お題 秋晴れ
今日は秋晴れ。
昨日まで雨だったから晴れはすっごく嬉しい。
だって今日は、
秋祭り
秋祭りと言っても私の地区で開かれる小さなお祭りだけど、
大事なのは誰と行くかだよね!
そう、そのお相手が…
私の最愛の彼氏なのです!
この前の夏に付き合ったばかりのだいっすきな彼氏。
受験生だから一緒に遊びにけることはほとんどなかった。
でも寂しくはないの。だって今日は会えるから!
集合場所はブランコの下。
集合時間より20分も早く来ちゃった。
それでも待ったのはほんの数分。タイトな黒ズボンの白い服の上に黒いジャケットを羽織っていた。
「ごめん、待った?」
「ううん!ぜーんぜん!楽しみすぎて早く来ちゃった。」
「俺も一緒。」
行こっかって彼が言ってさりげなく私の手を取った。
ドキンとしたのは多分彼も一緒。耳が真っ赤っかだもん。
そんなところも大好きだけど!
早速私たちは、ずっといい匂いがしていたキッチンカーの列に並んだ。お目当てはチーズハットグ。
だいぶ長い列かと思ったけど、2人でいればあっという間だった。チーズハットグは美味しくて、それから……
不意に眩しさを感じて目を開ける。
あぁ、朝か。
また同じ夢。もう何回目だろ。
さらに私を憂鬱な気分にさせたのは、壁にかかってる
カレンダー。
今日、10月19日欄には、小さく『秋祭り』と書かれていた。
体が重たくて、二度寝しようと思ったけど、
どうにも寝れなくて諦めた。
仕方なく起きて、顔を洗って、歯を磨いて、朝ごはんを食べる。いつもの朝。
そして気づいたら夜だった。
今日の夜は親が誰もいないから、お祭りで夜ご飯買ってねっ
言われた。
正直行きたくないけど、夜ご飯のためなら仕方ない。
可愛いヘアアレンジをしたり、かわいい服を選んだりすることも無く、それなりの服で1000円を握りしめて家を出た。
お祭りのやってる場所まで、こんなに遠かったっけ。
周りのことがこんなに気になったっけ。
お店の列はこんなに長かったっけ。
何も握っていない左手が寂しさを際立てた。
イヤホンで爆音で音楽を流しながら、わざわざ2回も並んで
唐揚げと焼きそばを買った。チーズハットグは、買わなかった。
目に入るカップルがこんなに鬱陶しく思うなんて知らなかった。
彼がいなくなってから、新しく知ることばかりだった。
もう、帰ろう。
目的は果たしたし、もうここにいる意味はない。
そう思ったけど、やっぱりお祭りの雰囲気には勝てなくて
少しだけ遠回りをして、お祭りを見て回ろうとした。
でも、それが間違いだった。
聞こえた気がしたんだ。私を呼ぶ声が。
一瞬、気づかなかったし、幻聴だと思った。
だってもう彼は、
そこには
薄く光る彼がいた。
永遠の別れをしたはずの、元彼が。
お題 放課後
遠くに聞こえるのは、吹奏楽部のきれいな音色と運動部の熱い声。誰もいない廊下に、私の足音だけが響く。
ちょっと前までうるさかったはずの学校とは思えないような雰囲気に何か特別なものを感じた。
ちょっとした恐怖心とか、この場所に今私しかいないっていう優越感とか、そんなもの。
優越感なんて言っても、教室に宿題を置いて帰っちゃったから取りに来てるだけなんだけどね。
(お、あったあった。よかったぁ。)
無事見つかった宿題たちを鞄に入れて立ち上がる。誰もいない教室というのも珍しいものだ。
とはいえ、誰もいないことを除けばただの教室なわけで、すぐに飽きて再び廊下を歩き始めた。
不意に無意識に目線が動いた。隣の校舎で誰かが動いたように見えたからだ。
何がおかしいって、そっちの校舎は旧校舎、つまり今はほとんど使ってないから人がいるのはおかしいはず。
どうにも気になった私は、意を決して旧校舎に入れる場所を探す。
(ここなら、入れるね。)
たまたま一か所、窓が開いてるところがあった。ご丁寧にふみ台まで置いてあって。
旧校舎の中は、今の校舎とは違い床とか壁が木でできていた。一歩歩くたびに、きしっとか、みしっとか音を立てている。
階段を上って、さっき人影が見えたあたりまで来た。そこには誰もいなくて、夕日によってオレンジ色に染まっていた。
何もないし、帰ろうと思ったときに廊下の突き当りから左にまだ道があることに気づいた。
(少し不気味だし、そろそろ帰りたいけど、せっかくここまで来たしちょっとくらい行ってみたいかも。)
恐る恐る曲がってみると、短い階段と、半開きになっている大きな扉があった。
扉の向こうからは冷たい替えが吹き抜けてくる。
覗いてみると、一人の男子が寝ころんでいた。
さっき見えたのは、このひとだろうか。
さて、覗き込んだはいいものの声をかける勇気はない。もともと私はコミュニケーション能力の低いほうだ。
それに加え、誰かもわからない人に何の用もないのに声をかけるなんて、
そんなことを考えていると、不意に心臓がどきりとした。
「なあ。」
「え?」
「お前だよ。さっきからなんか覗いてるお前。」
彼は変わらず寝ころんだまま、多分、というか絶対私に話しかけてきた。
「そんなとこにいないで、こっち、きたら?」
「は、はい。」
初めての屋上に、初めましての人。ドキドキしながらちょこちょこと彼のもとへ歩いた。
「なにしにきたの?」
あなたのことが気になってきましたなんて言えないよ!
