【今一番欲しいもの】Other Story:B
彼女は姉の友人。生を受けて三年の差がある、遠い人。
初めて顔を合わせたのは、僕がまだ小学生の時。
姉と仲が良いらしく、制服姿のまま家に遊びに来た。
「わ、弟くん? お邪魔してます」丁寧な人って印象。
高校が分かれても二人の仲は変わらなかった。
毎月必ず遊びに来て、「大きくなったね」って笑う。
変わったのは、二人の間で色恋の話題が出ること。
誰が好き。誰と付き合った。誰と別れた。そんな話。
僕の部屋は姉の隣で、望まなくとも聞こえてしまう。
だから彼女が家にいる間、僕はなるべく部屋で過ごす。
壁にもたれて。動画の音は小さく。イヤホンはつけない。
別に気にしてはいないけど、聞こえるから。みたいな。
いわゆる恋多き女である彼女は頻繁に交際相手が変わる。
「また別れたの?」姉の驚く声も呆れに変わるほど。
何度繰り返しても期待して、傷ついて、涙を流す。
どれも本気の恋なのに、相手に別れを告げられる。
見る目ないな。誰も彼もが浮気性だなんて。
「私ってそんなに魅力ないかな……」そんなわけ、ない。
泣きそうな声に立ち上がり、座る。壁に背を預けた。
言えないよ。盗み聞きがバレたら嫌われそうだもん。
初恋。いや、そんなきれいなモノではないけど。
こじらせ続けて、僕は初対面の彼女と同じ年齢になった。
今日も彼女は隣の部屋で「振られちゃった」と嘆く。
「もう誰でもいいから私だけ愛してくれないかな」
きっと本心ではないだろう、投げやりな言葉に期待する。
誰でもいいなら、僕でもいいよね。それとも僕は対象外?
高校生になったら、なんて逃げてばかりでいられない。
過去に何人いてもいいから、最後には僕を選んでほしい。
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───────以下、同性愛(GL・百合)───────
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【今一番欲しいもの】Another Side:B
あなたが誰かを好きになる。私もその人を好きになる。
あなたが誰かと付き合う。私は嫉妬に狂い、求める。
あなたが誰かと別れる。私がその人と付き合い、慰める。
何度目かの繰り返し。いい加減、諦めればいいのに。
誰よりも近い後輩。その距離感では満足できない。
いつからこんな狂気的な想いを抱くようになったっけ。
部活の先輩後輩。関係の始まりは普通でありふれていた。
次第にあなたの存在が大きくなって、特別になるまで。
やりたいことがたくさんある。
手を繋いで、ハグをして。それから添い寝も膝枕も。
行きたい場所もたくさんある。
水族館に遊園地。オシャレなカフェとか、お家とか。
どれもこれも、あなたとでないと意味がない。
同性の後輩って立場は便利で、遠慮も警戒もされにくい。
休日に出かける約束をして、惚気話を引き出した。
優しくて、鈍くて、本当に可愛くてたまらない。
相手の名前さえ分かれば簡単に特定できる。
仕組んだ偶然を運命と偽れば、馬鹿な男はすぐ騙された。
ああ、くだらない。この程度でもあなたと付き合える。
私のほうが強い想いを持っているのに。
いくら望んでも、あなたはこの手に落ちてくれない。
でも、そうだよね。だってあなたは異性を好きになる。
あなたを、同性を好きになる私とは絶対に交わらない。
それなら。せめて。
あなたを傷つける残酷な行為だとわかっている。
手の届かない、触れることさえできない場所が羨ましい。
そこに収まれる男が妬ましくて仕方ない。だから、ね。
幸せになってよ、私なんかになびかない人と。
7/22/2024, 9:03:37 AM