愛颯らのね

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5/15/2024, 1:44:17 PM

お題 後悔

きっと多くの人が〝後悔〟を抱えてると思う。

でも僕は基本的に後悔なんてしない人だった。

自分がその時そっちのがいいって考えて動いたのだから
それを否定するなんて、過去の自分が可哀想だと思う。

それにそれが人生に大きく影響することは
今まで1度もなかった。

どうにかなるって精神で生きてきたから、余程のことがない
限り慌てることはなかった。


今この現状を知るまでは──


彼女は今、生死をさまよっている。

集中治療室で色んな人に囲まれている。

僕のせい、全部僕のせいなんだ。

僕が判断を誤った。
あの瞬間、初めて判断を間違えた。


──数時間前──

最近の僕はおかしい。
特にいつも一緒にいる幼なじみの琉楓といる時。

ものすごくモヤモヤする。
油断したら叫び出しそうだ。

それだけではない
こっちを見られるとドキドキするし、少し肩を触られただけ
なのにそこに意識が集中してしまう。
僕以外の男子と喋ってる時は特になんとも言い難い感情に
悩まされる。

このモヤモヤが気になって夜も眠れない。

そんな僕のことも知らずに今日も琉楓が話しかけてくる。
いつもはくだらない話をマシンガンのように話すのに
今日は違った。

なにか悩むような顔をしながら音のない時間が流れる。

意を決した様な顔をしてからやっと口を開いた。

「最近の光輝少し変じゃない?
なんかぼーっとしてるっていうか。」

自覚はなかった。
でも思い返すと、そんな気がしなくもない。

『大丈夫だよ。琉楓の気のせい。』

そう。これは全部気のせい。

そう思う他、自分をおちつける方法を知らなかった。

「光輝。ちゃんと話して?さすがに私でもわかるよ?」

イライラする。
そもそも琉楓のせいでモヤモヤしてるのに。

「ねぇえ。話してくれないとわかんないよ?」
「私なら大丈夫でしょ?いつも一緒にいるじゃん!」
「私に言えないようなことがあるの??」

この瞬間。僕の中で何かが切れた音がした。


パチーン!!


え?

響き渡る甲高い音は君の頬から。僕の手から。

僕は今、琉楓を叩いた…?

嘘だ。そんなはずない。

そう思いたい気持ちとは裏腹に、僕の長く伸びた爪が当たったのだろう。彼女の頬から血が流れる。

『ご、ごめん。わざとじゃなくっ「最低!」

綺麗な栗色の瞳はゼリーのように揺れていて、今にも
感情の雫がこぼれ落ちそうだった。

「私は、ただ光輝のことが心配なだけなのに!」

彼女は走り出した。

まって。ダメだ!顔をあげてくれ!気づけ、気づいてくれ!!

