白糸馨月

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お題『子どものように』

 つかれた。ここのところ残業続きだ。
 僕には最近行きつけになっているバーがある。
 一見なんの変哲もないバーだ。だが、そこでは二十から四十代の女性がいて、まるで母親のように「おかえりなさい」と出迎えてくれる。
 僕は「ままぁ」と言いながらいつも指名している四十近い女性のもとへかけより抱きつく。キャストさんは、まるで母親が子供をあやすかのように背中を優しくポンポンたたいてくれる。
 哺乳瓶に入ったミルクを飲ませてくれ、食べ物をスプーンで食べさせてくれる。まるで、子ども、いや、赤ん坊に戻ったかのように。
 ひとしきり、子どものように甘えた後、部屋に備え付けられている電話が鳴って、僕は、その場から立ち上がってお母さん役のキャストからはなれる。
「本日もありがとうございました。また、お願いします」
 そう言って部屋を出て、お酒を一杯飲んでバーを出て大人に戻る。
 社会人には、時折子供に戻る時間が必要だ。そうでないとやってられない。

10/13/2024, 9:03:55 PM