「だんまりかよ」
ふっと笑った彼を見てとりあえず一安心と胸をなでおろす。
「え、えーと、あなたは何でここにいるんですか?」
「んー別に。」
「そ、そっか。」
どうしよう。会話が続かない。沈黙きまづい!
「お前、何年?」
「2年、です。」
「そっか。同い年か。」
え?同い年?
私の学校、そんな大きな学校じゃないけど、まだ知らない人いたのかな。
「転校してきたんだ、俺。もう3週間くらい前のことだけど。」
「転校生、か。」
それで知らなかったのか。
「なに?まだ話聞いてく?」
そう言いながら彼は起き上がった。
彼に興味がなかったわけではないので、うんうんと頷く。
すると彼は、「変な奴。」と言って笑った。
はて、そんなに変なことをしただろうか。
「また明日来いよ。その時話してやる。」
彼がそう言うのと同時に最終下校の音楽が鳴り始めた。
屋上で転校生に出会う。そんな非日常的なことが明日も起こるらしい。
次の日から彼のことを意識するようになったのは、言うまでもないことだろう。
お題 上手くいかなくたっていい
手を伸ばせば雲に手が届きそうかも
なんて呑気なことを考えるには全く向いてない場所にいる私
今、私がいるのは山の中の崖っぷち。ボロボロのフェンスを跨いで来たここはあと一歩で知らない世界に行ける場所。
そこがどんなところかは知らない。きっと誰も。
こんなところにいても恐怖心一つ湧かなくなってしまった自分に思わず自嘲気味な笑みが零れる。
あ、久しぶりに笑えたかも。
笑えなかった人生。辛かった人生。
そんなことからも今日で解放されると思うと今すぐにでも
この一歩を踏み出してしまいたくなるくらいだ。
何も上手くいかなかった人生。
私は優しくなりたかった。
私の優しさは誰に気づかれず、空回りに終わった。
私は可愛くなりたかった。
私の肌が、体型が髪の毛が美しくなることはなかった。
私は友達が欲しかった。
私の周りにいたのは、いじめっこだけだった。
私はなろうとした。誰からも慕われる姉のように。
私は姉とは対象的になった。
母は姉を愛した。この世の何よりも。
娘という同じ立場の私は全くもって違う扱いを受けた。
何もかも、上手くいかない。
努力は報われない。
そんな人生も15年で終わり。
こんな終わり方だから来世に期待をすることはできないけど
それでも今よりもいい人生だったらいいなと思う。
さぁ、終わろうか。
セミの鳴き声がいっそう大きくなる。
私はくるりと後ろを向き、背中から落ちようと思った。
そこにいた、見覚えのある人を見るまでは。
「お兄ちゃん…?」
そう声に出した瞬間、お兄ちゃんはバッと走り出して
フェンスを挟んで私を抱きしめた。
『ごめんな。ごめんな。』
そう言って私の肩に涙を零した。
『もう、大丈夫だから。お前は本当に頑張った。』
なんのこと?そもそもお兄ちゃんは、ずっと一緒にいなかったから、私の事なんてほとんど知らないはず。
流されるようにフェンスの内側に帰ってきた頃には死にたいという気持ちよりも、聞きたい事のが多くあった。
しかし質問するまでもなく、お兄ちゃんは全て話してくれた
『今日な、8年ぶりくらいに帰ってきたんだよ。家に。
そしたら母さんと莉央がいて。真奈美は?って聞いたら、知らないって言って。家の雰囲気とかから何となく良くない感じがして、小さい頃お前とよく来ていたここに来てみたんだよ。』
莉央は私のお姉ちゃんの名前で真奈美は私の名前。
久しぶりに名前を呼んでもらえたことに思わず涙が流れる。
『お前のことだからきっと色々頑張ってたんだろ。昔から頑張り屋さんだもんな。』
「…でもっ、私全然ダメでっ、
なんにも上手くいかなくてっ、お姉ちゃんみたいに、
なれなかったよぉ〜」
ダムが壊れたように泣き出す私の頭をお兄ちゃんは優しく
撫でてくれた。
『うまくいなかくてもいいじゃん。やろうとしただけ真奈美は偉いよ。偉い偉い。』
『だからさ、今度からは一緒に頑張ろ?
