お題『やわらかな光』
友達に誘われてギルドを作り、はじめてクエストの仕事を受けることになった。
俺達の職業は皆、攻撃系だった。剣士、拳法家、魔法使い。一人も回復ができる人なんていなかった。
でも酒場のおじさんに『ラクショーよぉ』と言われたので、はじめてで逆に気が大きくなっていたのか、俺たちはダンジョンに向かって最弱といわれているモンスターであるスライムを倒しに行った。
甘かった。
スライムは、一匹だけじゃなかったのだ。宝箱を守るように何匹かいて、それが寄り集まって大きなモンスターに姿を変える。もうすでに拳法家は倒れてて、剣士も膝をつき、魔法使いである俺は牽制に炎を打つことだけでせいいっぱいだった。
そのとき、突如現れたやわらかな白い光が俺たちを包む。
その瞬間、傷が消え、なんだか重かった体が軽くなったような気がした。
続いて青い光が剣士を包む。剣士は雄叫びをあげながら大きなスライムに斬り掛かった。俺も負けじと魔法を発したらいつもより大きな炎が手から出て驚いた。
スライムは、両断され、消し炭になって消えた。
後ろを振り返ると、僧侶が立っている。
「大丈夫ですか? 回復魔法を持たれてないようでしたので心配で」
その僧侶は美人だった。こんな女神が俺たちを助けてくれたのだと。倒れている拳法家に僧侶がやわらかな光の魔法で包んでいるのが見えて、俺は思わず心で
(結婚してください)
と呟いたのだった。
お題『鋭い眼差し』
生まれた場所は、人の死体なんて当たり前に転がっている無法地帯だった。毎日誰かと誰かが喧嘩して、時には殺し合いに発展する。そんな街。
物心ついた頃には、一人だった。両親の顔は知らない。一人地べたに横たわって、死を待つ日々だった。
そんな時に悪いやつが来て、
「女のガキは高く売れる」
と言って、抱えあげられてしまった。こわいのにわたしはまだ小さくて、それにおなかが空いていたから抵抗できなくて、あぁこれでもう死ぬんだって思った。
そんな時、銃声が聞こえて男が崩れ落ちたと同時に何者かに素早く抱き上げられる。
見た目はわたしよりは年上で、でも、今まで見てきた人達よりはずっと若く見えた。人が来なさそうな小さな小屋に入って、わたしにパンを与えてくれた。そのひとの目は、とても鋭かった。でも、わたしはうれしくて目から涙をこぼした。
彼はわたしに名前をくれた。自分が「アイン」で、わたしが「ツヴァイ」だって。意味がわかった今考えるとひどい名前だと思う。
あれから何年の月日が経っただろう。アインは銃の腕と俊敏さを買われて組織に所属する殺し屋になった。
たくさん人を殺したお金でわたしたちはおうちが貰えて、人から盗まなくてもご飯が食べられて、お金があるはずなのに贅沢の仕方を知らないわたしたちは、人から見れば質素に暮らしていたと思う。
ある時、帰ってきたアインはテーブルの上に乱暴にファイルを置いてきた。開いたファイルの中身は小綺麗な見た目の男性の写真と、その男性のプロフィールだった。
「オマエと一緒にいて十五年が経つ。もうここから出ろ」
そう言ってアインは、自分の部屋に戻る。
わたしは、心臓がわしづかみにされる想いがした。これはわたしのためにアインが探してきてくれた結婚相手だ。たしかにプロフィールをみる限り裕福で、写真の彼はとてもやさしそうに見えた。
でも、わたしはいやだった。アインの部屋へ行く。彼はベッドの上で銃の手入れをしていた。
「ねぇ、なにあの写真」
「そいつと結婚すれば、オマエ、ここにいるよりずっと幸せになれる」
「勝手に決めないでよ」
わたしはアインに抱きついた。染み付いた血の匂い。今では大きくなった胸板。こここそがわたしの居場所だと思っている。
「わたしはアインと一緒にいたいの。でも、それじゃいや?」
気づくと涙がこぼれてくる。アインとはなれるなんて考えられない。しばらく沈黙が続いて、アインがため息をついた。
「わかった。見合いは断る……その、はなれてくれ」
言われるがままにはなれると、アインは真っ白で冷たい印象がする顔をわずかに赤らめ、鋭い氷色の眼差しは鋭利さを失っていた。
