白糸馨月

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お題『さよならは言わないで』

 病に臥せっていた友達が死んだと聞いた。ついこの前、遊んだばかりだった。
 私がお見舞いに行ったところ、友達が「医者と看護師の許可はもらったから、今度一緒に遊ばない?」と言ってきた。
 だから私達はいろんな場所に行った。彼女はとっくに歩く体力をなくしていたから車椅子での移動となった。
 地元のショッピングモールをぐるっとまわった後、海が見える丘へ。
 海を眺めながら友達が言った。

「ねぇ、もし私が死んだらさ。ここから骨をまいて欲しいってお母さんとかお父さんに言ってあるの」
「縁起でもないこといわないでよ」
「あはは、ごめん」

 それからしばらく沈黙が流れる。吹き付ける風は冷たくて、波の音が不規則に聞こえてくる。
 私は友達との今までのことを思い出していた。出会ってからずっと一緒にいた幼馴染。それがあまり聞いたことがない病気にかかっちゃってさ。
 もうすぐ彼女はここからいなくなる。わかってる。わかってはいる、頭の中では。

「私さ」
「なに」
「さよならなんて言わないから」
「うん」
「っていうか、まだまだ生きててもらわないと困るんだから!」

 そう言って私は顔を覆った。彼女からなにか言ってくることはないまま、私達はしばらく丘の上にたたずんでた。

 それから何日か過ぎて、私は彼女の葬式に参列している。
 棺桶の中でお花に包まれて眠る彼女は病室にいた頃よりも健康そうに見えた。でも目を覚ますことは二度とない。
 もう一度、私は心で彼女に言った。

(さよならなんて、絶対に言わないから)

12/4/2024, 3:39:46 AM