もうあんな家には返さないよ。』
お兄ちゃんとお父さんは私たちとは別に住んでいた。
両親の仲が悪いせいで私たちは7歳の頃に離れ離れになった
当時お兄ちゃんだけは私と仲良くしてくれて、お兄ちゃんの横が私の唯一の居場所だった私にとって、とても悲しいことだった。そんなお兄ちゃんとこれからは一緒。
私は心が踊った。こんな感覚は初めてだ。
私は、うんうんと首を縦に振ってお兄ちゃんに抱きついた。
『よし真奈美!すぐに荷物をまとめるぞ!』
「おーう!」
小さい頃に戻ったように私は明るくなれていた。
自分でも驚くほどだ。数分前まで死のうとしていた人間とは思えない。これか本当の私だったのか。
それから私たちは、少し強引だったけど元いた家を抜け出して、お父さんと大好きなお兄ちゃんに囲まれて新しい人生を
歩み始めました。
お題 これまでずっと
お題 七夕
今日は七夕。
私は大好きな彼氏のまさくんと一緒に七夕祭りに来ているの!
七夕祭りでは、織姫と彦星のお話の読み聞かせがあった。
私はあんまりお話を知らなかったから興味津々だったの。
でもまさくんはどこか暗い顔をしてた。
少し悲しいお話でもあるからかな?
「まさくん。私たちはずっと一緒だから大丈夫だよ?」
まさくんは、笑ってくれると思って言った。
でも、まさくんはより一層悲しそうな顔をしたの。
どうしよう。おかしなこと言っちゃったかな。
「…あ、あっちで短冊書けるよ?行こ!」
少し強引だったけど、
まさくんの暗い顔は見てたくなかったから。
「すごーい!いっぱい書かれてるね!私達も書こ?」
『…こんなもの、書いてもしょうがないよ。』
え??
「まさくん?どうしたの?大丈夫?」
『ごめん。いいよ。書こ。』
ほんとにどうしたんだろう。
私のこと嫌いになっちゃったかな。
いやいや。あのまさくんが私のこと嫌いになるなんて
ありえないよね。でも、
私は短冊に[まさくんと一生一緒にいられますように]
って書いた。
まさくんは、ペンを持ってぼーっとしている。
「まさくんは何書くの?」
『…どうしようね。』
そういった彼の目には少し感情の雫が見えた。
「まさくん!?どうしたの?体調悪い?」
『ごめん。言わなきゃいけないことがある。』
心にぽっかり穴が気がした。
──雅人side─
今日は七夕。
俺は、ずっと彼女に隠してることがある。
そしてそれを今日、彼女に言おうと思う。
七夕の話を聞いてる時、俺は羨ましいと思った。
年に1回“も”会えるなんて。
そんなことを考えていたせいで君に心配をかけてしまった。
“ずっと一緒だよ”という言葉を言ってくれた君。
申し訳なさに落ち込む俺。
君はこんな俺にも優しくて、話題を変えてくれる。
それでも今日は日が悪い。
君は短冊を書きに行った。
しかも[まさくんと一生一緒にいられますように]
なんて可愛くて、嬉しいことを。
一生一緒!と幸せを分かちあっていたのはいつの事だっけ。
そんな思い出も、今の俺には残酷な記憶としか
思えなかった。
短冊に願い事を書いたところで叶わないことなんて
わかっている。
俺の願いは、短冊に頼むには大きすぎる。
それでも思いつくのはこの願いだけ。
そしてこれを書くには、この秘密を君に話さないといけない
俺の余命が、あと、半年もないということを。
───────────────────────────というあの日から僕の願っている世界を書き終えて
ふっと息を吐く。
君は生きて、僕が死ぬ世界。
あの日、3年前の七夕の日。
君は僕に泣きながら“あと半年で私は死ぬ”
といった。
結局彼女はそれから1年、半年も長く生きた。
それでもたった半年。
一生を誓った僕たちにはあまりにも短すぎる時間だった。
僕は、君を幸せにできただろうか。
そんなことを思いながら、3年前と同じお祭りに行って
一人で短冊を書く。
[彼女が今も、感じた幸せを覚えてくれていますように。]
傍から見たらおかしな文かもしれない。
それでも今の願いはこれしか無かった。
今日は七夕。
年に一度、君に逢える日。