愛颯らのね

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8/9/2024, 3:29:09 PM

お題 上手くいかなくたっていい


手を伸ばせば雲に手が届きそうかも
なんて呑気なことを考えるには全く向いてない場所にいる私

今、私がいるのは山の中の崖っぷち。ボロボロのフェンスを跨いで来たここはあと一歩で知らない世界に行ける場所。
そこがどんなところかは知らない。きっと誰も。

こんなところにいても恐怖心一つ湧かなくなってしまった自分に思わず自嘲気味な笑みが零れる。
あ、久しぶりに笑えたかも。

笑えなかった人生。辛かった人生。
そんなことからも今日で解放されると思うと今すぐにでも
この一歩を踏み出してしまいたくなるくらいだ。

何も上手くいかなかった人生。

私は優しくなりたかった。
私の優しさは誰に気づかれず、空回りに終わった。

私は可愛くなりたかった。
私の肌が、体型が髪の毛が美しくなることはなかった。

私は友達が欲しかった。
私の周りにいたのは、いじめっこだけだった。

私はなろうとした。誰からも慕われる姉のように。
私は姉とは対象的になった。

母は姉を愛した。この世の何よりも。
娘という同じ立場の私は全くもって違う扱いを受けた。

何もかも、上手くいかない。
努力は報われない。

そんな人生も15年で終わり。
こんな終わり方だから来世に期待をすることはできないけど
それでも今よりもいい人生だったらいいなと思う。

さぁ、終わろうか。

セミの鳴き声がいっそう大きくなる。
私はくるりと後ろを向き、背中から落ちようと思った。

そこにいた、見覚えのある人を見るまでは。

「お兄ちゃん…?」
そう声に出した瞬間、お兄ちゃんはバッと走り出して
フェンスを挟んで私を抱きしめた。
『ごめんな。ごめんな。』
そう言って私の肩に涙を零した。
『もう、大丈夫だから。お前は本当に頑張った。』
なんのこと?そもそもお兄ちゃんは、ずっと一緒にいなかったから、私の事なんてほとんど知らないはず。

流されるようにフェンスの内側に帰ってきた頃には死にたいという気持ちよりも、聞きたい事のが多くあった。
しかし質問するまでもなく、お兄ちゃんは全て話してくれた

『今日な、8年ぶりくらいに帰ってきたんだよ。家に。
そしたら母さんと莉央がいて。真奈美は?って聞いたら、知らないって言って。家の雰囲気とかから何となく良くない感じがして、小さい頃お前とよく来ていたここに来てみたんだよ。』

莉央は私のお姉ちゃんの名前で真奈美は私の名前。
久しぶりに名前を呼んでもらえたことに思わず涙が流れる。

『お前のことだからきっと色々頑張ってたんだろ。昔から頑張り屋さんだもんな。』

「…でもっ、私全然ダメでっ、
なんにも上手くいかなくてっ、お姉ちゃんみたいに、
なれなかったよぉ〜」

ダムが壊れたように泣き出す私の頭をお兄ちゃんは優しく
撫でてくれた。

『うまくいなかくてもいいじゃん。やろうとしただけ真奈美は偉いよ。偉い偉い。』

『だからさ、今度からは一緒に頑張ろ?
もうあんな家には返さないよ。』

お兄ちゃんとお父さんは私たちとは別に住んでいた。
両親の仲が悪いせいで私たちは7歳の頃に離れ離れになった
当時お兄ちゃんだけは私と仲良くしてくれて、お兄ちゃんの横が私の唯一の居場所だった私にとって、とても悲しいことだった。そんなお兄ちゃんとこれからは一緒。
私は心が踊った。こんな感覚は初めてだ。

私は、うんうんと首を縦に振ってお兄ちゃんに抱きついた。
『よし真奈美!すぐに荷物をまとめるぞ!』
「おーう!」

小さい頃に戻ったように私は明るくなれていた。
自分でも驚くほどだ。数分前まで死のうとしていた人間とは思えない。これか本当の私だったのか。

それから私たちは、少し強引だったけど元いた家を抜け出して、お父さんと大好きなお兄ちゃんに囲まれて新しい人生を
歩み始めました。

7/12/2024, 11:53:51 AM

お題 これまでずっと

7/7/2024, 12:47:33 PM

お題 七夕


今日は七夕。

私は大好きな彼氏のまさくんと一緒に七夕祭りに来ているの!