『るかーーー!!!』


さっきの音とは対称的な、低くて鈍い音が響き渡る。


広がる真っ赤なものを見て、、
それが僕の最後の記憶だった。




気がつくと、琉楓の手術は終わっていた。

一命は取り留めたものの、いまだ安心できない状況らしい。
意識が戻ったとしても、頭を強く打ったから後遺症が残る
可能性も高いとか。

それでも今の僕には、まだ琉楓が生きる可能性があることが
この上なく嬉しかった。


『琉楓、琉楓、琉楓。早く目を覚ましてくれ。
やっとこの感情の正体がわかったんだ。君が目を覚まし
たら伝えるからさ、早く起きてよ。』

それから僕は、毎日毎日琉楓病院へ通った。
直接会える日は少なかった。それでも僕は通い続けた。


ある日、いつも通り病院を訪れると、いつもと違う場所に
案内された。

そこは、一般病棟だった。

やっと、やっとだ。

るかが目を覚ました。一般病棟で生活できるようになった。

言葉では言い表せないほどの嬉しさを抱えて、
ずっと言いたかった言葉を準備する。

今はドアの目の前。
これを開けたら、琉楓がいる。

ドクドク動く心臓を感じる。

ひとつ深呼吸をして、ドアノブに手をかける。
ぐっと力を込めて横に大きく引いた。

『琉楓!』

あぁ。琉楓だ。
傷だらけになっているけど、栗色の瞳は変わらず美しかった

『琉楓、僕ね、わかったんだよ?いつもるかといる時に
感じてた感情が何かね?』

何かがおかしい。
琉楓なのに、琉楓じゃないみたいだ。

『琉楓?』

そういえば、せっかく意識が戻ったのに、隣にいる
琉楓のお母さんは静かに泣いている。

『琉楓?どうしたの?』


「すみません。あなたは、誰ですか?」

5/14/2024, 11:22:12 AM

お題 風に身を任せて


今日も風に身を任せて歩き始める。

毎週土曜日。

最低限の荷物とカメラだけ持って、ふわふわと歩き出す。

どこに行くかは決めていない。

ただ何も考えないで、風の声を頼りに歩いていく。

時々立ち止まって、カメラを構える。

うん。いい感じ。

なんとなく来てみた少し高いところにある公園から撮った
私の住む町の写真。

あまり好きな町ではないけど、写真撮して見ると綺麗だった

カメラは表面上の世界しか映せない。

それが羨ましく思うこともよくある。

そんなことを考えながら、近くのベンチに腰をかける。

ひと休憩というやつだ。

すると、こんな時間に珍しく私と同じくらいの歳の男の子が
前から歩いてきて、なぜか私の隣に座った。

それでも私は驚かない。

私は彼を知っているから。

『相変わらず朝早く撮ってるんだね。』

「早いっていっても、もう7時になるよ?」

『今日は僕が少し遅くなったからね。』

「いや。そもそも約束とかしてないし、なんでここにいるの がわかるの?」

『なんとなくだよ。今日は風が教えてくれた。』

「なにそれ。」

突拍子もないことを言われてふっと笑ってしまう。

私が笑えるのは、晴れている土曜日の朝だけ。

しかも少し変わった君が来た時限定。

それ以外の世界は面白くない。

ただ辛いだけの世界。

そんな世界から出たくて、土曜日の超早朝
まだみんな寝てて世界が動いてるかも分からないような時間

そんな時間の写真をいつも撮っていた。

ある日いつも通り写真を撮ってたら、不意に強い風が吹いた

砂埃は目に入りそうで目を瞑る。

風が止んで目を開けると、誰もいないはずの時間、
私だけの世界の時に、1人の青年が立っていた。

透き通りそうな白い肌に、少し茶色がかった髪の毛。

淡く笑みを浮かべながらこっちを見ていた。

『君は、こんな時間に何をしているの?』

「君こそ。まだ普通の人が動く時間じゃないよね。」

『じゃぁ、僕は普通じゃないのかもね。』

「それじゃ、私も普通じゃないかも。」

お互い顔を見合せて笑顔を零した。

あぁ久しぶりに笑えたな。

それから私たちは、予定を合わせるわけでも、連絡を取るわけでもないけど、時々誰もいない世界で君と二人で会っていた。

その時間が私にとって1番楽で楽しくて幸せな時間だった。

こんな時間がいつまでも続いて欲しかった。


この次の週に来たのが、君じゃなくて
君のお兄さんで、お兄さんから
風が君を遠くの遠くまで連れて行ってしまったなんて
聞くことを今の私は知る由もなかった。


5/11/2024, 2:01:44 PM

お題 愛を叫ぶ


「好きだー!!!!」

私はほぼ毎日、この誰もいない丘で好きだと叫んでいる。

誰かに見られたら確実に怪しまれる。

それでもこの行き場のない好きを叫び続ける。

私が好きなのは、幼なじみの颯人。

小さい頃からいつも一緒で、いつも助けてくれる。

そんな私だけのスーパーかっこいいヒーローだった。

でもそんな思いも、今は持ってていいのか悩んでいる。

今日の声が小さいのもそのせいだ。

私は見てしまった。颯人が私以外の女子といるところを。

1度では無い。何度か一緒にいた。
凄く仲が良さそうだった。

その女子が颯人のことが好きなのかはわからない。

でも明らかに普通ではなかった。

嫌だって思った。

だって私の颯人だもん。
いつも私が1番でいてくれてたもん。

それなのに、

私はその場にしゃがみこむ。

誰もいないのをいいことに、我慢していた涙を流す。
壊れたように泣いた。泣き続けた。

「好きなのに。大好きなのに。」

『なにがそんなに好きなんだ?』

え!?

振り向かなくても分かる。
私の大好きな声。

「は、颯人?なんでここにいるの?」

『最近お前の様子がおかしかったから、探してた。
お前が来るならここだろうと思ったから、
すぐ見つかったけどな。』

探してくれてたんだ。
それだけで嬉しくて思わずのやけそうになる。

『で。どうして泣いてんの?何がそんなに好きなんだ?』

「颯人には、言えないよ…」

『なーんで。いつもなんでも喋ってくれてただろ?
なんでも聞くからさ?』

もういっそ、言ってしまった方が楽なのかもしれない。

そう思えてきた。

あぁ言ってしまおう。もうどうでもいいや。

「…颯人が好き。」

とても小さい声になった。

『え?もう1回言って?』

「だから、颯人が好きなの!」

言っちゃった。

『…そっか。』

やっぱ言わなきゃよかった。

コロコロと変わる感情に自分でもついていけなくなる。

『先に言われちゃったなぁ。』

ん?

「何を?」

『何をって、好きだって。』

「どういうこと?だって前…」

『俺、ずっとお前のことが好きなの。』

なんで。じゃぁ前いたのは誰?

『前いたのは従兄弟ね。』

え?え?

『お前、俺が他の奴といたの気にしてんだろ?
それは悪かったと思うけど 、従兄弟だから許してくれ。』

そっか。全部私の勘違いか。

そっか。そっか!そっか!やった!

