白糸馨月

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8/31/2024, 3:04:00 AM

お題『香水』

 ここはある条件をクリアすると、誰でも魔法少女になれる世界の話。
 魔法少女は、小学生からなることが出来るけど、なるには魔法界と人間界の境にある太い幹を持つ巨大な大木に住む神様からの審査を受けなくてはいけない。
 小さい頃、いじわるな幼稚園の同級生に「あんたみたいに可愛くない子は魔法少女になんてなれないよ」と笑われて自信を無くしたけど、結果的に受かったのは私で、同級生は落ちた。
 魔法少女に必要なのは、『人を思いやれる優しい心』なのだと神様に言われた。魔法少女になってから六年が経とうとしているけど、まだ分からないままだ。
 
 魔法少女には変身アイテムがある。今は真ん中のボタンを押すと変身できるようになるカラフルなブローチを身に着けているが、最近、先輩の魔法少女から「香水もあるよ」と教えて貰った。
 それで今、私は大好きな先輩と一緒に魔法少女だけが入ることができる魔法道具店にいる。
 ここはいつも私が通う駄菓子屋さんみたいな魔法道具店と違い、内装が白くてきれいな香水や杖がたくさん並べられていた。先輩は

「道具の方が貴方を選んでくれるよ」

 と言った。なんの変身アイテムを使うかは、道具の方が選ぶというのはブローチを買った時と同じみたい。

「うわぁ……」

 しかし、香水はどれも可愛くおしゃれなデザインで、とても私が選ばれるとは思わなかった。なかには道具の方から試すまでもなく、「あんたにはまだ早いわよ」と語りかけてくるものまであるのだ。魔法少女をわりと長くやってるとそういうことがわかるのだ。
 なんだか選ばれる気がしないなぁ、と思ったその時。

「ぼくだよ、ぼく!」

 と語りかけてくる声が聞こえた。ちら、と見ると透明なはちみつのつぼみたいな小さな小瓶だった。蓋は小さな花の飾りがついてる。甘くてかわいい雰囲気がする香水瓶と、オレンジから赤、黄色にかけてグラデーションしている液体だった。
 私はドキドキしながらその香水瓶を手に取り、一吹きした。それだけでもすこし大人になったみたいでドキドキするのに、一瞬にして変わった衣装は白と黄色を基調としたいつも着ているものよりすこし大人っぽいものだった。

「わぁ、かわいいー!」

 先輩が歓声をあげ、店員さんも「相性バッチリですね」と言ってくれた。私はドキドキしながらも

「でも、高いんだろうな」

 とこぼすと、店員さんが「貴方は選ばれたのでお安くします」と言ってくれた。意外といつも行く魔法道具店とおなじだった。
 変身を解くと、さっそく会計に向かい、今まで依頼をこなしてきた分のマイルがたまっていたからそれで支払った。持っているマイルがギリギリ足りたので良かったと胸を撫で下ろす。

 しかし、これから私、香水で変身できるのか。
 そう思うと、自分がすこし大人になったみたいで気恥ずかしさを感じる。だけど、

「えへへ。これからよろしくねぇ」

 なんて、アイテムが甘えた感じで語りかけてくるからなんだか気が抜けてしまって、買ったばかりの香水瓶を撫でてあげた。

8/30/2024, 4:16:10 AM

お題『言葉はいらない、ただ……』

 私はいわゆるお金持ちしか入れない学校に入ったはずだ。渋滞するリムジンと、友達からナチュラルに聞かされるラグジュアリーすぎる海外旅行の話や、家柄の話なんて想定内だ。
 裕福な家の出が多いから皆、自分に余裕があって、人にやさしくできる人たちが多いのだと、この学校に入れることを薦めた先生やら親が言っていた。
 それははっきり嘘だと断言しよう。
 今、私が目の当たりにしているのは男子のみで構成されている二つのグループが校庭で向かい合っているところだ。しかもその様は穏やかではない。
 私が入学した時、なぜだか知らないが二つの大きな派閥ができていて、その二グループが学校を牛耳っているのだと内部進学生の友達から聞かされた。しかもそのグループは双方仲が悪いとのこと。
 派閥とか、牛耳るとかなんだよとか笑ってたら、そのグループに所属している同級生の男子にわざと肩をぶつけられて舌打ちされたのを覚えている。なんで分かったかというと、派閥に所属している生徒は皆、腕章をつけているのだ。
 それでおっかなくて、比較的庶民である私は日陰に隠れようと決意したのである。
 それが今、どういうことか。二つのグループが決闘を始めるらしいじゃないか。誰にも止められないのは派閥のリーダーが二人共、某財閥の跡取り息子であるからだ。学校に多額の資金を援助している。だから誰も何も言わないのだ。
 しかもその財閥同士は、世間的にライバル関係であると知られている。
 私含むヤジウマ達がその様子をうかがっていると、赤い腕章をつけている背が高く筋肉質な派閥のリーダーがマイクを手に取った。立っているだけで王者の風格を感じる。たとえるなら獅子。

「なぁ、分かってるよなぁ?」

 ここはヤンキー漫画の世界なのかと勘違いしたくなるような喋り方に思わず困惑する。
 一方、クールな佇まいをしている青い腕章をつけた容姿端麗な派閥のリーダーが拳を握る。こちらも違う意味で風格を感じる。たとえるなら龍。

「あぁ。僕達の間に言葉はいらない。ただ、どちらがこの学校を支配するに値するか決着をつけようじゃないか」
「ハッ、お喋りな野郎だなァ!」

 瞬間、赤い腕章のリーダーの姿が消えたかと思うと、青い腕章のリーダーに迫っていた。だが、彼は赤い腕章のリーダーの拳を素手で受け止める。
 そこから他のメンバー達が合戦だー! と言わんばかりに殴り合いが勃発した。
 周囲はそのあまりの世界観を間違えた地獄絵図ぶりに地面に膝をつくもの、気絶する者、私のように呆然と立ち尽くしている者、中にはあの中に推しがいるのだろう、しきりに名前を叫びながらうちわを振っている女子生徒がいたりした。

(おとうさん、おかあさん、わたし、学校転校してもいいかな……?)

