白糸馨月

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7/8/2024, 10:55:31 PM

お題『街の明かり』

 会社から出ると、人々の喧騒と夜でも明るい街に毎回のように驚かされる。
 明るすぎる飲み屋街で、だいたいお店の前に客引きがいてたまに人と帰ったりしていると声をかけられたりする。
 会社がその中に位置しているからどうしてもこれは逃れようがない。騒がしいのも楽しくていいが、いつもこれだとさすがにしんどいと思う。
 かといって、僕の地元のように夜になると明かりが消えてお店がすぐに閉まってしまうような寂れた街も勘弁だ。
 飲み屋のキャッチをかわしながら帰路について、やっと自分の最寄り駅に着く。閑静な住宅街で、駅前はスーパーがあって、しばらく歩けば等間隔に並べられたランプが街をほんのり明るく照らす。
 家に着いて街の喧騒から離れられたことに安堵しながら、我ながらいい場所に住めたなと思う。

7/8/2024, 6:46:09 AM

お題『七夕』

 地元の商店街に大きな笹が用意された。そこには色とりどりの短冊がすでに吊るされている。
 子供から大人までこぞって短冊に願い事を書いている。
 正直、そのつもりはなかった。
 だが、お姉さんと目が合う。お姉さんは人懐こそうな笑顔を浮かべながら私に短冊を渡してきた。
 ペンは笹の前に用意された机の上のペンケースに置かれている。
 流されるまま参加した私は、切実な願いを短冊にこめた。

『最近忙しすぎて休日出勤が増えてます。たのむから休みをください!!!!』

7/7/2024, 2:50:20 AM

お題『友だちの思い出』

 いつも突拍子もない思いつきをする友達がいる。たとえば、小学生のくせにドローン使って教室を撮影してその時のいじめっこの悪事を明るみにしたり、
小中とバレンタインデーに屋台を作ってチョコを売り始めたり、高校の時学園祭でお化け屋敷で作為的に好き同士組ませて『吊り橋効果』でカップル成立し始めたり。
 こんなすごいことばかりする友達と距離を置いたり置かなかったりしながらやってきている。
 大学は別になって今は、社会人になってブラック企業でくすぶる日々だがある時そいつから連絡が来たんだ。
 そういえば、あいつは就職活動せずに地元でブラブラしてたなと思い出す。

「会社たちあげようと思うけど、お前も来る?」

 そんな連絡。

「なにしたいか決めてないの?」

 と返信したら、「うん」とすぐ返事が返ってくる。それから続いて返事がくる。

「ていうか今『東京駅』にいる」
「住む場所は?」
「今日は野宿しようと」

 思わずためいきをついてしまった。もしかしたら、こんな仕事以外なにもできない日々にピリオドを打てるのではないか、そんな気持ちはゼロではない。
 その話を聞きたいと思いつつ、やはり強烈な思い出を刻みつけてきた友達が、よく知ってるやつがホームレスみたいにごろごろしてるのは耐えられなかった。

「今からそっち迎えに行く、場所は?」
「駅前のこの辺かな」

 そう言って写真が送られてくる。友達が駅前のスペースでホームレスと楽しそうに缶ビールで乾杯してる写真だった。
 また思い出が一つ刻まれたところで、友達を迎えに行くべく俺は部屋を出た。

7/6/2024, 5:23:15 AM

お題『星空』

「うわぁ、きれぇい」

 一面の星空の中で彼女が両手を広げている。暗い空には星々がきらめいていて、丘の上に上がった俺もそれに圧倒された。
 彼女はくるくる走り回った後、丘の上で寝転がる。

「ねぇ、こうやると視界が星でいっぱいになるよ!」
「へぇ」

 俺も彼女の隣に寝転がると、視界いっぱいに広がるきらめく星々に「ほんとだ」とこぼす。

「でしょ! あっ、あれはねぇ夏の大三角形といって、あそこにあるのがアルタイルで、こっちにあるのがベガ。それでデネブを繋げて大三角形に……」

 俺はポケットに入れたリモコンのボタンを押した。途端に星空は一種にして消え、彼女もいなくなった。残っているのはうまいことでこぼこさせた山道を再現した広く白い部屋である。
 モテない俺は、モテるためのコミュニケーションを頑張るより仕事仲間と一緒に山道を再現したり、星空と『理想の彼女』のプロジェクションマッピングを作り上げた。
 理想の彼女の会話や行動パターンはAIに教育させている。

「可愛げは近づけたけど、解説しだすとプラネタリウムになってしまうしな。だけど、バカすぎるのもよくないし……」

 俺は寝転がりながら、考えをぶつぶつつぶやき始めた。

7/5/2024, 12:16:57 AM

お題『神様だけが知っている』

 おみくじを引いたら、『君はバレてないと思っているけど、神様の目はごまかせない』といったニュアンスのことが書いてあった。
 大吉であることを喜ぶ彼女の横で、俺は背筋が冷えていくのを感じる。
 いや、たかがおみくじだろ? ないないない
 そう思って頭を振ると、彼女が横から覗き込んでくる。

「中吉なんだ」
「あ、あぁ」

 言いながら、俺は木製のあちこち剥げた古いおみくじかけに向かと、そこにおみくじを折りたたんで結び始める。

「持ち帰らないの?」
「うん」

 彼女に話しかけられて、思わず手が震えてしまうのをこらえた。

 実は、彼女がいながら何人かの女の子と遊んでいる。
 彼女はかわいいけど、大学時代から七年ほど付き合ってきて、正直「彼女だけで人生終わるのがつまらない」というのが理由だ。
 彼女に内緒で行った合コンに友達が連れてきた巨乳で背が高い美女と遊んだのを皮切りに俺は何度か相手を変えながら遊んでいる。
 最近彼女から「あかぬけたよね」と言われるようになったが、彼女はぼーっとしてて天然だから気づいてないと思う。
 だが

『神の目はごまかせない』

 その言葉を見たくなくて、俺は結ぶとすぐにおみくじかけからはなれる。
 最近、そこまでベタベタしたがらなかった彼女が急に俺の腕を掴むようになってきたことに俺は都合よく「最近、可愛いことをしてくるな」と思考を塗り替えた。

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