お題『友だちの思い出』
いつも突拍子もない思いつきをする友達がいる。たとえば、小学生のくせにドローン使って教室を撮影してその時のいじめっこの悪事を明るみにしたり、
小中とバレンタインデーに屋台を作ってチョコを売り始めたり、高校の時学園祭でお化け屋敷で作為的に好き同士組ませて『吊り橋効果』でカップル成立し始めたり。
こんなすごいことばかりする友達と距離を置いたり置かなかったりしながらやってきている。
大学は別になって今は、社会人になってブラック企業でくすぶる日々だがある時そいつから連絡が来たんだ。
そういえば、あいつは就職活動せずに地元でブラブラしてたなと思い出す。
「会社たちあげようと思うけど、お前も来る?」
そんな連絡。
「なにしたいか決めてないの?」
と返信したら、「うん」とすぐ返事が返ってくる。それから続いて返事がくる。
「ていうか今『東京駅』にいる」
「住む場所は?」
「今日は野宿しようと」
思わずためいきをついてしまった。もしかしたら、こんな仕事以外なにもできない日々にピリオドを打てるのではないか、そんな気持ちはゼロではない。
その話を聞きたいと思いつつ、やはり強烈な思い出を刻みつけてきた友達が、よく知ってるやつがホームレスみたいにごろごろしてるのは耐えられなかった。
「今からそっち迎えに行く、場所は?」
「駅前のこの辺かな」
そう言って写真が送られてくる。友達が駅前のスペースでホームレスと楽しそうに缶ビールで乾杯してる写真だった。
また思い出が一つ刻まれたところで、友達を迎えに行くべく俺は部屋を出た。
お題『星空』
「うわぁ、きれぇい」
一面の星空の中で彼女が両手を広げている。暗い空には星々がきらめいていて、丘の上に上がった俺もそれに圧倒された。
彼女はくるくる走り回った後、丘の上で寝転がる。
「ねぇ、こうやると視界が星でいっぱいになるよ!」
「へぇ」
俺も彼女の隣に寝転がると、視界いっぱいに広がるきらめく星々に「ほんとだ」とこぼす。
「でしょ! あっ、あれはねぇ夏の大三角形といって、あそこにあるのがアルタイルで、こっちにあるのがベガ。それでデネブを繋げて大三角形に……」
俺はポケットに入れたリモコンのボタンを押した。途端に星空は一種にして消え、彼女もいなくなった。残っているのはうまいことでこぼこさせた山道を再現した広く白い部屋である。
モテない俺は、モテるためのコミュニケーションを頑張るより仕事仲間と一緒に山道を再現したり、星空と『理想の彼女』のプロジェクションマッピングを作り上げた。
理想の彼女の会話や行動パターンはAIに教育させている。
「可愛げは近づけたけど、解説しだすとプラネタリウムになってしまうしな。だけど、バカすぎるのもよくないし……」
俺は寝転がりながら、考えをぶつぶつつぶやき始めた。
お題『神様だけが知っている』
おみくじを引いたら、『君はバレてないと思っているけど、神様の目はごまかせない』といったニュアンスのことが書いてあった。
大吉であることを喜ぶ彼女の横で、俺は背筋が冷えていくのを感じる。
いや、たかがおみくじだろ? ないないない
そう思って頭を振ると、彼女が横から覗き込んでくる。
「中吉なんだ」
「あ、あぁ」
言いながら、俺は木製のあちこち剥げた古いおみくじかけに向かと、そこにおみくじを折りたたんで結び始める。
「持ち帰らないの?」
「うん」
彼女に話しかけられて、思わず手が震えてしまうのをこらえた。
実は、彼女がいながら何人かの女の子と遊んでいる。
彼女はかわいいけど、大学時代から七年ほど付き合ってきて、正直「彼女だけで人生終わるのがつまらない」というのが理由だ。
彼女に内緒で行った合コンに友達が連れてきた巨乳で背が高い美女と遊んだのを皮切りに俺は何度か相手を変えながら遊んでいる。
最近彼女から「あかぬけたよね」と言われるようになったが、彼女はぼーっとしてて天然だから気づいてないと思う。
だが
『神の目はごまかせない』