 あまりのカオスな光景に私はこんなことを頭に浮かべていた。

8/29/2024, 3:43:17 AM

お題『突然の君の訪問』

 呼び鈴が鳴ったので出たら久々に会う友達だった。大学時代、すごく仲が良かったけど結局就職した会社が忙しすぎて疎遠になっていた。でも久しぶりに顔が見られてうれしい。

「やっほー! 今、あがってもだいじょーぶ?」

 気の抜けた感じがする喋り方は相変わらずで私は二つ返事で「いいよー」とオートロックを解錠する。

 友達の手にはチューハイ缶がたくさん詰まっているビニール袋があった。私は自分の部屋にうながすと、友達がそこに座る。

「なんだかそうしてると、大学時代に戻ったみたいだね」
「うん! ってか、大学から住所変わってなくてびっくりしたー」
「引っ越してるかもとか思わなかったの?」
「あー……もしちがったらそれはその時って思ってたとこ」
「そういうとこ、変わってないよねー」
「うん!」

 そう言って友達は、チューハイを手にしてプルタブを開ける。私も続いて開けると、かんぱーいと缶をぶつけ合ってお互いにグビグビ飲んだ。

「ってか、なんで急に来ようと思ったの?」

 と私が聞くと、友達がんーと笑みを浮かべた後、急に体をくっつけてきて頭を撫で始めた。

「なぁんか、X見ててさぁ。最近元気なさそうだなぁって思って。きみの彼氏? 最近、別の女の子との画像上げ始めてるしさぁ。そこからきみのツイートがなんだか元気なさそうで」
「あ、バレちゃった?」
「だから、もしかしたら元気なくしてるかなと思って来ちゃったぁ」

 そう思った瞬間、私の目から涙がこぼれた。

「そう、もう別れたの。その女、浮気相手ぇ」
「うわ、マジでクソじゃん! もう今日は飲もう!」
「うん、来てくれてありがとう」

 そう言って私は友達にくっつきながら勢いよく缶をあおった。

8/28/2024, 3:39:34 AM

お題『雨に佇む』

 顔がいい男は雨にうたれているとより一層魅力が増すものだ。私はテレビを見ながら思わず「尊い」とこぼす。
 横にいた夫がムッとした顔をしながら、なにを思ったのか急に外へ出た。今、外は大雨だ。
「えっ!? なに?」
 私もあとを追いかけると、夫がテレビの俳優の真似をして雨に打たれていた。正直夫はイケメンでもなんでもない。俳優と違って背が高いわけでもなければ、すらっとしていない。どちらかというと腹は出てるし、ガタイがいい。おまけに髪型も床屋で短く切ってきただけの清潔感しか備わってないものだ。正直、絵にならない。ただ、私が他の男にうつつを抜かしているのが気に入らないのだろう。推し活に関しては「いいよ」と言ってくれるくせにだ。
 私はため息をつくと、夫に
「そんなんで風邪ひいたらバカだから家に入んなね」
 と言う。その言葉に夫はすごすご戻っていく。私はゆるゆる洗面所に行き、バスタオルを持ち出すとそれを夫に渡す。
「えへへ。テレビの俳優は濡れてもこうやって君からバスタオル渡してもらえないもんね」
 と笑って言うから、アホなやつ、と私も呆れながら笑みを浮かべた。

8/26/2024, 11:39:49 PM

お題『私の日記帳』

 母から日課にするようにと渡された日記帳に日々の思ったことをいろいろと書いている。だけど、最近は学校生活のことなんて書くことが同じでつまらなくなってきたので、どうせならと、最近ハマっているコンテンツの推しを主人公にしてお話を書くことにした。ジャンルはBLだ。
 推しにはライバルとなるキャラクターがいて、公式ではお互いにバチバチしあっているけど、その関係性がエモくて興奮するから萌えるし今こうして形にしてしまっている。
 そうすると日々、日記を書くのが楽しくなってしまった。
 ある時、その内容が母にバレてしまった。べつに人の日記を読むという無粋なことはしない。ただ、日記帳を開きっぱなしにしていた私が悪いのだ。それがちょうど洗濯物を置きに来た母の目に入ってしまった。
 あわ、あわと震える私を横目にして、母は息をつくと
「ついてらっしゃい」
 と私をうながした。
 部屋から出て、案内されたのはうちのわりと大きな本棚だ。そのわきに鍵穴がある。母はそこに鍵をさしこむと、本棚をスライドすることができるようになり、そこには大量のうすい本が置かれているではないか。
「ママ?」
「勝手に見たのはごめん。だから私も、と」
「いや、あの……」
「どうやら血は争えなかったみたいね」
 そう言って母は謎にサムズアップした手を私に向けてきた。私は母も腐女子であった事実に困惑しつつ、またサムズアップしてなぜか母と乾杯みたいなことを交わした。

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