【神様が舞い降りてきて、こう言った】Other Story:B
周りに評価を聞けば、ほとんどが「良い人」と答える。
ただそれは言葉通りでなく、(都合の)良い人という意味。
頼まれごとは断らないし、不平不満も言わない。
事なかれ主義な自覚はあるが、性分だから変われない。
「ほんと損な性格してるよな、お前」
小学生以来の幼なじみは諦めたみたいで苦笑い。
「僕もそう思うよ」クラス全員分のノートは重い。
それでも手を貸してくれて助けられている。
「そろそろ断ることも覚えろよ?」無理だろうけど。
そんな副音声が聞こえるのは気のせいか。
「俺にできることなら手伝ってやれるけどさ」
わかるよな、と物言いたげな目が僕を射抜く。
最近、幼なじみからの小言が増えてきた。
僕も迷惑をかけるのは本意ではないから改めないと。
変われない、というのは思い込みかもしれないし。
そんな事を考えていた帰り道、事件は起きた。
まさに青天の霹靂。晴天から落ちた一筋の光。
その軌道をなぞるように降ってきた、一人の少女。
思わず空を見上げた。とても現実だとは思えない。
重力を感じさせない速度でゆっくりと落ちてくる。
ふわりと地面に横たわり、少しして目を覚ました。
「あの。大丈夫ですか?」問うと、少女は目を瞬く。
何も言葉を発さないまま、物珍しそうに周りを見回して。
「私は『あの』なの?」一瞬、理解ができなかった。
「たぶん違うと思いますよ」知らないけど、たぶん。
話を聞くと、封じられた力が名前に紐づいているらしい。
「一緒に調べてくれる?」期待に目を輝かせる少女。
「……いや」断るべき場面もある。今は心からそう思う。
【鳥かご】Other Story:B
無くしたくない大切な物をどう管理するか。
僕はいつでも見える位置に置いておく。
ちらと目を向けるだけで、そこにあるとわかるように。
では、形のないモノはどう管理するべきだろう。
見えないモノは存在しないも同然。
だから何度でも、しつこいほどに確かめないと。
仕舞っているだけなら定期的に表に出せばいい。
そもそも目に見えないモノは、信じることにした。
言葉で。行動で。君は懸命に伝えようとしてくれる。
僕が疑うと、何度でもここにあると教えてくれる。
だから僕も信じることにした。君だけは。
それが目に見えない最たるモノ、心だとしても。
結婚するとき、僕は条件を出し、君は一つの約束をした。
条件は二つ。まず、君が専業主婦になること。
そして外出するなら連絡するか、書き置きを残すこと。
君は頷いた。僕を不安にさせる言動はしない、と。
君のいる生活は、想像よりもずっと安らぎで満ちていた。
「行ってらっしゃい」「お帰りなさい」「お疲れさま」
その言葉があるだけで明日も頑張ろうと思える。
君が言葉を惜しまない分、僕も行動で尽くしたい。
「週末、友達と遊びに行ってもいい?」君のお願い。
もちろん、と僕は笑顔で返す。脳内では葛藤。
外で何かあったら。もしも帰ってこなかったら。
不安を隠して送り出した。
君のため。そう考えた末の選択を、後悔している。
〈今どこ?〉〈何してるの?〉〈いつ帰ってくる?〉
何時間経っても未読のままで、返事がない。
やっぱり、外に出したらいけなかったんだ。
【友情】Other Story:B
スキ、キライ、スキ、キライ、スキ。
一枚ずつちぎる私の呟き、誰にも聞こえていないよね。
花弁の枚数が奇数だと信じて「スキ」から始める。
運任せにみせかけたイカサマ占い。
でも、やっぱり、「キライ」であってほしいかも。
スキなら告白する。キライなら秘めたまま。
勝手に決めた自分ルールで失敗すること2回。
二度あることは三度ある。三度目の正直でも喜べない。
キライ、スキ、キライ、スキ、キライ。
禿げていくたんぽぽが可哀想に思えてきた。
どんな花でも良かったけど、これを選んだ理由は単純。
花弁が多くて、どこにでもある花だから。
それから、少しの憧れもあるかもしれない。
アスファルトを割って咲く力強いイメージ。
何度踏まれても立ち上がり、道の端で輝いている。
その姿を眩しく思いながら、摘み取った。
スキ、キライ、スキ。枚数が減るほどに察する。
これ、「キライ」で終わりそう。
ほっと息を吐いた私の意気地なし。
告白しなくていいんだ、って。安心してしまった。
最後までちぎるのが惜しくなって、くるくる回す。
残るは8分の1ぐらい。こんな行為に意味はないのに。
じっと見つめて考える。再開しようとして手が止まった。
あれ。次はどっちだっけ。
スキ? キライ? わからない。
思い出せないのをいいことに、ぶちっとまとめてちぎる。
曖昧にした結果はまた次の機会に預けて。
今はまだ、変わらない関係に甘えていたい。
【もしもタイムマシンがあったなら】Other Story:B
占いは信じないタイプ。だって胡散臭いし。
特に許可を得ているのか怪しい、路地に構えた露店。
顔の一部でも布で覆っていればなお疑わしい。
そんな典型に、いま捕まっている。
「そこのお姉さん。強い後悔の念が見えますよ」
