お題『一筋の光』
昔やってた遊びがある。それがまさかこんなところで役に立つとは思わなかった。
ある日突然眠らされて、気がついたら洞窟の中にいた。目覚めた時、体のあちこちに氷の膜がはられてたからいわゆる『コールドスリープ』状態にさせられたのだと思う。
洞窟の中には、俺の他にもう一人おっさんがいた。おっさんは積み上げた木の上で顕微鏡の接眼レンズをかざしている。
「なにしてるんだ?」
「お前もきっとガキの頃、やったことあるだろう」
そういえば接眼レンズにむかって一筋の光が差し込んでいる。まさか
と思った次の瞬間、木から煙が上がり始め、徐々に木が炎に包まれていく。周囲が明るく、暖かくなった。
俺は思わず近づいて暖を取る。
「まさかこんな懐かしい方法で暖を取れる日がくるなんて」
「だろう? この近くに研究所がある。必要とあればなんでも取ってこれるぞ」
「いや、今は温まりたい。ずっと寒かったんだ」
家族はどうしてるだろう、友達はと思ったけど今はそれよりも寒く暗い洞窟の中で明かりと、暖かさが欲しかった。
お題『哀愁を誘う』
昔、きれいで憧れてるおねーさんがいた。
そのおねーさんは、私が住んでるマンションの隣の部屋に一人で暮らしていた。
おねーさんは、いつもきれいで優しいひとだった。
私が遊びに行くと、いつもはちみつの香りがするあまい紅茶と色んな味のクッキーを出してくれた。
なんの話をするかといえば、とくにない。ただ私が学校であった話をにこにこしながら聞いてくれるだけ。
ある時、私が学校で出来た好きな人の話をした時、おねーさんの様子がいつもと違うことに気がついた。
「どうしたの?」
と聞くと、おねーさんはすこしだけ悲しそうな顔をした。
「好きな人がいるのっていいね」
「うん!」
「その人も貴方のことを好きでいてくれるなら、どうか大事にしてあげてね」
「もちろんだよ!」
そんな会話をしてその日は別れた。その日の夜、なんだか星空を見たくなってベランダに出たら隣のベランダにおねーさんがいた。
話しかけようとして、思いとどまった。おねーさんが泣いていたから。
なんだか見ちゃいけないものを見た気がして部屋に戻る間際、おねーさんの独り言が聞こえた。
「愛を返してあげられなくて、ごめんね」
お題『鏡の中の自分』
不思議な鏡を手に入れてから母はおかしくなった。もともと自分が美しいかどうかを常に気にしていて、子供である私にも『美しく在る』ことを教え、かわいいお洋服とかたくさん買ってくれた。その一方で食事のマナーや歩き方、立ち振舞いなどには人一倍気を遣い、厳しくしつけられたと思う。
そんな母が私にナイフを向けてきたのだ。
「あの鏡が言ってた。一番美しいのは、お前だと。こんなのはおかしい」
母は自分が一番美しくないと気がすまなかった。そう言えば母と二人で出かける時、私が引き立て役になるように地味なドレスを着せられたっけ。それでも自分を誇示することに必死な母を見てるだけで良かったのに。そんな母でも私は、大好きだから。
私は、鏡に一目散に向かうとその鏡を持ち上げて床に叩きつけた。粉々に割れる鏡。
ナイフ片手に青ざめながら膝をつく母を私は抱きしめた。
「おかしいのはこの鏡なのです、お母様。この世で一番美しいのはお母様です」
「だけど、この鏡は」
「人の美しさなんてそもそも主観です。鏡なんかで自分を見失わないでください。お母様は自分が美しいと思っているでしょ? それでいいじゃありませんか」
すると、母の体のこわばりがなくなった。私は、ふとちらばった鏡の破片を見る。いくつも自分の顔がある。
母と違い、目はタレ目で鼻はだんご、顔はしもぶくれ。美しい母が夫と言う名の引き立て役になるようあえて容姿が優れない父を選んだ結果だ。私の顔は父に似ている。思わず呟いた。
「この節穴が」
お題『眠りにつく前に』
家に急に来た男が『●●家の繁栄に尽力いたします。なんでもお申し付けください』と言って、私の家の者を皆、手中におさめていった。
やさしいふりをして、家の権力を片っ端から握っていく。その異常性に気がついた私は、父や母、メイドにいたるまで彼の異常性を説いたが誰も信じてはくれない。
それどころか、皆、私の言葉を「信用できない」とし、家での立場がなくなっていった。
ある時、急に男から食事に誘われた。いぶかしみながらも応じ、美しい庭がある邸宅に連れて行かれた。
ワインが入ったグラスで乾杯し、それを一口、口にした瞬間、息ができなくなる感覚を味わう。
呼吸が、呼吸ができない。
私は、椅子から転げ落ち、その場でひざをつき、ついには横たわってしまう。
最後に耳にした言葉は、耳を疑うものだった。
「大丈夫。貴方はもう、なにもしなくていい。これは自殺として片付けます。今や誰も僕を探るものはいませんから」
私は、悔しさを感じる間もなく息を引き取った。
という記憶が私の脳裏に流れる。前世はある貴族の令嬢だが、どうやらいきなり来た父の秘書によってはめられたらしい。あれから二十年が経過しただろうか。
私が呪術を生業とする家に転生したのは、神のおぼしめしだろうか。彼女に報いるためにあの家に乗り込む必要がある。
あの男は、今や領主としておさめる土地一帯を独裁的に支配しているそうだ。私は、そこの家に乗り込むための準備に取り掛かり始めた。
お題『永遠に』
私には好きな人がいる。だけど今日、別の人と結婚する。
高校生の時からずっと好きで、友達として一緒にいたけど、彼は数年前に会社の同期と結婚した。その時、どうしようもなく病んだ。
その子より私のほうがかわいいよねとか、その子より私と一緒にいるほうが楽しいよねとか、いろいろぐるぐる考えていた矢先に夫になる人と知り合った。
正直、一緒にいて彼みたいな楽しさはないし、趣味合わないし、なにより彼のほうがずっとかっこいい。
それでも一緒にいようと決めたのは、婚約者が私を好きでいてくれるからだ。永遠に好きな人を諦めないといけないし、そんな私でもいいと言ってくれる彼氏には申し訳なく思う。
婚約者は、楽しそうに私との結婚生活に対する夢を語るけど、私は私の思いを一生諦めたんだと思いながら、自分の心を無にしながら死ぬまで生きるつもりだ。