その言葉を見たくなくて、俺は結ぶとすぐにおみくじかけからはなれる。
最近、そこまでベタベタしたがらなかった彼女が急に俺の腕を掴むようになってきたことに俺は都合よく「最近、可愛いことをしてくるな」と思考を塗り替えた。
お題『この道の先に』
スマホの録画ボタンを押して配信を始めると、テンションを上げた友達が慣れた様子でベラベラ喋り始めた。
「はいっ! 今日はですねー、最近噂の心霊スポットに行きたいと思いまーす! この道の先にいったいなにがあるのか。早速見に行きたいと思いまァースッ!」
語尾がこなれているのが他のYoutuberなら気にならないが、友達が相手だとこうも共感性羞恥というものが湧いてくるものなのかと思う。
それに今回行くのもただの何の変哲もない廃病院でどう考えてもなにも出ない。だが、友達は物音がするたびオーバーリアクションをとっておけば平気だって言ってのけている。
呆れてモノも言えないでいる俺をよそに
「いっやー、しっかし周りになにもない! これが嵐の前の静けさってヤツでしょうか。こういうのがかえって、怖さが増すんだよねー! おぉっ! 見えてきました! あれが噂の廃病院です!」
友達が一目散に走っていくので、その後を追う。視線の先はたしかに廃病院だが、白い外装がツタに覆われているだけでどうせとくになにもないんだろう、と思ってしまう。
病院の前まで着くといったん足を止める。友達がニヤニヤしながら、急に小声になり
「では、なかに入ろうと思いまぁす。おじゃましまーす」
と扉をゆっくり開けた。俺もそれに続く。あたりは静まり返っていて、なにもない。
「入口は、なにも変わった様子はありません。ですが……」
と言いながら奥へと進んでいく。が、友達が足を止めた。予定では忍び足で進んでいくはずだったが、俺と友達以外にもう一つ足音が聞こえてきているのは気の所為ではないだろう。
「おい」
振り返った友達の顔はまっさおだ。本当に恐怖におののいて震えている。
「俺の目の前にいるのはなんだ?」
友達が指を差したので俺はその方向にカメラを向けた。それは、黒いもやがかかっていて何が何だかよくわからない。撮影しているスマホの画面にも映らない。友達がいるだけ。
だが、次の瞬間友達が黒いもやに覆われ大きな叫び声を上げながらどこかへ消えていってしまった。
突然のことに俺は思わず友達の名前を叫ぶ。だが、目の前には診察室へ続く廊下があるだけだった。
カメラは回っている。俺は深呼吸して口を開いた。
「撮影係のヨシダです。今、大変なことになりました。信じられないかもしれませんがご覧の通り、ハヤトが黒いもやに覆われてどこかへ連れて行かれたようです。彼は一体どこへ消えてしまったのか、そのゆくえを今から探ってみたいと思います!」
ヨシダは本名ではないが、いつも配信を見てくれている人には名が通っている。『ハヤトの相方』として。
いつも俺は表舞台に出ず、友達がバカやっているところを動画におさめているのだが、今回はイレギュラーが発生している。
正直、気分が高揚している。心臓の鼓動がいつもより激しく高鳴っているのは走っているからだけではないことを俺は自分で理解していた。
お題『日差し』
こんなクソ暑い時期ほど、在宅勤務で良かったなぁと思う。外に出れば湿気をおびた空気がむわっと襲いかかり、頭上から日差しがこちらをオーブンレンジみたいにじわじわ焼き尽くそうとするから家から出たくないのである。
在宅勤務であれば、クーラーをきかせた部屋で冷たい飲み物を好きなタイミングで飲みながら作業できるからいい。外の気持ち悪い空気にふれることなく、日差しに焼かれることもない。
たまに出社しないといけない時が大変だ。在宅勤務で体力が低下していて、普通に歩くだけでも疲れるのに湿気と太陽光のダブルパンチを食らうのだからいつも以上に体力が削られる。こういう時は、せめて日差しからガードするために日傘をさして常時日陰状態にして、せめてもの抵抗を試みるのだ。