七夕祭りでは、織姫と彦星のお話の読み聞かせがあった。

私はあんまりお話を知らなかったから興味津々だったの。
でもまさくんはどこか暗い顔をしてた。

少し悲しいお話でもあるからかな?

「まさくん。私たちはずっと一緒だから大丈夫だよ?」
まさくんは、笑ってくれると思って言った。
でも、まさくんはより一層悲しそうな顔をしたの。

どうしよう。おかしなこと言っちゃったかな。

「…あ、あっちで短冊書けるよ?行こ!」
少し強引だったけど、
まさくんの暗い顔は見てたくなかったから。


「すごーい!いっぱい書かれてるね!私達も書こ?」
『…こんなもの、書いてもしょうがないよ。』
え??
「まさくん?どうしたの?大丈夫?」
『ごめん。いいよ。書こ。』

ほんとにどうしたんだろう。
私のこと嫌いになっちゃったかな。
いやいや。あのまさくんが私のこと嫌いになるなんて
ありえないよね。でも、

私は短冊に[まさくんと一生一緒にいられますように]
って書いた。
まさくんは、ペンを持ってぼーっとしている。
「まさくんは何書くの?」
『…どうしようね。』

そういった彼の目には少し感情の雫が見えた。

「まさくん!?どうしたの?体調悪い?」

『ごめん。言わなきゃいけないことがある。』

心にぽっかり穴が気がした。

──雅人side─

今日は七夕。
俺は、ずっと彼女に隠してることがある。
そしてそれを今日、彼女に言おうと思う。

七夕の話を聞いてる時、俺は羨ましいと思った。
年に1回“も”会えるなんて。

そんなことを考えていたせいで君に心配をかけてしまった。
“ずっと一緒だよ”という言葉を言ってくれた君。
申し訳なさに落ち込む俺。

君はこんな俺にも優しくて、話題を変えてくれる。

それでも今日は日が悪い。

君は短冊を書きに行った。
しかも[まさくんと一生一緒にいられますように]
なんて可愛くて、嬉しいことを。
一生一緒!と幸せを分かちあっていたのはいつの事だっけ。
そんな思い出も、今の俺には残酷な記憶としか
思えなかった。

短冊に願い事を書いたところで叶わないことなんて
わかっている。
俺の願いは、短冊に頼むには大きすぎる。

それでも思いつくのはこの願いだけ。

そしてこれを書くには、この秘密を君に話さないといけない

俺の余命が、あと、半年もないということを。


───────────────────────────というあの日から僕の願っている世界を書き終えて
ふっと息を吐く。
君は生きて、僕が死ぬ世界。

あの日、3年前の七夕の日。
君は僕に泣きながら“あと半年で私は死ぬ”
といった。
結局彼女はそれから1年、半年も長く生きた。

それでもたった半年。
一生を誓った僕たちにはあまりにも短すぎる時間だった。
僕は、君を幸せにできただろうか。

そんなことを思いながら、3年前と同じお祭りに行って
一人で短冊を書く。
[彼女が今も、感じた幸せを覚えてくれていますように。]
傍から見たらおかしな文かもしれない。
それでも今の願いはこれしか無かった。