「じゃぁ颯人は私の事好きなの!?私と付き合っ」

『まーって。俺が言いたいの。』

息を飲む。心臓からドクドク音がする。

『好きだよ。大好き。だから、付き合ってください。』

「はい。もちろんです!」

『あー好き。ほんと好き。好きだー!!!』

「ちょっと。急に叫ばないでよ〜。
まぁ私も毎日叫んでたけど笑」

こうして私たちの幸せな日々が始まりました。

5/11/2024, 4:04:35 AM

お題 モンシロチョウ

私の心の中には、いつもモンシロチョウがいる。
物心ついて少しした頃から確かいたと思う。

このモンシロチョウの正体を私は知っている。

これはきっと、私の母だ。

私の本当の母は、私が小さい頃に亡くなっている。

家も、写真も、母も、全て燃えてしまったから、
私は母の顔を知らない。

でも家が燃える前の日に、私はその家でモンシロチョウ見た

母と育てていた芋虫だった。

ちょうど前日にさなぎから蝶になった。

その瞬間に、子供ながら酷く心打たれたことを
鮮明覚えている。

それが母との最後の記憶。

だから私の心の中で、母はまだモンシロチョウとして
生きている。

困った時、辛い時、誰かと話したい時、私はいつも
心のモンシロチョウに話しかける。

でも最近、このモンシロチョウと話すだけではどうしようも
ならない問題に頭を抱えている。

家での私の立場

家が燃えた日、仕事で家にいなくてまだ生きている父と
しばらく2人で暮らしていた。

でもある日、
父は再婚した。

その再婚した女性には私の一個下になる娘もいた。

そして2人とも私を毛嫌いした。

私は母にあたる人の奴隷になった。
妹に当たる人の雑用係になった。

そして父はそのことに気づかなかった。

いや、多分気づかない振りをしていた。

唯一血の繋がった父に見捨てられたのが1番辛かった。

新しい服も学校で必要な物も買って貰えなかった。

人間は、自分と違う人間を除け者にする。

だから私は、虐められた。

約3年。耐えた。

でももう無理。生きていけない。

私は心のモンシロチョウに言った。

今から会いに逝くね。



5/9/2024, 1:04:15 PM

お題 忘れられない、いつまでも


「あんたのせいで忘れられなくなった!!もう許さない!」

そういって取り出した果物ナイフを振りかざすも、
闇雲な攻撃は全てかわされ、先に私が力つきた。

さすがに自分よりも大きな男性には勝てなかった。

『別に特別何かした訳ではないだろう?』

少し息の上がっている彼は、少し苦しそうだ。

夜の公園に急に呼び出されて殺されそうになったのにも
関わらず、正気を保っているあんたがまた尺に触れる。

「あんたが!私の人生を狂わせた!!あんたなんかいなければ!」

私の怒りは収まらない。
あんたに全て狂わされたから。

あれだけ優しくしてきて、好きにさせておいて

…あんなにこっぴどく振るなんて。

約2年。私に足りてなかった愛を
両手では持ちきれないほどたくさんくれた。

いっぱい遊んで喋って笑って。
〝特別〟をたっくさんくれた。

それなのに、それなのに、

浴びせられたのは私の心を壊すには十分すぎる言葉だった。

〔頑張りたいことあるから別れるって言ってるやん?〕
〔何回同じ説明させんの〕
〔お前といたせいで2年間人生無駄にしたわ〕
〔まじで邪魔だった〕

急に人が変わったようになった口調で私の心は壊れた。

毎日毎日泣いた。

そして、その悲しみはだんだん怒りに変わっていった。

なんで私を裏切ったの?
ずっと一緒って言ってくれてたよね?
私が1番って言ってくれてたのに、
私より大事なものがあるの?それってなんなの?

ウザイ、ウザイウザいウザいウザいウザいウザいウザい

だから今日呼び出した。

そして今、少しづつ距離を詰めている。

この奥にある壁は角になっていて、きっと逃げられない。

今日、殺してやる。

私は大好きだったのに。
大好きって言ってくれてたのに。

真後ろにある壁にもう逃げられないことを知ったのだろう。
彼の顔が少し曇った。

ふっと微笑んだ後、大きくナイフを振り上げる。

飛び散る血紅色。

少し遅れて響く汚い叫び声は…私の声。

彼が感じるはずの痛みは、今私が感じている痛み。

「お、お前、何を!」

『ふぅ〜危なかった。ちゃんと撮れてるかな〜。』

そう言っズボンのポケットからスマホを出して確認しだした

思い出すと、カメラだけが少し見えていた。

私は最後の力を振り絞り、お前を刺すため足に力を入れた。

…はずだったが、立てなかった。

『あ、無理に動かない方がいいよ。
といっても、多分もう死ぬけど。』

『じゃあね。今までたくさんのご迷惑ありがとう。」

嫌味を込めた言い方に腹が立つも、どうしようもできない。

あぁ、死ぬんだ。

最期に聞こえた声は、頭の中に響く

優しく名前を呼んでくれる、大好きな人の声だった。






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