愛颯らのね

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お題 後悔

きっと多くの人が〝後悔〟を抱えてると思う。

でも僕は基本的に後悔なんてしない人だった。

自分がその時そっちのがいいって考えて動いたのだから
それを否定するなんて、過去の自分が可哀想だと思う。

それにそれが人生に大きく影響することは
今まで1度もなかった。

どうにかなるって精神で生きてきたから、余程のことがない
限り慌てることはなかった。


今この現状を知るまでは──


彼女は今、生死をさまよっている。

集中治療室で色んな人に囲まれている。

僕のせい、全部僕のせいなんだ。

僕が判断を誤った。
あの瞬間、初めて判断を間違えた。


──数時間前──

最近の僕はおかしい。
特にいつも一緒にいる幼なじみの琉楓といる時。

ものすごくモヤモヤする。
油断したら叫び出しそうだ。

それだけではない
こっちを見られるとドキドキするし、少し肩を触られただけ
なのにそこに意識が集中してしまう。
僕以外の男子と喋ってる時は特になんとも言い難い感情に
悩まされる。

このモヤモヤが気になって夜も眠れない。

そんな僕のことも知らずに今日も琉楓が話しかけてくる。
いつもはくだらない話をマシンガンのように話すのに
今日は違った。

なにか悩むような顔をしながら音のない時間が流れる。

意を決した様な顔をしてからやっと口を開いた。

「最近の光輝少し変じゃない?
なんかぼーっとしてるっていうか。」

自覚はなかった。
でも思い返すと、そんな気がしなくもない。

『大丈夫だよ。琉楓の気のせい。』

そう。これは全部気のせい。

そう思う他、自分をおちつける方法を知らなかった。

「光輝。ちゃんと話して?さすがに私でもわかるよ?」

イライラする。
そもそも琉楓のせいでモヤモヤしてるのに。

「ねぇえ。話してくれないとわかんないよ?」
「私なら大丈夫でしょ?いつも一緒にいるじゃん!」
「私に言えないようなことがあるの??」

この瞬間。僕の中で何かが切れた音がした。


パチーン!!


え?

響き渡る甲高い音は君の頬から。僕の手から。

僕は今、琉楓を叩いた…?

嘘だ。そんなはずない。

そう思いたい気持ちとは裏腹に、僕の長く伸びた爪が当たったのだろう。彼女の頬から血が流れる。

『ご、ごめん。わざとじゃなくっ「最低!」

綺麗な栗色の瞳はゼリーのように揺れていて、今にも
感情の雫がこぼれ落ちそうだった。

「私は、ただ光輝のことが心配なだけなのに!」

彼女は走り出した。

まって。ダメだ!顔をあげてくれ!気づけ、気づいてくれ!!

『るかーーー!!!』


さっきの音とは対称的な、低くて鈍い音が響き渡る。


広がる真っ赤なものを見て、、
それが僕の最後の記憶だった。




気がつくと、琉楓の手術は終わっていた。

一命は取り留めたものの、いまだ安心できない状況らしい。
意識が戻ったとしても、頭を強く打ったから後遺症が残る
可能性も高いとか。

それでも今の僕には、まだ琉楓が生きる可能性があることが
この上なく嬉しかった。


『琉楓、琉楓、琉楓。早く目を覚ましてくれ。
やっとこの感情の正体がわかったんだ。君が目を覚まし
たら伝えるからさ、早く起きてよ。』

それから僕は、毎日毎日琉楓病院へ通った。
直接会える日は少なかった。それでも僕は通い続けた。


ある日、いつも通り病院を訪れると、いつもと違う場所に
案内された。

そこは、一般病棟だった。

やっと、やっとだ。

るかが目を覚ました。一般病棟で生活できるようになった。

言葉では言い表せないほどの嬉しさを抱えて、
ずっと言いたかった言葉を準備する。

今はドアの目の前。
これを開けたら、琉楓がいる。

ドクドク動く心臓を感じる。

ひとつ深呼吸をして、ドアノブに手をかける。
ぐっと力を込めて横に大きく引いた。

『琉楓!』

あぁ。琉楓だ。
傷だらけになっているけど、栗色の瞳は変わらず美しかった

『琉楓、僕ね、わかったんだよ?いつもるかといる時に
感じてた感情が何かね?』

何かがおかしい。
琉楓なのに、琉楓じゃないみたいだ。

『琉楓?』

そういえば、せっかく意識が戻ったのに、隣にいる
琉楓のお母さんは静かに泣いている。

『琉楓?どうしたの?』


「すみません。あなたは、誰ですか?」

5/15/2024, 1:44:17 PM