白糸馨月

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お題『哀愁を誘う』

 昔、きれいで憧れてるおねーさんがいた。
 そのおねーさんは、私が住んでるマンションの隣の部屋に一人で暮らしていた。
 おねーさんは、いつもきれいで優しいひとだった。
 私が遊びに行くと、いつもはちみつの香りがするあまい紅茶と色んな味のクッキーを出してくれた。
 なんの話をするかといえば、とくにない。ただ私が学校であった話をにこにこしながら聞いてくれるだけ。
 ある時、私が学校で出来た好きな人の話をした時、おねーさんの様子がいつもと違うことに気がついた。

「どうしたの?」

 と聞くと、おねーさんはすこしだけ悲しそうな顔をした。

「好きな人がいるのっていいね」
「うん!」
「その人も貴方のことを好きでいてくれるなら、どうか大事にしてあげてね」
「もちろんだよ!」

 そんな会話をしてその日は別れた。その日の夜、なんだか星空を見たくなってベランダに出たら隣のベランダにおねーさんがいた。
 話しかけようとして、思いとどまった。おねーさんが泣いていたから。
 なんだか見ちゃいけないものを見た気がして部屋に戻る間際、おねーさんの独り言が聞こえた。

「愛を返してあげられなくて、ごめんね」

11/4/2024, 11:35:29 PM