき、足をあげた。
だが、そこから足を伸ばすことができない。上げた両足はすぐにドンと床を鳴らす。
ならばもう一度、とさかだちにチャレンジする。勇気をだして足を上にあげた瞬間に勢いで足を伸ばすんだ。
と思って、伸ばしたら今度は伸ばした足のまま床を打った。
痛い、すごく痛い。
そこで僕はようやく思い出す。
学生時代の僕の体育の成績は「1」とか「2」だったことを。足はクラスで一番遅く、縄跳びも「●●跳び」と銘打つものは出来ず、あぁ、そういえば跳び箱の上で前転することなんて怖くて出来なかったっけ。
なんでこんな僕が血迷って逆立ちをしているんだろう。
痛む両足をさすりながら「アイテテテ」と立ち上がって、デスクに戻るとスマホを片手に大人しくお題から連想ゲームを始めた。
お題『眠れないほど』
眠る前にスマホをいじらず、適度に運動してお風呂に入ってからすぐふとんに入ればいいのに、スマホがやめられない。
ブルーライトを浴びながらひたすらどうでもいいことについて検索ばかりするから眠れないのである。
そのうちに最近あった嫌なこと、それがなければ昔あった嫌なことを思い出して悔しい思いに苛まれたり、悲しくなったり、恨みに思ったりするのだ。
そんなこと考えているから眠れなくなって時々一睡もできない時がある。
スマホなんていじらず、ちゃんと布団に入ればすぐに眠れて朝を迎えられるようになりたいと何年も願っている。
お題『夢と現実』
転校生の顔を見た瞬間、私は思わず目を見開いてしまった。夢にいつも出てくる王子様に外見が瓜二つだったからだ。
ただ、彼はあまりにも容姿端麗だからクラス中の女子が一斉にどよめき始める。
先生が黒板に名前を書いた。名前は、「樹里緒」、ジュリオ。夢の中の彼と同じ名前だなんて、こんな偶然信じられない。
ただ、私はクラスでも目立たない方で、カースト上位の女子たちからはすこしバカにされるポジションだ。
現実で声をかけたら、それこそ明日からいじめのターゲットになるだろう。
そんなことを考えていると、なぜか私の隣の席に彼が座った。たしかに私の隣はあいていたけど、まさかそこに彼が座るなんて、そんな漫画みたいなこと……なんて考えていると、ジュリオに似た人が一瞬びっくりした顔をして私のことを見た。
私だって驚いてる。だけど、それを表に出さないようにどうしたんだろ? とすこし首を傾ける。
すると彼が小声で
「あとで話せる?」
と言ってきた。話ってなんだろう。きっと夢の中の出来事かな? と思いつつ、違ったらどうしようと不安に思った。
体育館裏で待っているとジュリオが走ってきた。どうやら取り巻きの女の子たちをまいてきたらしい。
私はきわめて冷静にかたい口調で
「話ってなに?」
と聞いた。
「もしかして、夢の中で会ってたりした? 名前もその……『めあり』だし」
単刀直入にジュリオが言う。普通そんな質問してきたら「ヤバいヤツ」扱いされてクラスでの居場所がなくなるんじゃないかと思う。だけど、私は確信した。やっぱりこの樹里緒は、夢の中のジュリオと同一人物だ。
夢の中の私達は夫婦だ。なんの取り柄もないゆえに冷遇されてきた私に夫としてあてがわれたのが小国の王子のジュリオだった。彼は『冷徹で人を殺すことに躊躇がない男』として社交界では噂されていた。
だけど、ジュリオは誤解されやすいだけだった。無口で有能な騎士をやってるやさしい青年だった。私はそんな彼のことが好きになっていった。彼がいれば今まで冷遇されてきたことの傷跡がなくなっていく。
「うん。正直、教室入ってきた時驚いた。それに名前も一緒だし。もしかして、ジュリオなのって……」
ジュリオが近づいてくる。多分、抱きしめられるだろうな。戦争から帰ってくるといつもそうだ。あの時は、血の匂いがしていたけど、今はそうでもない。現実での彼を一つも知らない。だから
「あのさ。こっちの世界での貴方がどう過ごしてきたか聞きたいな」
そう言うと、ジュリオがすこし不満げな顔をする。でも、こんなところクラスメイトに見られたら正直一大事だ。
しばらく見つめ合ったあと、お互いに顔を見合わせて笑った。
お題『さよならは言わないで』
病に臥せっていた友達が死んだと聞いた。ついこの前、遊んだばかりだった。
私がお見舞いに行ったところ、友達が「医者と看護師の許可はもらったから、今度一緒に遊ばない?」と言ってきた。
だから私達はいろんな場所に行った。彼女はとっくに歩く体力をなくしていたから車椅子での移動となった。
地元のショッピングモールをぐるっとまわった後、海が見える丘へ。
海を眺めながら友達が言った。
「ねぇ、もし私が死んだらさ。ここから骨をまいて欲しいってお母さんとかお父さんに言ってあるの」
「縁起でもないこといわないでよ」
「あはは、ごめん」
それからしばらく沈黙が流れる。吹き付ける風は冷たくて、波の音が不規則に聞こえてくる。
私は友達との今までのことを思い出していた。出会ってからずっと一緒にいた幼馴染。それがあまり聞いたことがない病気にかかっちゃってさ。
もうすぐ彼女はここからいなくなる。わかってる。わかってはいる、頭の中では。
「私さ」
「なに」
「さよならなんて言わないから」
「うん」
「っていうか、まだまだ生きててもらわないと困るんだから!」
そう言って私は顔を覆った。彼女からなにか言ってくることはないまま、私達はしばらく丘の上にたたずんでた。
それから何日か過ぎて、私は彼女の葬式に参列している。
棺桶の中でお花に包まれて眠る彼女は病室にいた頃よりも健康そうに見えた。でも目を覚ますことは二度とない。
もう一度、私は心で彼女に言った。
(さよならなんて、絶対に言わないから)
お題『光と闇の狭間で』
目覚ましが鳴った。まだ時刻は朝の五時。
正直、昨日あまり寝れてないからもう一度眠りにつきたいと思う。だけど、二度寝をして遅刻してしまったトラウマが僕にはある。
このまま起きてしまおうか。でも、起きて朝食を食べたとて、仕事が始まるまでの時間をどうやって潰そうかとも思う。
光と闇の狭間で僕の意識が揺れて、結局眠気に負けてしまった。