白糸馨月

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お題『香水』

 ここはある条件をクリアすると、誰でも魔法少女になれる世界の話。
 魔法少女は、小学生からなることが出来るけど、なるには魔法界と人間界の境にある太い幹を持つ巨大な大木に住む神様からの審査を受けなくてはいけない。
 小さい頃、いじわるな幼稚園の同級生に「あんたみたいに可愛くない子は魔法少女になんてなれないよ」と笑われて自信を無くしたけど、結果的に受かったのは私で、同級生は落ちた。
 魔法少女に必要なのは、『人を思いやれる優しい心』なのだと神様に言われた。魔法少女になってから六年が経とうとしているけど、まだ分からないままだ。
 
 魔法少女には変身アイテムがある。今は真ん中のボタンを押すと変身できるようになるカラフルなブローチを身に着けているが、最近、先輩の魔法少女から「香水もあるよ」と教えて貰った。
 それで今、私は大好きな先輩と一緒に魔法少女だけが入ることができる魔法道具店にいる。
 ここはいつも私が通う駄菓子屋さんみたいな魔法道具店と違い、内装が白くてきれいな香水や杖がたくさん並べられていた。先輩は

「道具の方が貴方を選んでくれるよ」

 と言った。なんの変身アイテムを使うかは、道具の方が選ぶというのはブローチを買った時と同じみたい。

「うわぁ……」

 しかし、香水はどれも可愛くおしゃれなデザインで、とても私が選ばれるとは思わなかった。なかには道具の方から試すまでもなく、「あんたにはまだ早いわよ」と語りかけてくるものまであるのだ。魔法少女をわりと長くやってるとそういうことがわかるのだ。
 なんだか選ばれる気がしないなぁ、と思ったその時。

「ぼくだよ、ぼく!」

 と語りかけてくる声が聞こえた。ちら、と見ると透明なはちみつのつぼみたいな小さな小瓶だった。蓋は小さな花の飾りがついてる。甘くてかわいい雰囲気がする香水瓶と、オレンジから赤、黄色にかけてグラデーションしている液体だった。
 私はドキドキしながらその香水瓶を手に取り、一吹きした。それだけでもすこし大人になったみたいでドキドキするのに、一瞬にして変わった衣装は白と黄色を基調としたいつも着ているものよりすこし大人っぽいものだった。

「わぁ、かわいいー!」

 先輩が歓声をあげ、店員さんも「相性バッチリですね」と言ってくれた。私はドキドキしながらも

「でも、高いんだろうな」

 とこぼすと、店員さんが「貴方は選ばれたのでお安くします」と言ってくれた。意外といつも行く魔法道具店とおなじだった。
 変身を解くと、さっそく会計に向かい、今まで依頼をこなしてきた分のマイルがたまっていたからそれで支払った。持っているマイルがギリギリ足りたので良かったと胸を撫で下ろす。

 しかし、これから私、香水で変身できるのか。
 そう思うと、自分がすこし大人になったみたいで気恥ずかしさを感じる。だけど、

「えへへ。これからよろしくねぇ」

 なんて、アイテムが甘えた感じで語りかけてくるからなんだか気が抜けてしまって、買ったばかりの香水瓶を撫でてあげた。

8/31/2024, 3:04:00 AM