お題『眠りにつく前に』
家に急に来た男が『●●家の繁栄に尽力いたします。なんでもお申し付けください』と言って、私の家の者を皆、手中におさめていった。
やさしいふりをして、家の権力を片っ端から握っていく。その異常性に気がついた私は、父や母、メイドにいたるまで彼の異常性を説いたが誰も信じてはくれない。
それどころか、皆、私の言葉を「信用できない」とし、家での立場がなくなっていった。
ある時、急に男から食事に誘われた。いぶかしみながらも応じ、美しい庭がある邸宅に連れて行かれた。
ワインが入ったグラスで乾杯し、それを一口、口にした瞬間、息ができなくなる感覚を味わう。
呼吸が、呼吸ができない。
私は、椅子から転げ落ち、その場でひざをつき、ついには横たわってしまう。
最後に耳にした言葉は、耳を疑うものだった。
「大丈夫。貴方はもう、なにもしなくていい。これは自殺として片付けます。今や誰も僕を探るものはいませんから」
私は、悔しさを感じる間もなく息を引き取った。
という記憶が私の脳裏に流れる。前世はある貴族の令嬢だが、どうやらいきなり来た父の秘書によってはめられたらしい。あれから二十年が経過しただろうか。
私が呪術を生業とする家に転生したのは、神のおぼしめしだろうか。彼女に報いるためにあの家に乗り込む必要がある。
あの男は、今や領主としておさめる土地一帯を独裁的に支配しているそうだ。私は、そこの家に乗り込むための準備に取り掛かり始めた。
11/3/2024, 4:52:01 AM