今日は七夕。
年に一度、君に逢える日。




7/2/2024, 12:52:22 PM

お題 日差し


暖かい日差しが冷たい世界に降り注いでいる。
こんな世界大嫌いだ。

こんな、あなたが消えた世界なんて。

他の女と仲良くするあなたなんて
私の知っているあなたではないもの。

こんなにいい天気の日でも、私が家から出るはずはない。
もうずっと、何もしていない気がする。
とてもじゃないけど、何もやる気にならない。

だって、
何を食べても味がしない。
何を見ても楽しくなんてない。
何を聞いても頭には入ってこな
何をしても浮かび上がるのはあなた。

こんな世界大嫌いだ。

だから私は、もう決めたの。

アイツに復讐するってね。

私の毎日をぶっ壊したアイツを苦しめてやりたい。
後悔させてやりたい。

なーに、殺してあげたりなんてしないよ。
もっと一生の苦しみを与えるの。

どうするかって?そんなの簡単。

私が死ねばいいのよ。

私のことが大好きだったアイツ。
そんなアイツへの愛を綴った紙を握りしめて死ぬ。

きっと、上手くいくわ。
あんなやつ、一生苦しんでしまえばいい。
心が死ねばいい。それでも生き続けてしまえばいい。
並大抵の人間は自死の決断など簡単にはできないもの。

そうと決まれば早速実行ね。

私の気分は高揚していた。あの暖かい日差しと同じね。
家に便箋なんてなかったから、コンビニまで買いに行く。

おっと、その前にやることがあったね。
もうこんな家に帰ってくるつもりは無いもの。

私は大きなゴミ袋を沢山用意した。
そして、目に見えるもの全てを放り込んでいく。
1番大切な物、一つだけ残して。

ゴミ袋に入るものは全て入れた頃には、日が沈み始めていて
日差しは濃いオレンジ色になっていた。
私は急いで真っ白い便箋と封筒、ペンを買った。

そして、近くのベンチで不格好な愛を綴る。

約5枚。書き終える頃には日差しはなくなり、月明かりに
静かに照らされていた。

さぁあとは死ぬだけね。

近くの山には立ち入り禁止の崖がある。
立ち入り禁止といっても、看板とロープが張られている程度

自殺には持ってこいの場所。
そして、よく知っている場所。


木々の間をすり抜けロープを超えると、
ぱぁっと視界が開けた。月明かりで少し眩しいほどだ。

愛の手紙はなくならないように肩掛けのカバンに入れて
薄いカバンをズボンで挟んだ。

よし、完璧。

やっと死ねる。死のう。

復讐まであと一歩のところまで行くと、かさかさっと
音がした。

嘘でしょ。熊??

黒い影がこっちに迫ってくる。
いくら死のうとしてたとはいえ、熊に食い殺されるのは
話が違うわ。

いっそ飛び降りようか。
そう思い体の向きを変えた時聞こえたのは
よく聞きなれた声だった。

「まって。」

なんで、なんでアイツがいるのよ。
ここに来ることは誰にも言っていないわ。
それでも私がアイツを見間違えるなんてことは
絶対にありえない。

「ここにいると思ってた。君ならここを選ぶと。」

そうか。アイツと出会ったのは他でもなくこの崖だったわ。

『なによ。今さら無駄よ。私は死ぬの。
それに、先にいなくなったのはあんたじゃない。』

「それは違うよ。だめ。だめだよ。お願い。生きて。」

そういうとアイツはこっちに走ってきた。
私は反応できなかった。
抱きしめられる。

あぁうざったいうざったいうざったいうざったい。
こういうところが大っ嫌い。死ねばいい。こんなやつ。

私はもしも崖から死ねなかった時用のナイフを取り出した。
それをきつく握って振りかざす。

アイツの鈍い声と血紅色が弾ける。
そのままナイフを抜いてやる。
流れ出生暖かい血紅色。

その時、私は直感的にこいつは死ぬってわかった。

そっか、今の私は人殺しだ。

本当は一生苦しめたかったけど、これもまた気分がいい。

んー私も死のうかな。
あなたのいない世界を生きる意味なんてないわ。

そうして私は、あの手紙を血紅色で染めてから
最期の1歩をゆっくりと歩いた。

左手首に輝くブレスレットは
私が唯一残した永遠に私が君のものという証だった。

{ブレスレットには“束縛”や“永遠”という意味がある}

6/17/2024, 9:53:02 AM

お題 1年前

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