唐突に話しかけられたら不審者だとしか思えない。
「気のせいです」足を止める価値すらない。
誰にでも当てはまることを言うのは定番の手法だ。
「過去に戻りたいと思ったことはありませんか?」
「ありません」戻りたいと思えばいつでも戻れた。
それを可能にする機械は私の生前から存在するのだから。
近年では小型化され、腕時計型やペンダント型もある。
軽量化、ポータブル化のうえ大量生産されて安価に。
今や携帯電話のように誰でも手に入れられる時代。
時間旅行がビジネスになるほど一般化している。
しかも、いくら干渉しても現実世界への影響はないとか。
「もういいですか」振り切って歩く速度を上げる。
どうでもいい話に費やせる時間など一秒もない。
自宅に戻ると、穏やかな笑顔が迎えてくれる。
惜しみたいのは、彼との時間だけ。
「僕はあるよ。過去に戻りたいって思ったこと」
不審な占い師の話をすれば、返ってきたのは意外な答え。
「君もあるよ、絶対に」言い切られるとそんな気がする。
あったのかな。考えるほどに、頭痛が、して、酷く……
「おはようございます。ご気分はいかがですか?」
「……ぁ」研究施設だろうか。大きなモニターがある。
いわく、都合の良い夢を見られるコールドスリープ。
彼との平穏な日々など、もうこの世にありはしないのだ。
【今一番欲しいもの】Other Story:B
彼女は姉の友人。生を受けて三年の差がある、遠い人。
初めて顔を合わせたのは、僕がまだ小学生の時。
姉と仲が良いらしく、制服姿のまま家に遊びに来た。
「わ、弟くん? お邪魔してます」丁寧な人って印象。
高校が分かれても二人の仲は変わらなかった。
毎月必ず遊びに来て、「大きくなったね」って笑う。
変わったのは、二人の間で色恋の話題が出ること。
誰が好き。誰と付き合った。誰と別れた。そんな話。
僕の部屋は姉の隣で、望まなくとも聞こえてしまう。
だから彼女が家にいる間、僕はなるべく部屋で過ごす。
壁にもたれて。動画の音は小さく。イヤホンはつけない。
別に気にしてはいないけど、聞こえるから。みたいな。
いわゆる恋多き女である彼女は頻繁に交際相手が変わる。
「また別れたの?」姉の驚く声も呆れに変わるほど。
何度繰り返しても期待して、傷ついて、涙を流す。
どれも本気の恋なのに、相手に別れを告げられる。
見る目ないな。誰も彼もが浮気性だなんて。
「私ってそんなに魅力ないかな……」そんなわけ、ない。
泣きそうな声に立ち上がり、座る。壁に背を預けた。
言えないよ。盗み聞きがバレたら嫌われそうだもん。
初恋。いや、そんなきれいなモノではないけど。
こじらせ続けて、僕は初対面の彼女と同じ年齢になった。
今日も彼女は隣の部屋で「振られちゃった」と嘆く。
「もう誰でもいいから私だけ愛してくれないかな」
きっと本心ではないだろう、投げやりな言葉に期待する。
誰でもいいなら、僕でもいいよね。それとも僕は対象外?
高校生になったら、なんて逃げてばかりでいられない。
過去に何人いてもいいから、最後には僕を選んでほしい。
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───────以下、同性愛(GL・百合)───────
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【今一番欲しいもの】Another Side:B
あなたが誰かを好きになる。私もその人を好きになる。
あなたが誰かと付き合う。私は嫉妬に狂い、求める。
あなたが誰かと別れる。私がその人と付き合い、慰める。
何度目かの繰り返し。いい加減、諦めればいいのに。
誰よりも近い後輩。その距離感では満足できない。
いつからこんな狂気的な想いを抱くようになったっけ。
部活の先輩後輩。関係の始まりは普通でありふれていた。
次第にあなたの存在が大きくなって、特別になるまで。
やりたいことがたくさんある。
手を繋いで、ハグをして。それから添い寝も膝枕も。
行きたい場所もたくさんある。
水族館に遊園地。オシャレなカフェとか、お家とか。
どれもこれも、あなたとでないと意味がない。
同性の後輩って立場は便利で、遠慮も警戒もされにくい。
休日に出かける約束をして、惚気話を引き出した。
優しくて、鈍くて、本当に可愛くてたまらない。
相手の名前さえ分かれば簡単に特定できる。
仕組んだ偶然を運命と偽れば、馬鹿な男はすぐ騙された。
ああ、くだらない。この程度でもあなたと付き合える。
私のほうが強い想いを持っているのに。
いくら望んでも、あなたはこの手に落ちてくれない。
でも、そうだよね。だってあなたは異性を好きになる。
あなたを、同性を好きになる私とは絶対に交わらない。
それなら。せめて。
あなたを傷つける残酷な行為だとわかっている。
手の届かない、触れることさえできない場所が羨ましい。
そこに収まれる男が妬ましくて仕方ない。だから、ね。
幸せになってよ、私なんかになびかない人と。