白糸馨月

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お題『夢と現実』

 転校生の顔を見た瞬間、私は思わず目を見開いてしまった。夢にいつも出てくる王子様に外見が瓜二つだったからだ。
 ただ、彼はあまりにも容姿端麗だからクラス中の女子が一斉にどよめき始める。
 先生が黒板に名前を書いた。名前は、「樹里緒」、ジュリオ。夢の中の彼と同じ名前だなんて、こんな偶然信じられない。
 ただ、私はクラスでも目立たない方で、カースト上位の女子たちからはすこしバカにされるポジションだ。
 現実で声をかけたら、それこそ明日からいじめのターゲットになるだろう。
 そんなことを考えていると、なぜか私の隣の席に彼が座った。たしかに私の隣はあいていたけど、まさかそこに彼が座るなんて、そんな漫画みたいなこと……なんて考えていると、ジュリオに似た人が一瞬びっくりした顔をして私のことを見た。
 私だって驚いてる。だけど、それを表に出さないようにどうしたんだろ? とすこし首を傾ける。
 すると彼が小声で
「あとで話せる?」
 と言ってきた。話ってなんだろう。きっと夢の中の出来事かな? と思いつつ、違ったらどうしようと不安に思った。

 体育館裏で待っているとジュリオが走ってきた。どうやら取り巻きの女の子たちをまいてきたらしい。
 私はきわめて冷静にかたい口調で
「話ってなに?」
 と聞いた。
「もしかして、夢の中で会ってたりした? 名前もその……『めあり』だし」
 単刀直入にジュリオが言う。普通そんな質問してきたら「ヤバいヤツ」扱いされてクラスでの居場所がなくなるんじゃないかと思う。だけど、私は確信した。やっぱりこの樹里緒は、夢の中のジュリオと同一人物だ。
 夢の中の私達は夫婦だ。なんの取り柄もないゆえに冷遇されてきた私に夫としてあてがわれたのが小国の王子のジュリオだった。彼は『冷徹で人を殺すことに躊躇がない男』として社交界では噂されていた。
 だけど、ジュリオは誤解されやすいだけだった。無口で有能な騎士をやってるやさしい青年だった。私はそんな彼のことが好きになっていった。彼がいれば今まで冷遇されてきたことの傷跡がなくなっていく。
「うん。正直、教室入ってきた時驚いた。それに名前も一緒だし。もしかして、ジュリオなのって……」
 ジュリオが近づいてくる。多分、抱きしめられるだろうな。戦争から帰ってくるといつもそうだ。あの時は、血の匂いがしていたけど、今はそうでもない。現実での彼を一つも知らない。だから
「あのさ。こっちの世界での貴方がどう過ごしてきたか聞きたいな」
 そう言うと、ジュリオがすこし不満げな顔をする。でも、こんなところクラスメイトに見られたら正直一大事だ。
 しばらく見つめ合ったあと、お互いに顔を見合わせて笑った。

12/5/2024, 3:59:24 AM