彼のそんな姿を見られたのがうれしくて、わたしはイヒヒと笑ってからもう一度抱きついた。
お題『高く高く』
推しているアイドルグループの総選挙が始まった。一位になれば、そのメンバーはセンターになれる。
Twitter……いや、Xにはすでに積み上げられた投票券入りのCDの画像があげられている。
私はそれを見て、焦燥感に駆られた。
前まで、某有名アイドルグループがそれをやるたび、正直ばかじゃないのとか思っていた。が、今はそうも言っていられない。
私が推している子は、人気ランキングとしてはグループ内でも下から数えたほうが早い。推しはいっつも自分が目立つよりも、他のメンバーが映えるように立ち回るのが異常にうまいのだ。だが、それゆえに「誰だっけ?」だの、活躍したとしてもコメントされることがあまりない。
私は、それがいつも歯がゆかった。さっそくCDを百枚購入した。高すぎる対価に心臓が痛いほど高鳴る。
もっと、もっと積み上げて推しをセンターにするんだ。残業、頑張らないと。
お題『子どものように』
つかれた。ここのところ残業続きだ。
僕には最近行きつけになっているバーがある。
一見なんの変哲もないバーだ。だが、そこでは二十から四十代の女性がいて、まるで母親のように「おかえりなさい」と出迎えてくれる。
僕は「ままぁ」と言いながらいつも指名している四十近い女性のもとへかけより抱きつく。キャストさんは、まるで母親が子供をあやすかのように背中を優しくポンポンたたいてくれる。
哺乳瓶に入ったミルクを飲ませてくれ、食べ物をスプーンで食べさせてくれる。まるで、子ども、いや、赤ん坊に戻ったかのように。
ひとしきり、子どものように甘えた後、部屋に備え付けられている電話が鳴って、僕は、その場から立ち上がってお母さん役のキャストからはなれる。
「本日もありがとうございました。また、お願いします」
そう言って部屋を出て、お酒を一杯飲んでバーを出て大人に戻る。
社会人には、時折子供に戻る時間が必要だ。そうでないとやってられない。
お題『放課後』
ホームルームが終わった瞬間、逃げるように学校から出る。向かう先はゲーセン。
クラスには一人も友達がいなくて、私は時折陰口を叩かれる側だから居心地が悪すぎて、学校は精神がすり潰される場所だ。
いつものゲーセンへ行って、ようやく呼吸が出来た気がする。タバコくさいこの場所は皆、私のことなんて見てなくてかえって居心地がいい。
音ゲーをやって、難しい曲がフルコンボできたので思わずガッツポーズしてしまったら、背後にいたクラスの男子と目が合ってしまった。しかもよりによってカーストトップグループのうちの一人だ。それもこともあろうに女子からモテるイケメンって言われてる奴。
「あ……」
私の大事な場所まで『学校』に侵食されたくない。
逃げていったん出直そう。そう思った時、
「待って」
と腕をつかまれる。びっくりしすぎて思わず体がこわばる。そいつは一方的に話しかけてきた。
「っていうか、佐藤さんってゲームめちゃくちゃ上手いんだね」
その話し方が親しげなのにもびっくりして思わず目を丸くする。今まで陽キャという生き物からは、私は邪険に扱われたり、バカにされたりしてきたから。
「……なんでここに来たの?」
「あー……あいつらといると疲れるし」
え、そんなこと思ってたの? そう思うと目の前の男に親しみが湧く。
「君みたいに学校終わった瞬間、逃げることができたらどんなに楽かと思うよ」
「ふぅん」
モテるこいつでもそうなんだって思う。たしかにあんなバカ騒ぎばかりしてるのを聞かされたり、人を容姿でジャッジしたりする集団の中にいたら頭がおかしくなりそうだ。
「あのさ」
「ん?」
「レベルどれくらい?」
「あー……君よりは弱いと思う」
「私のレベル知ってんの?」
「うん、見えたから」
「じゃ、やりなよ。見ててあげるから」
「うわー、やりづれぇ」
そう言って、クラスのモテ男が笑う。その後、しばらく二人で交代しながら遊んで、対戦モードをやって、
ふとした瞬間に『あれ、これが青春ってやつ?』なんて思ってしまったりもした。